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059.悪魔の壁(9)20~21

半分近く、ゴウセル側の話。普通に話しててもすぐイチャコラする二人。

ゼンが同居したくない訳も分かる気が……

(前話、っ少しっ追加分あります)



 ※



「―――となる訳じゃ」


 あのラザンとの話の後、しばらくしてから、パラケス翁はもう一度最初から、この技術の要点をまとめていこう、と言い、そこからゼンの固有名詞や、その従魔の話は抜きの、完全に対外向けな内容になった。


 恐らくそこからが、冒険者ギルド内で検討する事になる、他のメモリーに移せる内容なのだろう。


 そこに至るまでに、パラケス翁はゼンが紹介するから、いらないかもしれないが、と断ってから、ゼンがその身に抱える7人の従魔の説明を簡単にしてくれたのが有難かった。そこに、レフライアが知りたかった『リャンカ』という少女の情報があったからだ。


 一応ゴウセルとレフライアは、その対外向けな説明の映像にも目を通し、抜けた情報がないか確かめた。


 そして最後にパラケスは、この技術情報を、どうするのかは冒険者ギルド、つまりは、持ち込まれたのがフェルズの東辺境本部なのだから、ギルマスのレフライアに、一任する、有効利用して欲しい、と言って、他の国の研究機関や大学等への情報公開も任せるが、こういった情報は極秘にしてもどこからか洩れるものだから、金を取ってサッサと公開し、売った方がいいだろうと言った。


 その後付け足しで、


「ただし、魔術ギルドには絶対に売らない、提供しない事を約束して欲しい」


 とひどく真剣な調子で言い、メモリーの映像はそこで終った。


「……ゴウセル、今のどう思う?」


 レフライアはパラケスの紫のキューブの横に、持参していた未使用のメモリー・クリスタルを置いて、パラケスが説明していた作業をする。


 2、3の簡単な作業で情報のデータがクリスタルに転写されるのが分かる。至れり尽くせりだ。


「ん~。『隠者パラケス』って元々魔術ギルド所属の学者様だよな。何か問題でもあったのかな……」


 ゴウセルは漠然と想像する。


「……あったんでしょうね。多分、このお爺ちゃん、魔術ギルドから排斥されたんだと思うわ」


「排斥?こんな優秀な人をか?」


「この、組織の意にそぐわない研究をしてたせい、なのかしら。こうして実を結んだから、凄い発見内容だと分かったけど、長年苦労してようやくだし、やっぱり……」


 クリスタルに転写完了、の光がともり、レフライアのその中身を確認する。大丈夫の様だ。


「そもそも、何も知らずにこのお爺ちゃんと会ったとして、それが『隠者パラケス』だと分かると思う?」


「あー、世に言われてる印象と、まるで違うよな。正直、こんな好々爺な老人とは思ってなかった」


「そう。元々、効率のいい術の使用法とか、新呪文を考えたりとかで、色々と功績残してて、その界隈だと高名な人だったけど、『隠者パラケス』なんて二つ名で急に呼ばれ出したのは、彼がこの研究の旅に出た、二十何年か前、出奔した後辺り」


「確か、“偏屈で頑固で人嫌いで秘密主義”で、それが高じて勝手に飛び出して、旅に出た、うんぬん。……一つも合ってない感じだな」


「魔術ギルドって、術士全般の相互扶助を目的として出来た組織なんだけど、冒険者ギルドの方が、『術士保護法』や『ギルド内、及び冒険者の女性保護法』が出来た辺りから、こっちに人をゴッソリ取られてしまっているから、かなり人員不足になってるの」


「ああ、冒険者ギルドにとってはライバル組織になる訳だ」


「一応はね。冒険者ギルドは完全に世界規模だけど、向こうはある国ない国とかあって、比べられる様な規模じゃないわ。こちらは合法ならどんな組織との同時加入も認めてるけど、向こうはそうじゃないから意味なしだし。


 で、まあそのせいか、やたらとお金になる様な研究、調査が推奨されてるの。あのお爺ちゃんは、もう充分魔術ギルドに貢献したからと、最後って言ってたし、自分のしたい、お金になる当てのないこの研究をしたら、いい目をされなかったって言ってたじゃない。実質的に追い出されたんじゃないかしら」


