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005.ゴウセルとレフライア(前編)

遅い上に長くて二つに分けました。

後編は今日のいつもの時間に。



 ※



「……相談があるとか言っておいて、来る直前に自分で解決してしまうとはね」


 ギルドマスターのレフライア・フェルズは、秘書が入れておいてくれた紅茶を飲みながら、拗ねた風な事を言って、ゴウセルに残った右目で鋭い視線を送る。


 左目は、魔族との戦いで縦に斬られ、今でもその傷が残っている。


 魔術の紋様を刺繍された眼帯(アイパッチ)の下の傷は、呪いを込められていた為に、治癒する事が叶わず、定期的に痛むのだ。


 それでも魔具である眼帯(アイパッチ)の効果で、ある程度呪いが抑えられているのだが。


「その場の流れで、そうなってしまったんだ、怒るなよ。別に悪気があってしたんじゃ、ないんだからな……」


 ゴウセルは苦笑して、軽く頭を下げた。


 場所は、ギルド本部5階の奥。ギルドマスターの執務室手前にある小会議室だ。


 ギルマスの執務室は、いつも未処理の書類や資料が山積みで落ち着かないので、ゴウセルと会う時は、いつもこちらに移動してお茶を飲み、雑談をするのだ。


 秘書は応接室を使ってくれ、と苦情を言うが、ギルド本部の応接室は、それ相応の客をもてなす為に豪華な造り、豪華な家具で形成されていて、雑談、という気分ではなくなってしまうので、二人は避けていた。


 ちなみに、レフライアがフェルズの姓持ちなのは、彼女がこの迷宮都市フェルズの領主も兼任しているからだ。


 だがそれは、あくまでも形式的なものにすぎず、実質は王都から送られてきた領主代行役の文官達が、その役目のほぼ全て遂行している。


 フェルズの領主は、都市としての規模を備えた防御壁が完成した三百年前から、代々、当地のギルドマスターが襲名するのだ。


 フェルズが魔物だらけの危険な僻地から、その魔物を狩った素材の集積地として宝の山とみなされるようになり、国内の貴族は誰が領主を勤めるかで荒れに荒れた。


 大貴族達までもがそれに加わり、それこそ内乱になるのでは、と憂慮される程のいがみ合いに発展したが、結局は王家の直轄地になり、領主は名誉職として、代々のギルドマスターが襲名する、という事になった。


 フェルズの元々が、冒険者達の拠点としてのキャンプ地から発展して、村となり街となった経緯があり、冒険者ギルドもかなり初期の時から、仮の出張所を設けてフェルズの発展に貢献していた。


 それらを考慮して、名誉領主という地位をもうけ、他の貴族達の不満を抑えた、という苦肉の策だった。


「で、結局、『西風旅団』のポーター(荷物持ち)か。でも、魔物狩りの見学から、話が飛び過ぎてない?


 同じ荷物運びとは言え、都市を出たこともない、まともな魔物を見た事もない子供に、初級ダンジョンに同行してポーター(荷物持ち)とか、まともに出来るのかしら?」


「まあ、普通はそう思うわな。でも、俺はこれっぽっちも心配してない」


 レフライアの心配は当然だろう。ゴウセルの自信も、何が根拠か、自分でも分からない。


(でも何故かあいつは、ひょうひょうとして、自分の役割をこなしそうな所があるんだよな)


