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マギカギア大戦   作者: 東山幸
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『西方防衛編』 序章

 俺はあの日殺されてしまったのかもしれない。

 (ぼう)(ぎゃく)なまでに人なつっこく。

 バカみたいにお人好しで。

 頭がおかしいとおもえるほどに都合の良い解釈しか受け付けない。

 そのおめでたい頭はある意味(うらや)ましい限りだ。

 俺の精神力を平気な顔でゴリゴリ削るそいつは俺にとっては荒ぶる神に等しい。

 ――もはや邪神のごとし。

 そいつの名はルージュティア。前世で親友であり、婚約者であり、魔法少女。

 そして今は希望と愛を司る”女神”だという。


 

 俺の名はユリス。ルティア(ルージュティア)と会うまでは神聖オラクル帝国内で認められた自治政府《オクシデンロード》に住む難民だった。オクシデンロードの民は魔法を詠唱ではなく機巧腕輪《ギアリング》に固定化された術式魔法を使って行使するのが一般的だ。俺はどういうわけかそのギアリングを全く使いこなせなかった。だから魔力がない無能者として周囲から侮蔑と貶みに晒されて生きてきた。


 そんな俺を守り励まし支えてくれたのが母のシスティナだった。慈愛の聖母のような優しさと容貌から一目置かれる存在だった。そのせいで貴族たちに目をつけられ保護という名の人質にされている。俺は機巧技術者としてなんとか大成し、その成果もって母を解放しようと努力した。そんな俺が疎ましかったのか帝国に比べるとかすんで消えるような弱小国にとばされた。


 その国の名はブリアント王国。人類の敵である『無魔』。ブリアント王国は無魔の大軍に攻撃され今滅亡へと追いやられている。俺のいた都市ベルモンテも例外ではなく侵攻を受け軍勢に囲まれた。さらに最悪なのが領主と直属の騎士団が夜逃げし、同僚たちも俺の研究を盗んで逃げだしていた。そこに住む民を見捨てて……。

 そのせいでベルモンテは抵抗する力もなくただ民が蹂躙されていく。俺も圧倒的な無魔の前ではただ狩られるだけの獲物にすぎなかった。


 それが女神ルティアと契約したことで一変した。

 俺は2つの前世の記憶を思い出した。

 前世はアレスとしての人生。妹フレアと大切な魔法少女たちを守るためにイーリスを命を賭けて封印した。そのことに後悔はない。イーリスは魔法少女の天敵であり、絶対スキル『権能』を複数使いこなす最凶の敵だった。

 

 更にその前世。現代日本でベンチャー企業の社長、北条真として生きた記憶。マコトの人生は後悔ばかりが残る人生だった。幼少から人にだまされ、人に利用され続けた。子供のように大切だった技術も大企業のイケメンCEOに奪われ、口封じに殺された。そのせいで俺のイケメン嫌いは魂に刻まれたような気がする。


 そして、今世ユリスの魂に2つの人生の記憶が混ざり合っていく。今はアレスが死んでからおよそ7ヶ月たった世界。ふと疑問に思う。単純な転生では時間軸が合わない。ユリスは現在16才だ。自分の身に何があったのか。わからないことだらけだ。記憶も混濁し、自分が誰なのかもあやふやで混乱している。それも時間がたつにつれて改善するのだろうか。

 俺は改めてルティアを見つめる。彼女と出会い前世の記憶を取り戻す少し前のことを思い出していた。

 ――――――

 ――――

 ――



 都市ベルモンテは無魔の大軍に包囲され、俺は人々を都市の奥に逃がすため(ほん)(そう)した。そのせいで1人取り残されるという(きゅう)()におちいっている。

 そんな中、視界にうつるのは人間離れした少女。思考が一瞬凍り付く。

 おっと、見惚れている場合じゃないな。まだ逃げ遅れた子がいるのか。

 恐怖より助けなければ。その一心で俺は駆けつける。


「はやく逃げるんだ」


 危機感もなく佇む少女にあらん限りの声で叫んだ。

 しばらくして既視感を覚えた。

 この少女とは何度か出会っている。あいにくと名前は知らない。だが強烈な印象だけは脳裏に残っている。


「君。逃げてなかったの?」


 時間を取り戻したように少女がゆったりとふり返る。そして、目を見開いた。視線は俺の怪我にそそがれる。


「もしかして怪我をしてまでわたしを探しに助けにきてくれたの?」

「いや、たまたま見かけたから……」

 目少女は静かに涙する。しとしととふる滴はなぜか俺の心をうった。

 なぜ泣く!?

