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043.王都にて(後編)

う~ん。

ともかく王都の話はこれでいったん〆です。

詐欺とか知識ないし、ファンタジーだし……。

雰囲気で!



 ※



 貴族達が酔狂でつくらせたオークション会場は、今日静かな盛り上がりを見せていた。


 オークションが始まる前から、ある噂が流れ、誰もがその話に夢中になっていたのだ。


 従者も連れずに、お忍びで来ているヴァルカンの耳にも、その噂は断片的にだけ聞こえてきて、ついにヴァルカンは、知り合いでもない隣りの貴族らしき老紳士に尋ねる。


「お話し中すまない。ぶしつけだとは思うのだが、どうか私にもその話を聞かせてはくれないだろうか。私はーーヴォルキン。しがない鍛冶師の従者でね。師から、何かいい素材がないか見て来てくれ、とだけ言われていたのだが……」


 その紳士は話好きだったのだろう。いきなり話しかけられても嫌な顔一つせずに、ヴァルカンの要求に答えてくれた。


「いいですよ、ヴォルキンさん。私達はもう朝から何度もこの話をしているのですが、内容が内容なのでついつい繰り返していたのです。


 この噂は、今日のオークションに、なんとあのローゼンの英雄、『流水』が討伐した魔獣の素材が、何点か出る、と言うのですよ!」


 ヴァルカンは、その話を聞き、驚くと同時に、もしかして自分の天啓は、これだったのではないだろうか、と思えてしまった。


「『流水』とは、”あの”『流水』のラザン、ですか?」


「ええ、ええ、勿論。ああ、それと、彼の従者……弟子の、冒険者の倒した物もある、と言う事で、もう朝からその話題で持ち切りなのです」


「それは……本当ならば、凄い話ですが、なぜこんなにも噂になっているのですか?」


「それは、その素材をどうやってか手に入れて、このオークションに出す商人が、とても頭のいい、策略家だから、でしょうな」


「と、言うと?」


「その商人の出品は、大体全ての順番の、中間辺りの様なのですよ。”つまり”それまで他の物を買わずに金を、取っておけ、という事なのでしょう!


 いやいや、私等は、基本冷やかしなので、取っておいた所で、大した金等ありませんが、本気で買い物をするつもりなら、それらが出るまで、待つのが得策でしょうな」


「ほうほう。それは、成程。中々考えていますな」


(そうするとつまり、競り合いは物凄い事になり、高値になるのは最早必定か。だが、金などいくらでもくれてやる。私の創作意欲を掻き立ててくれる物ならば、な……)


「なんでも、あの獣王国を襲った、未曽有の危機。剣狼(ソ-ド・ウルフ)の群れの、ボスの、”角”が出る事は確実らしいのですよ!」


 老紳士は話している内にドンドン興奮して顔が真っ赤になっている。卒倒して倒れやしないかとヒヤヒヤする位心配になるが、今はそれ以上に気になるのが話の内容だ。


剣狼(ソ-ド・ウルフ)……聞いた事がある。ランクAの大魔獣。獣王国ではいくつかの村や街が壊滅させられたとか……」


「そうですそうです。かのラザン卿がいなければ、あの国は滅んでいた、と言っても過言ではありますまい!


 その群れを蹴散らした、と言うのですから、『流水』のラザン卿は、SS級は軽く超えた超越者、もはや向かう所敵無しの、文字通り無敵の剣士……。話をしているだけで、気が遠くなる様な、人の枠を超えた者の話ですよ……」


 老紳士は、素材よりもラザンの英雄譚の方がお好みの様だ。


 だがヴァルカンは違う。『流水』のラザンの活躍自体は、ヴァルカンも胸躍る話だとは思うが、彼にとって今大事なのは、それがいかに凄い物であろうとも、創作意欲が湧かないのでは意味がないのだ。


 逆に、どうでもいい、安い物であろうとも創作意欲さえ湧けば、それでいいのだ。


 しかし、今までどんな物を見ても、創作意欲は微塵も湧かなかったのだ。


 『流水』が倒した魔獣の素材、と言うのは、恐らくそれ程出回らない、強い魔獣の素材ばかりだろう。


 そういう点では、確かにヴァルカンは、『流水』の素材の話に、充分興味を掻き立てられた。もしかしたら、その素材ならば、自分の琴線の何処かに触れる物があるかもしれない。