「やれやれ。随分惚れ込んだものね。私にも会わせて欲しかったのに。そもそも会う予定だったんだし……」


「ん、それが、早速明日から行くとか言って、補充品の買い物にも付き合うと、一緒について行っちまったんでな」


 ゴウセルは、すでに冷めかけたカップを持って紅茶を飲む。


 先程は、ゼンに飲み物を取られてしまったせいか、喉が渇いてて余計に美味い。


「ただ、ちょっと気になる事があったんだが……ゼンの、ギルドの鑑定結果が、少し……」


「私も、下から上がってきたのを見たけれど、特に問題はないように見えたけど?」


「あ~~、いや、やっぱりやめておこう。俺も確信のある話じゃないし、説明すると長くなりそうだ」


「そう?それならいいけれど……」


 しばらく無言で茶をすする二人。すると、外の喧騒がなんとはなしに聞こえてくる。


「……そういえば、最近街中が騒がしくないか?何か浮足立っているというか……」


 気持ちを切り替える様に言った、ゴウセルの言葉に、レフライアは、本気?、とあきれ返った顔になる。


「本当に、その子の将来の心配に夢中なのね。あなた程の商人が、稼ぎ時だって言うのに、忘れたの?もう後二カ月もしたら闘技会じゃないの」


「………。あ、アー、ワスレテナイヨ、イヤ、ホントニ」


「ハイハイそうですね。三年に一度のお祭り騒ぎなんだから、少しはしっかりしてよね」


 こっちは、その調整で色々と仕事があるのに、とレフライアは溜息をつく。


「う~ん。でもな、正直言って、また前のように、三強が勝ち残って、で『聖騎士パラディン崩れ』か『流水』のどちらかが優勝だろ。


 結果が見えてる祭りだから、地元民としても盛り上がり様がない気がして、なぁ」


「どちらになるか分からないなら、結果は見えてないでしょうが」


「二択って結果だよ。他も見えてる。王都からはまた近衛騎士団の誰かが懲りずに派遣されてくるだろ?来る意味ないのに。


 国内で他にめぼしいA級っていないのか?」


「A級は、多分何人か来ると思う。だけど、あの三人に勝てるようなのはいないわね。みんな、胸を借りるつもりで、とか、最強の剣技を間近で見る為、とか。情けない話。


 それと、近衛騎士団は確かに今回も来るけど、出場するのは副団長。騎士団長、前に、派手に負けたから、流石に懲りたみたい」


 と、レフライアは揶揄するように、妖しい笑みを浮かべる。


 迷宮都市フェルズに、十二年以上前に東方…東にある帝国の、更に東にある国から、帝国を渡って一人の剣士が流れ着いた。


 名をラザン。『流水』という、この国では見た事のない、不可思議な剣術を使う。


 その動きは流麗でありながら苛烈。


 細くしなった、一見すぐに折れてしまいそうな片刃の剣、『刀』を使い、相手の攻撃を、ユラリユラリと、それこそ流れる水の如くに軽く受けて流してしまう。


 ローゼン王国や周囲の国にも、剣で攻撃を受け流す技法はあるが、それとはまったく別物と言っていい、伎の極致があった。


 どれ程の豪剣も、どれ程の高速剣も、その前には通用しなかった。


 流れるような滑らかな動き、でありながら先が読めず、そして攻撃は気づくと流され、同時に目にも止まらぬ斬撃を受け敗北となる。


 魔術すら受け流されるのだ、ほぼ無敵と言っていい。


 当時、すでに優秀な冒険者であり、後に『三強』の一人と言われる、『豪岩』の二つ名持つ褐色の大男のビィシャグ。


 普通の剣士なら、両手でも持てない様な巨大戦斧を使い、相手を防御ごと粉砕する戦法の持ち主だったが、流水との相性は最悪で、一合ともたず、地に沈んだ。


 その大会以降、彼はラザン相手に一度も勝利する事が出来ず(模擬試合等の訓練も含む)、力自慢の限界とみられた。


 次の大会では王都の近衛騎士団を除隊して来た、後に『三強』の一人となる『聖騎士パラディン崩れ』の二つ名となるシリウスにも負け、万年三位の地位に甘んじる事になる。


 シリウスは、ゼフヴァーン侯爵家の三男で、剣術が優秀であったが為に十代前半で王都の騎士団に入りすぐに近衛騎士へと抜擢された。


 その次の年には聖別を受け、聖騎士パラディンとしての技能に目覚めるのだが彼は、王都の騎士団の弱さ、その上である筈の近衛騎士団の更なるゆるさに嫌気がさし(彼は強さの究極を求める強者だった)、すぐに除隊。


 国内で一番過酷な土地であり、冒険者の中でも強者が集うと評判の迷宮都市フェルズを訪れる。


 近衛騎士団を勝手に除隊した事に激怒したゼフヴァーン侯爵は、彼を侯爵家から勘当とし、息子への制裁として自分の手勢である領地の騎士団選りすぐりの三十人を派遣した。


 だが、彼等はあっけなくシリウスに全員敗北し、その上シリウスの強さに感動した騎士二十名余りがそのままフェルズに残り、これが彼を慕うクラン『崩壊騎士団』の前身となる。


 また、この勝負の時に負けた一人の騎士が負け惜しみで「聖騎士パラディン崩れ」のくせに、何かイカサマでもしてるんじゃないか、とくだらないイチャモンをつけた。


 その悪口を、シリウスが何故か妙に気に入って、この『聖騎士パラディン崩れ』というのが彼の二つ名になった。


(と、いうか、彼がこの時の二十名の騎士と、自分自身でフェルズ中にふれまわった結果そうなったのだった)


 そのシリウスも、彼が来てからの最初の大会では、『豪岩』には勝ったものの、『流水』のラザンには健闘しながらも敗北し、それから彼はひたむきな修練と鍛錬に打ち込む事になる。


 冒険者資格を取り、すぐに飛び級申請をして、審査官を軽く負かし、ダンジョンの入場資格を取った。


 その後は、次々とダンジョンをソロでクリアし、ついには、三年後の次の大会での、決勝、満身創痍になりながらも、からくもラザンから勝利をもぎ取った。(この大会は、フェルズ史上最高の名勝負と言われている)