「生々しい話だな。人手不足だからこその利益重視か」


「ん。だから、放逐したのを、まるで自分のせいみたいに『隠者パラケス』の二つ名と、全然褒めてない人柄の噂を広めて、調度同期で『賢者ホーエンハイム』という分かりやすいライバルがいたせいもあって、その二つ名がすんなり定着してしまったんじゃないかしら」


「説得力があるな」


 一応は憶測よ、とレフライアは笑う。


「それはそれとして、これから又かなり忙しくなると思うわ。この“従魔再生契約技術”、お爺ちゃんも言ってたけど、多分従魔術に省略されると思う、その研究部門をギルド内に新しく立ち上げなきゃ。


 広めるのは、ある程度ちゃんとした研究をして確認が取れた後になると思う。


 ゼン君に言われてたから、人手とか手配の準備はしてたけど、キューブの情報の中味が、色々想像を絶していた内容だったわ。これは、物凄い事になるわよ」


「そうだな。B級の冒険者は、A級程には少ない訳じゃない。結構そこそこの数が世界各地にはいる。フェルズにも。それが、急に従魔を従え、補強されるんだ。世界的に大騒ぎになる、革命的、革新的な出来事だ」


「ええ。ゼン君とその従魔は特異過ぎて公開なんて出来ないけど、パラケスが『流水』の旅に同行してるのはそれなりに有名だから、また『流水』の名も上がる事になる。付随して、その弟子の名も……」


「それは、騒がれるのが嫌いそうなあいつには嬉しくない事だな」


「分かるけど、どうにも避けられないわね。この研究部門も、実例としてどうしてもゼン君に協力してもらわないと、先に進むのが難しくなるから。彼の特異性は、勿論絶対に知られない様にはするつもりよ」


「頼むよ。内容が分かってみると、ゼンが仲間達と迷宮ダンジョンに籠った意味も分かる。しばらく迷宮攻略どころじゃなくなるな……」


「~~。私も、気持ちは分かるけど、約束は約束なの、ちゃんと叱ってよね」


「分かってる分かってるって」


 イチャコラ。


「……それと、これは絶対数の少ない魔物使役術士テイマーにとっても凄くいい話になると思うわ」


「補強の事か?戦力が単純に2倍近くになるからな」


「そっちもだけど、それよりも疑似魔物使役術士テイマーみたいな仲間が増えて、従魔を連れ歩く冒険者が増えるだろうって事の方」


「自分に、入れたままにする奴もいるんじゃないか?その方が便利そうだ」


「便利かもしれないけど、実体化にゴッソリ力を取られる事を考えると、出したままにする冒険者の方が多いと、私は思う。お爺ちゃんも言ってた、力の浪費ね。


 従魔は、元々テイマーの為にそれを認証した首輪や標識、バッチか何かをつけるのが義務づけられてるし、それを使うと思う」


「それで、何がいい話なんだ?」


魔物使役術士テイマーはとにかく数が少ないせいもあって、連れた魔物に対する忌避感が凄いの。強い魔物程、外観が怖いし、仕方ないけれど、村や街によっては出入り禁止とかもあって、かなり苦労してる魔物使役術士テイマーが多いのよ」


「そうか……。そう言えば、俺も魔物使役術士テイマーに会った事ないな。フェルズにはいないよな」


「いた時もあったらしいけど、今はいないわ。それで、街に入れても、宿に従魔用の厩舎があるとこがなかったりして、ギルドが預かる場合が多いわね。


 つまり数が少ないから、従魔の扱いに困る事が多いの。魔物使役術士テイマーも術士だから、保護法の適用内で、その補助金でなんとかやりくりしてたり、外で野営専門にしている魔物使役術士テイマーもいたりと、とにかく苦労してるのよ」


「なるほど。仲間が増えれば、それに応じた施設も増えるし、受け入れも当り前になって行く、と」


「そうそう。あなたの所でも、そういう品を扱うのが増えるかもしれないわよ」


魔物使役術士テイマーの従魔用の餌や武器関係等々。凄いな、商売の幅が広がる。ドワーフとの事もあるし、俺もライナーが帰って来たら、殺人的な忙しさになりそうだ。嬉しい悲鳴をあげそうだよ」