 困惑を隠せない俺は言葉に詰まる。そして彼女は俺の想像を超える言葉を口にした。

 

「感動だよお~~」

「はっ?」

「わたしを心配して探し回って命を省みず助けようとしてくれるなんて」

「いや探し回ったわけじゃ……」

「これはもう運命だね」

「運命?」

「これは責任を取ってもらわないと」

「いやだから何の話?」

 

 一体この少女の頭の中はどういう思考をしているのだろうか。激しく問い詰めたいところだ。

 だが、その考えも消しとばすほどの爆弾が投下されてくる。

 

「わたしたち結婚しよう」

「ぶっ飛びすぎにょ……」


 あ、やべっ。噛んじゃった。動揺のあまり頭真っ白だよ。

 落ち着け、ビー・クール、ビー・クール……。俺は激しく冷静だ(=全然冷静じゃなかった)。


「絶対わたしが幸せにするから!!」


 なんとすがすがしいプロポーズの追撃だろうか。何より見た目に似合わぬ漢らしいセリフが強烈だ。性別が逆だったら惚れていたかもな。

 でもやばいのに関わっちゃったなあ。

 俺は確信したね。

 この少女はおかしい、と。

 人生これほど衝撃を受けたことはない。それは目の前にある危機すらかすむほどだ。そもそもこの子は状況が分かっていないのか? 今も巨大なオークのような魔物が迫っているというのに余裕だよなあ。

 今このときも事態は現在進行形だ。近づくとむせかえるようなすえた匂いのオークがニヤリと醜悪な笑みを浮かべる。鋭い牙が覗き、忍び寄る死の気配に俺は足が竦む。


「可愛らしい顔をした坊や。あんた気に入ったよ。ペットとして可愛がってやる」

「無魔が……しゃべった」


 兵卒級が会話するなど聞いたことがない。本来ならば衝撃的なことだが傍に立つ少女の存在感に比べるとかすんでしまう。おかげで幾分冷静だ。

 注意深く見ればこのオークは体つきから女性型であると気がつく。他のオークと違い体格や装備も他の個体と比べ優れている。同種族でも上位種、またはボス格のようだ。そしてようやく俺の脳が生理的に受け付けない言葉に気がつく。

 可愛がっていやる=貞操の危機!


「ひいっ」


 思わず女々しい声を上げたことを許して欲しい。こみ上げる嫌悪感に我慢できなかった。末路を想像し悪寒が駆け巡る。抵抗しようとする俺を女性型オークは大人しくさせようと巨腕を振り上げる。

 だがそれよりもはやく閃光のようなパンチが振り抜かれていた。


「おとなしくし……」

「――お前が黙れっ、この女狐がっ!!」

 

 身長3メートル超えのオークが150センチもない小柄な少女に殴られて吹っ飛んでいく。まるで鞠のようにポンポンっとバウンドしていくオーク。俺は夢でも見ているのだろうか。あり得ない事象を目の当たりにして現実感がわいてこない。

 オークははるか先にある建物にぶつかると動かなくなった。俺も膝から崩れ落ちる。そんな情けない俺に少女は慈愛の女神のように優しく語りかけた。


「もう大丈夫だよ」


 白磁のように混じりけのない肌の可憐な手が差し出されてくる。

 脱力した俺は息をのんでしまうような美少女を見上げた。うっすらと桃色をした銀髪が腰の辺りまで伸び、風にさらさらとなびく。風に流れて鼻腔をくすぐるフローラルな香りにくらくら(とう)(すい)しそうになる。