 ヴァルカンは、それを願って、オークションが始まるのを心待ちにしていた。



 ※



 王都やそれ以外のゴウセル商会の支店が受けた詐欺は魔術や幻術に催眠術まで併用した、ひどく悪質な物だった。


 まず、こちらで買い入れた魔物の素材が、契約した内容と違って、ひどく粗悪で、何処にでもいる様な雑魚の魔物の爪、という、毒にも薬にもならない、そもそも売り物にすらならないゴミの様な物だったのだが、”それ”を”大量”に買い入れると、契約書にはなっていた。


 魔物の素材の売り込みの時に、幻術を使って、さも貴重な魔物の素材に見せ、実際に倉庫に大量に運び込まれたのがそれだったのだ。


 そして契約書は、魔術で二重存在とした二つの契約書が、その場には二つ存在し、支店長はその両方に契約署名をしている事になっていた。


 その、正規の内容で契約した筈の書類は、その日の夜の内に盗まれ、残ったのは、”ゴミ”を”大量”に買います、という内容の書類だけだった訳だ。


 また、これとは逆の、良い魔物の素材を”大量”に”安く”売ってしまう詐欺も同時に進行していた。


 勿論、こう言った術を使った詐欺というのは、それなりに行われる危険性があるので、その防止用の魔具が店内には設置されている訳だが、もしその魔具の効果を妨害出来る様な、『高位術者』がいれば、それは無駄になってしまう訳だ。


 こう言った類いの詐欺が長期に渡って少しづつ繰り返され、支店長や従業員達には気づかれない様にその素材は、売り物を長期貯蔵する倉庫の方にまわされる様に、一部の役員や従業員が催眠術で洗脳状態にあり、それが発覚した時には、大量の不良在庫が山となって倉庫には溢れ返っていて、その上で、それを高値で買った契約書が店には大量に残されていた。


 これと似た様な詐欺が、王都以外の各支店でも繰り返され、ゴウセル商会は多量の不良在庫を抱えた上に、本来の商売をする為の資金は底をつき、その契約書を、別の商会から買った、と名乗る、いくつもの『商会』が現れ、金を払えと店で暴れ、正規の客は、それで店に寄り付かなくなった。


 そして最後に、それら借金を全て肩代わりするので、商会の権利を全て譲って欲しい、とまるで善意でその行為をします、と名乗り出た、まったく別の『商会』が出て来た所で、商会乗っ取りの全貌が見えて来たのだった。


 これらの詐欺に加え、本来協力関係にあった筈の商会や、一部の貴族にまで根回しが行われており、そもそも何処の『商会』が乗っ取りを仕掛けて来ているかも謎のまま事態は急速に悪化したのだった。


 結局、詐欺をした『商会』も金を要求して来た『商会』もゴウセル商会の権利を買うと名乗り出た『商会』も、適当な日雇い労働者が登録されているだけの架空の商会だった。


 借金を請求するのも、乗っ取りを交渉するのも、単なる雇われ人で、それもまた何重にも商会や貴族を途中で介しており、いったいその本体が何であるのかさえ、分からなかったのが、一人の竜騎士からの情報で一気に正体が分かり、対応策も打てる様になったもだが、それもかなり際どいタイミングだった。


 本店であるフェルズの店には、嫌がらせや、スラムの孤児達の事件等はあったが、詐欺そのものは、本店にはなかった。それは、ゴウセルの気をそらして、支店の状態を気づかせずに、手遅れになるまで事態を悪化させる為のものだったのだろう。


 最終的に、ゴウセルは恐らく、本気で商会を手放す気になっていたのかもしれない。だからこそ、ギルマスとの婚約を解消したり、ゼンへの連絡を禁じたりしていたのだろう。


 その気遣いも、ある意味無駄になったのだが。



 ライナーは、これまでの事を色々考えながら、ゼフヴァーン侯爵家の王都の屋敷に向かっていた。


 一応、侯爵達がオークションに向かって屋敷を出た後にも見張りが数名尾行して、突然屋敷に引き返して来たりした場合の備えはしてある。


 問題はやはり、侯爵の屋敷に、ライナー達が望む様な証拠があるかどうか。


 ちゃんとした参謀、ないし知恵者が侯爵の周りにいたら、証拠を残す様な真似はさせないかもしれないが、シリウスの出奔に対して侯爵家がやった愚行を思うと、真面目にそういう者はいないのではないか、いても侯爵家では余り発言権のない者だったりするのではなかろうか、とライナーは考えている。