 色々順風満帆な二人でした。



 ※



「美味っ!なにこれ、凄い美味しい!それに、干した果実が何種類も入ってる?」


 サリサは、ゼンが出したお菓子の余りの美味しさに、目の色変えている。


「パウンドケーキって言います。干し果実はどこでも売ってるし、その種類によって触感も味も色々変えられるから、何種類か作って試してるんです。


 他に胡桃を入れたり、ケーキ自体の味も変えてみたりして……」


 皆、凄い勢いでガツガツ食べまくっている。


「……俺も、初めて食べた時、美味し過ぎて、凄い量食べたから、気持ち分かるけど、さっき昼食べたばかりだし、余り食べ過ぎない方がいいですよ……」


 ゼンの忠告は誰も聞いていない様だ。


 ゼン達は、20層のボス階の安全地帯で、宣言通りの長めの休憩を取っていた。


 そして気づくと、フロアの中央にポツンと立つ、一本の木が。階層ボスの強化トレントが再生リポップした様であった。


「って、ちっさ!」


 リュウが思わず大声で言ってしまう。


「いや、小さくはないですよ。トレントとしては大きいじゃないですか」


「そうだぞ、小さくはない。言いたい事は分かるが」


 ラルクはゼンに同意する。


「やだ小さい~~、笑えるぐらい小さい~~」


 アリシアが、何かツボに入ったのかやたらと笑って、床を叩いている。


「この似た者カップルはもう……。トレントとしては大きいんだってば」


 サリサは笑い過ぎている親友の背中をさする。


「だって~~、今まで戦ってたのと、太さでもう、半分以下?」


 目に涙すら滲ませている。


「……それは、エルダー・トレントだからですよ。上位種だから、ほとんど別物です」


「あ、そうだ。思い出した。聞こうと思ってたんだ。あのエルダー・トレントって、ランク何の魔物なんだ?」


 リュウが戦っている最中に考えた疑問を口にする。


「……C+です」


 聞かれてゼンは言っていなかった事に気づく。言っていれば、思いとどまったのかもしれないのに、と。


「C級?それにプラスって付いてるって事は……」


「限りなくB級に近いって事です。


 あの凶悪なスキルで、強い冒険者でも罠にはめて、どんどん殺しまくるんですから。ギルドでもB級でいいんじゃないか、とか揉めてるらしいです。


 トレントなら普通は燃えるから、魔術とかに弱いけど、あれはあの、多重障壁があるから術士泣かせだし。『冒険者殺し』とか『冒険者ホイホイ』とか異名のある、いわくつきの魔物です」


 しかもここは迷宮内。ダンジョンのDがついて、外より強化されているのだ。


 迷宮ダンジョンの魔物は全て外より強化されているが、その強化値は、強い魔物程強化の度合いは低くなる。AやSならほぼ外と同じ程度で、Dの文字はつけないらしい。


 エルダー・トレントは、ランクを考えると、中級迷宮に出るにしては微妙な魔物だ。強化を考えると完全にB級。普通に上級に出るのではないだろうか?