 そうして、この二人はギルドの訓練場でも頻繁に模擬試合をし、勝った負けたを繰り返し、最強の1,2を争う、宿命の強敵ライバルとなる。



「他国から来る冒険者に、強敵はいないのか?」


「強敵……。無名でも、とんでもなく強い冒険者っているから、正直予想はつかないわね。


 ここの闘技会は、国を代表する武闘大会ってわけじゃないから。


 あくまでも、辺境の一都市で開かれる、田舎のお祭りよ。賞金も商品も、それ程豪華に出せないから。


 あの三馬鹿が、A級以上のボスとか狩ってきてくれれば、それを元手に出せるのに。あるいは、その魔物の素材そのものを、元手にも出来るし」


「辺境の一都市。なのに、この国で一番強いと言われている冒険者が、三人もいるんだがな」


「土地柄、というか、冒険者を鍛えるのに最適な、迷宮都市の宿命なのかしらね……」


「あの二人、AA(ダブルエー)級に上げた方がいいと思うんだが。下手したらAAA(トリプルエー)級でも」


「知ってるでしょ。『流水』が上がってくれないのよ。あの人、ダンジョン攻略とかもしないし、ソロで勝手な事ばかりしてる。


 で、シリウス卿は、『流水』が上げないから自分も上げない、と言い張ってる。貢献度だけで計算しても、軽く昇級するのに!


 クラン『崩壊騎士団』は上級ダンジョン攻略はしてるけど、シリウス自身はソロで動いている。


 だけど、ボス戦には行かない。流石に、ソロでボス戦は……。


 で、『豪岩』も付き合って上げない、とか言ってるけど、あの筋肉ダルマは、危なくて上げれないのが実情なんだけど。


 力押しだけじゃもう駄目だって、いい加減理解して欲しい。


 そんなリーダーのせいで、あそこのクラン『デスパワー』は体格のいいだけで、力自慢の馬鹿ばっか集まるし。単なる筋肉ファンクラブね」


 フェルズにはこの二つ以外にクランは存在しない。


 元々、個々の実力があってクセのある、自意識の高い強者の冒険者が集まってしまった為か、パーティー以外での協力を良しとしない風潮が、ここの冒険者には根付いてしまっている。


 上級以上のダンジョンは、通路もやたら広く、中には草原や砂漠等、広大な場所が無数に存在する。


 敵の魔獣も、上級で強い敵が、群れを成して襲って来る。


 本来協力は必須なのだが、パーティー間のライバル意識が強過ぎて、よっぽど仲の良いチームとでなければ組まない。

 

 『流水』のラザンやシリウスが、ソロで潜ったりしているのも、悪影響の一因だろう。


「強いのがいる割に、色々問題抱え込んでるのよね、ここの冒険者達は」


 それをまとめ上げなければならない、ギルマスの苦悩は深い。


 ラザンがA級で止めてしまっている為に色々な問題がある。


 一つは、闘技会に、国内のAA(ダブルエー)級、AAA(トリプルエー)級が来なくなってしまったのだ。


 考えてみれば当然で、A級に負ける上位者、というレッテルを貼られたくないのだ。


 国外からは多少来るのだが、大抵がクラス詐欺だと怒ってギルドに苦情を言ってくる。


 当然負けた冒険者達だ。言ってもむなしいだけだが言わずにはいられなかったのだろう。


 彼等『三強』を確実に負かすには、S級以上の冒険者でも連れてくるしかないだろう。


 だが、世界に数人しか存在せず、S級以上になった冒険者が、こうした闘技大会に来た例はない。


 同じS級でも来ない限り、大人が子供の大会に来て、弱者をいたぶる様な勝負になってしまうのだから、仕方がない。


「元A級冒険者として見た場合、自分より強いと思うか?あの二人」


 ゴウセルは、なんとなく興味が湧き、余計な事を聞いてしまった。


「ん~~。正直分からないわ。『流水』の、完全受け流しな、ああいう剣術、私が相対した敵にはいないタイプだから。


 それに勝っているシリウス卿だけど、彼の剣技は、普通にノーマルな騎士の剣で、問題なのは聖騎士パラディンとしての技だけど、研究すれば対処は出来そう。


 って復帰も出来ないのに、そんな事考えさせないでよ。また片目が痛くなって頭痛も併発しそう」


 この傷さえなければ、A級まで順調に昇り詰めていたレフライアなら、S級さえも夢ではなかったと、本気で思える程だったからだ。


 もう二十年以上前、ゴウセルが、冒険者としての限界を感じてパーティーを抜けた後、二年ほどした時に起きた、謎の王都襲撃事件。


 依頼を受けて現地におもむいたレフライアのパーティー『紅の衝撃』は、彼女以外全員死亡した。



一言コメント


ゴ「おじさんの過去なんて誰も知りたがらんと思うが…」

レ「へぇ、私との過去は忘れ去りたい、と……(怒)」

ゴ(んな事言ってねーだろうが…(泣))




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