 そしてそもそも、今侯爵が協力している行為もまた、愚行そのものだ。その行く末に待つものは……。


 その先の事は、ライナー如き、一スカウトの考える事ではない。


 ライナーは、侯爵の屋敷の周りを見張っている、近くの木の上の一群に合流する。


 エルフが多いので、精霊達に頼めばいくらでも木と気配を同化させて、周囲から見えなくする事が出来る。


 それぞれがすでに顔を隠した隠密スタイルになっている。顔が見られてもほとんどの者が幻術を併用して、素顔を分からなくしているが、念の為だ。


 誰が誰かは自分達には分かるので、お互い頷いて、それぞれの役目を再確認する。


 侯爵を尾行する者、屋敷に潜入し捜索する者、外から屋敷を見張り、近づく者や不審者が来ないか警戒する者の三班に別れる。潜入する者に手練れが多い。ライナーもその一人だ。


 程なくして、ゼフヴァーン侯爵が護衛の騎士を連れて馬車でオークションに向かう。




 ある程度の時間をおいて、ライナー達は侯爵の屋敷に潜入した。


 窓から裏口から、それぞれ二十名近いスカウトが屋敷に潜入する。


 無関係な使用人や執事等は問答無用で気絶させ、一か所の部屋に閉じ込める。


 そして捜索だ。


 目標は、侯爵の私室や書斎、寝室だろう。


 そこはライナー他数名があたる事になっている。


 今の所は順調だ。執事に多少腕に覚えのある者がいた様だが、冒険者に適うレベルではない。


 屋敷の奥、侯爵の私室近くで、突然その男が現れ、ライナー達に襲い掛かって来た。


 仲間の一人が腕を斬られ、それでも投げナイフを投げて応戦するが、男はそれを軽く剣で弾く。


 ライナーは前に出て、怪我をした仲間を下がらせる。


 傭兵?いや、冒険者か。Bないし半ばAと言った所か。この様な隠し玉がいたとは……


「冒険者が悪事に加担すれば、ギルドからの除名もあり得る。理解しての行動なのか?」


 ライナーは油断なく短剣を構えながらも、相手の敵意がまるで衰えない事に、説得は無駄だと半ば確信していた。


「……ローゼンの冒険者は、随分お行儀いいのが揃ってるな。そんなどうでもいい事今更言って何になる?いいから、さあ殺し合おうぜ。お前なら、少しは楽しめそうだ……」


(チ……。時々いる、戦闘狂バトル・マニアか。この手の手合いに理屈は通じない。ただ実力で排除するのみだ……)


 男が構えもなしに、ノーモーションで剣を繰り出す。ライナーはそれら全てを躱したつもりだったが、腕と頬にかすり傷が残っている。


 躱し切れなかった?いや、違う感覚がする。こいつ、幻術の魔具を持っているな……。


「勝つ為なら何でもござれ、なタイプか。手段も選ばず何が楽しい……」


「人を殺すのは何でも楽しいさ!」


戦闘狂バトル・マニアではなく殺人狂の類いか。侯爵の飼犬でなく、海商連合の者か……」


「おやおや色々バレちまってるじゃないか!今回は駄目かな?」


 言いながらもこちらを攻める手はまるで止めない。状況の推移等、本当にどうでもいいのか、狂犬め!


 手数の多さに幻術の手が混ざり、完全に押され始めている。会長補佐が長過ぎて、実戦の勘が鈍ったか?!この程度の相手に……。


 完全に見誤った一撃が、ライナーの脇腹をえぐる、と思えた瞬間、下から伸びた黒い短剣が、男の剣は完全に受け止めていた。


 そして、ライナーの影から、湧き出る様に黒髪の少年が、その短剣で男の剣を抑えながら現れた。


(私の影に潜んでいた?固有のスキルか何かか?)


「君は……?」


「あんたは助けてやれ、とあるじ殿には言われている。証拠探しがあるんだろ?行けよ」


(この少年が、例の凄腕?ギルマスが手配した?)


 ライナーは、何となくではあるが違うのではないだろうか?と言う気がしている。


 気になるのは、少々背丈は上の様だが、恐らくこの少年は、ゼンと同じ年頃……。


 だから何だ、と言われても困るのだが、妙な共通項が、どうしてもあの『流水』の少年を思い出させる……


「チィッ!何だ、このガキは!剣が離れねぇぞ!」


 ライナーとスカウトの仲間達は、は二人の脇を駆け抜け、侯爵の私室のある奥へと急ぐ。


「すまん、任せた!」


「……気にするな、主命だ」


「ゼンに礼を言っておいてくれ!」


 つい、スカウトの癖の様なもので、カマをかけてしまった。


 だが少年は不機嫌に顔をしかめ、それを認めてしまっている!