 目鼻顔立ちは幼さが残りつつも整っていて現実とは(かく)(ぜん)したような美貌から目が離せない。じっと見つめていると少女は恥じらい身をよじらせた。


「いやん、そんなに見つめられると恥ずかしいよ~~」

「あ、すまない」

「これはやっぱり責任を取ってわたしを娶ってもらわないとね」

「だからなんで!?」


 どうしてそんな結論に至ったのかと思わず突っ込む。そして、確信した。この会話の流れはやはり覚えがある。この街にきてからやたらと御絡んできた謎の女の子のものだ。


「君と出会ったのは初めてじゃないよね。でも印象にのこってないのはなんで?」

「ふだん認識阻害の魔法をかけてるからね。そうしないと男がひっきりなしに声をかけてくるんだよお。まあそれでも声をかけられることがあるけど」


 魔法とは魔力を用いて起こす奇蹟現象だ。認識阻害の魔法など珍しい。それだけで彼女が高位の魔法使いだと予想できる。

 片手間に治癒魔法を使う。治癒魔法は高度な魔法で有名である。使い手も少なく重宝される。きっと名の知れた魔法使い、いや魔法少女なのでは期待してしまう。わずかな時間ですぐに傷が塞がり、また驚かされる。

 治癒魔法ってこんなにはやく回復するのか? 聞いたことがないけど……。


「他に痛いところあるかな?」

「いや、だいじょうぶだよ。ありがとう」


 ただ感謝の言葉を伝えただけなのに少女はふにゃんと微笑みとても嬉しそうだ。

 それにしても普段から認識阻害の魔法をかけ、ただでさえ使い手が少ない治癒魔法を高いレベルで使う。その少女は規格外すぎる。驚きが息つく暇もない。


「人間がいたぞっ。取り囲め」

 

 大きな声と共にぞろぞろとオークの集団が現れる。あっという間にユリスは囲まれてしまった。昏倒している女オークを見た彼らは殺気だった目でこちらを睨め付けてくる。仲間を攻撃されたことで凶暴性が顕著になり、鼻息も荒く、興奮している様子がわかる。普通の人間なら恐怖で気絶しそうだ。


「いやん、こわーーい♪」


 だというのに目の前の少女の態度は異質だ。

 さっき巨大なオークをぶっ飛ばした細腕で少女は俺の腕をとり怯えるフリをする。

 ……なぜだろうな。今はこの少女の方が怖い。

 あのオークの迫力を受けてイチャイチャしようとする神経がおそろしい。

 おそるおそる目を向けれれば少女はぶっちゃける。


「私はイチャイチャするチャンスを決して逃さないからね」

「状況を考えてくれ!!」


 まじかよ。信じられない。俺はかつてない混乱の極みにある。

 このピンチの中でもこの少女の脳内は桃色の花が咲き乱れているのだ。俺は彼女に訴える。


「いや今それどころじゃなくて敵に囲まれて絶体絶命だから」

「むしろ私たちの関係は絶対運命だよ」

「話がかみ合ってない!?」


 この銀髪少女は敵が恐ろしくないのだろうか。魔物などまるで眼中にない。

 

「こんな時に何言ってるんだ」

「こんな時だからこそだよ」


 そう言って少女は左手の薬指にはめた指輪を見せた。こんな時に何を、と怒りが湧きかけて霧散する。


「えっ?」


 神秘の光を帯びた指輪を見た瞬間、ユリスの脳内に雷を受けたかのような衝撃が駆け巡っていく。気がつけば自身の左手の薬指にもおそろいの神具の指輪があった。

 いつの間に!?

 神具《悠久の絆》。絆と縁の神の力が宿る神具。この指輪は死に別れても大切な人と会える伝説を持つ。

 そんな知らない知識が頭に流れ込んでくる。そしてふと沸き上がるセピア色の記憶。かつてこの指輪をくれた高貴な貴婦人がこちらに向かって言った言葉。

 

『来世で再び巡り会えるのかもな。なかなかロマンがあって良いじゃないか。生まれ変わっても変わらぬ愛を私は美しいと思うぞ』

 

 俺はこの声を知っている?