「リュウさんが倒した“宿り木”、強かった、って言ってましたよね」


「ああ、なんかまるで一級の戦士みたいな身のこなしだったな。蔦を鞭みたいに使ってたし」


「もしかしたら、あれが蔦に指令出す、頭脳体みたいなものだったのかも……」


「最後に脱出して来たり、確かにまるで本体だよな」


「ええ。障壁斬っても、蔦で攻撃防いだり、せっかく料理用の高い油まで使ったのに、ラルクさんの矢とか、油ごと皮をはがして延焼しない様にしてました」


「ああ、だから燃え広がらなかったのか。蔦が邪魔で見えなかったよ」


 頭が良く、こちらの攻撃に即対応。囮無視で後衛まで狙う。


 このパーティーじゃなかったら、普通に全滅してもおかしくない相手だった。


 強かったが、何とか倒せて良かった良かった、と呑気に喜んでるチームメンバーがどこまで理解出来てるか不安だったが……。



 ※



 休憩が終わり、21階に上がる階段を登る。


 また同じような壁づくりの迷宮ダンジョンだが、何処か暗く、陰鬱な感じがするのは気のせいではないだろう。


 ここから先は、不死系アンデッドな魔物の領域だ。


 なのに妙にパーティー内の雰囲気が明るい。軽い。警戒役のラルクまでもが、どこか常になく適当だ。


「じゃあ、ゼン。適当に案内して。何かありそうな部屋とかも寄って行きましょ」


 サリサも、まったく緊張感がない。


 ゼンは、アリシアが使った、実力検定の時の凄い魔法を見ているが、あれはどちらかと言うと、ボス向きな単体殲滅魔法だ。


 魔術や神術等、あらゆる術は、ある一定の線を超えると“魔法”になるのだと言う。術士でないゼンには、その線はまるで分からない。サリサがエルダー・トレントに使ったあれは、もしかしたら“魔法”なのかもしれない、と漠然と思う。


 それはそれとして、サリサ達は、アリシアが不死系アンデッドに無敵だと言っていたが、ゼンはアリシアが不死系アンデッドと戦ったのを見た事がない。中級の迷宮ダンジョンに上がっても、それは変わりないのだろうか?


 とにかく、いつも通りにコース選定をする。この階には鍵付きの部屋はなさそうだ。


 それを説明してから、階段までの最短コースを行く。


 少し進んだ先で、青白いD幽霊ゴースト5体、D歩く死体(ゾンビ )5体の、魔物の群れに遭遇した。D歩く死体(ゾンビ )はまるで元冒険者の様に、皮鎧をつけた者、ローブを纏っている者等がいて、死体の選定が悪趣味な感じだ。


 アリシアの瞳がキランと輝いた。


 ゼンから貰ったソラス・ロッド(光の杖)を構えて、その群れに向かって呟いた。


「『ターン・アンデッド(邪霊浄化 )』!」


 ある程度長い詠唱はもう暗示登録してある。その一言だけで、神術は発動した。


 不死系アンデッドな魔物の群れを、大いなる光が包み込む。


 ただただまぶしい光。


 その中で、ゼンは確かに青白いD幽霊ゴーストとD歩く死体(ゾンビ )が満足げな、無念のない成仏した顔になるのを見た。皆、その光に包まれ、そして消えた。


「え?」


 ゼンは、旅の途中で神官の冒険者が浄化呪文を使うのを見た事があるが、こんなに大規模に、速攻で効くようなものではなかった。


 確かに不死系アンデッドに対して通常呪文よりも効きは良かったと思うが、こんなものかと拍子抜けしたのを覚えている。


 これなら、光や聖の属性を付与された剣で斬った方が速いと思った。実際、神官の仲間の冒険者達はそうしていた。一時的な足止めや、敵の攻撃の束縛役として機能している様だった。


 だから、アリシアもその凄い系なのか、程度に思っていたのだ。


「もしかして、ゼンは私とシアが同格ぐらいの術士だとか思ってた?」


 ゼンは尋ねて来るサリサに頷いていた。後衛に並ぶ天才少女二人だ。それが同じぐらいと思うのは、自然な流れだった。実力検定の時も、見たのは一つきりだったから。


「こと、不死系アンデッドにかけて、あの子を上回る術士はいないと、私は思ってる。私なんかの比じゃないのよ、あの子は」


 リュウが、いかにも仕方ないなぁと、アリシアに拍手して誉めそやしている。


 アリシアは、私偉い~、私強い~、私最高~、もっと褒めて~、と自己主張していた。


 普段は防御壁や補助強化、治療と裏方ばかりのアリシアだ。これでつり合いが取れている、と言えなくもない。


「楽出来るのは、悪い事じゃないよね……」


 ゼンは、いつもと反対の立場になった様な事を言っていた……。


 


ゼ「甘い芋とかカボチャとかで、お菓子作れるんだけど、なんかみんな凄い食べそうだ……」

サ「こ、これが胃袋を掴まれてしまうという、伝説の……」

ア「普通、女の子がやるものだけどね~~(笑)」

リ「確かに、料理で結婚とか考えるって意味分かるな。いや、それだけでしたりしないけどな…」

ラ「ん~~。ま、まあ、当然、料理美味い方がいいよな。(スーリア、料理どうだろう?ギルドの寮だから、今は作ってないかもだな……)」





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[気になる点] この世界ではそうかもしれないし、敢えてなのかもですけど、バウンドではなくパウンドケーキ(pound cake)ですよ
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