 頭を抱え、幻聴のように響く声に当惑する。

 今もオークが数を増やしつつ包囲網を広げている。危急の事態が焦りをかき立てる。


「まずい、逃げ場がない」

 

 逃げ道はどこも敵で塞がれている。心が絶望で埋め尽くされそうになるも、場違いなほどに明るい口調で銀髪の少女が否定する。


「逃げる必要はないよ」

「どういうことだ」

「助かる方法があるんだよお」

「それは本当か」

 

 正に神にでも縋る思いでたずねる。少女は包容力いっぱいの胸元からボードにクリップで貼り付けた一枚の用紙を取り出した。

 ――今、それをどこからどうやって出した? いや、今は突っ込むまい。

 貼り付けた用紙で見えるのはなぜか署名欄だけ。それ以外は更に切り抜きされた茶紙で覆い隠されてよく見えない。めくろうとすると少女は慌てて制止する。

 

「駄目、中を見たら意味がなくなるの」

「これは一体何なんだ?」

「契約書だよ」

「契約書?」

 

 この切迫した状況でなぜこんなことをするのか。疑問は尽きない。

 銀髪の少女がこちらに指をさしもったいぶって話す。

 

「重大な秘密を1つ打ち明けようじゃないか」

「なんだ?」

「実はわたし普通の女の子じゃないの!」

「――とっくに気づいてるよ!?」


 むしろここまでの言動を受けて普通だと思える奴がいるのなら連れてきて欲しい。目の前の少女の頭がおかしいことくらいわかる。

 だというのに少女は明後日の方に誤解が突っ走る。


「えっ、ほんと。これって心が通じ合ってる? つまり相性抜群?」

「……本気で言ってるならお前どうかしてるぞ」

 

 ()(さい)な返事もお花畑思考にねじ曲げられる。この少女ある意味無敵かもしれない。

 

「とにかく、これに君の名前を書いてくれるだけで力になってあげられるよ。無魔に対抗できる力を授けてあげる」

「本当か?」

「そだよー、だからわたしと『契約』してよ」

 

 周囲には包囲を確実に狭めつつあるオークたちの姿がある。状況は差し迫っていた。母のことも気にかかる。ここで死ぬわけにはいかなかった。

 

「……迷っている時間はないか」

 

 ユリスはこれが悪魔の契約ではないことを祈りつつ署名する。

 もう(わら)にも(すが)る気分だった。

 するとすぐに異変は起こった。次々と前世の記憶が蘇り混ざり合っていく。そして、目の前にいる少女を再びみる。瞳には先ほどにはなかった情感がこもる。


「まさか君はティアなのか? それともルージュ?」


 指輪はかつての婚約者ティアである事を教えてくれるのにそれ以外の存在も教えてくれる。少女はにっこりと微笑むと自己紹介する。


「わたしの名はルージュティア。かつてルージュとレイスティアという名の二人の魔法少女であったもの。その融合転生体。そして同時に魔法少女の女神ヒカリの娘にして希望と愛を司る女神」

「――女神ルティアだよ」


 正直信じがたい。彼女の強烈すぎるキャラがティアとルージュに全く結びつかない。混乱する俺を置き去りにルティアは俺の逃げ道を塞ぐべく動く。

 彼女は契約書を大事そうに受け取ると宣言した。


「さて『神界の婚姻届』にも署名してもらったしもう安心だね」

「えっ……」


 今なんと言いましたか?

 ルティアは用紙の伏せていた部分を明らかにすると俺は目を限界まで見開き凝視する。

 聞き違いであってくれ。

 だが俺の願いは現実に一蹴された。そこには女神ルティアの夫であり、彼女の勇者としての契約が書かれてある。さらに用紙から感じる神々しい気配が手遅れである事をまざまざと知らせてくれる。


「さあってとお。神が地上に介入するには制限があるけど旦那様を守るためなら一肌脱いじゃうよ~~」

「……」


 嬉々としてやる気をみせるルティアとは対照的に黙り込む。

 気がついた時には『人生の逃げ道を塞がれてしまった』らしい。

 やはりルティアは邪神ではないだろうか。


この物語はフィクションです。登場する人物、地名、魔法理論も空想によるもので現実とは一切関係ありません。

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