(あの少年、本当にゼンの仲間?いや、あるじと言っていた。部下?まさか奴隷ではないと思うが……)


「クッ!なんだってんだ!」


 男は短剣に張り付いた剣は諦め、別の剣を抜き、斬りかかるがーーー


 少年の顔に、何の抵抗もなく剣が通り抜けた。


「う!?」


「それは影だ、間抜け……」


 背後から声が聞こえ、そして胸に、今まで経験した事のない、えぐられる様な酷い激痛が!


「が、ガハッ!」


 男の口から血が大量に洩れる。


「心臓を直接握られる気分はどうだ?中々楽しいだろ?」


 少年の手が、背中を透過して、男の心臓を文字通り握っているのだ!


 痛みの余り、動きが取れない。何だ、このガキのこの技は?スキルなのか?


「お前は海商連合とかの奴等なんだろ?なら、痛めつけていい連中だ。たっぷり痛ぶってから、仲間の居場所を吐いてくれ……」


「グゥ……」


 痛むのを覚悟で思いっきり身体を回転させ、背後にいる筈の少年を斬り捨てる……がそれにも手応えはない。


「……やはり、あるじ殿以外では、俺を捉えられんか。むべなるかな。鈍い凡人に、俺の本体は見破れん……」


 その一瞬、四方八方からの同時攻撃を受けた男は、痛みと出血の多さから気絶した。


「チッ!軟弱な……。仕方ない、脳から直接読むか……」


 ガエイの手は、男の頭蓋を透過し、直接脳へと差し込まれる。


 男の身体が、意識はなくとも直接肉体の重要器官を害される苦痛にピクピクと跳ね上がる。


「殺しはしない。あるじ殿は殺生を嫌うからな。……ほう。中々考えているようだな。行くか……」


 ガエイはそう呟くと、またスルリと自分の影へ沈み、その場から消える。



 ライナーは、侯爵の私室を家探しして、隠し部屋の、細工されて隠された床下から、海商連合との血判状という、これ程の証拠はないだろうと思える物を見つけ出せた。


 内容はゴウセル商会へ、各種様々な犯罪、乗っ取りの協力をして、見返りに、海商連合との商売を、自分の領地で一手に引き受ける、という内容の物だった。


 だが、これは血で、お互いの署名が絶対の誓約となる血判状で、魔術的に交わされていて、この血判状自体がなくなっても、誓約がたがえられる事はない。


 つまり燃やして処分しても、契約そのものが残る物で、大抵はこう言う物は、交わされた後ですぐに焼却破棄される物だ。


 このような物を後生大事に保管している事が、彼の無能さと、迂闊さを証明していた。


 ライナーは、仲間にのみ聞こえる高周波の笛を吹き、撤退の合図を出した。もうここには用がない。無用の争いをする必要はないだろう。


 後は、これを『教会に提出すれば、真偽判定がなされる』。


 貴族共が、いくらでも買収で、適当な証言をする法廷等には任せない。


 この世界には、もっと絶対的な正義を判定出来る機関があるのだから……。




 翌日、王都の教会に呼び出されたゼフヴァーン侯爵は、ただ青い顔をして、この信じられない状況が、今自分に何故起こっているか分からず、混乱していた。


 同じく教会の強権で呼び出されたこの国の名だたる貴族、王族達は、事ここに至っては、最早何も言い逃れは出来ない。


 何故なら、これから事を判定するのは『神』であって、愚かな人の裁判官等ではないのだ。


 その、神界からの『審判』は絶対無比。そこには無慈悲な真実しかなく、ただ人は、それを受け入れるしかない。


「ば、馬鹿な、たかだか辺境の一商会がどうなろうが、教会が『真偽判定』をする様な物ではありません!こんな事は、貴族の!侯爵家を預かる者を辱しめ貶める罠だ!」


 『真偽判定』とは、教会が神に、事の善悪、事の審議を問う、絶対不可侵の儀式。


 故に、これは国の行く末を左右する様な大事件や、貴族、王族等の国の重要人物の要請がなければ行われない、由緒正しき国家の最重要儀式なのだ。


 辺境のケチな一商会の乗っ取り等と言う、侯爵曰はく、チンケで矮小な庶民の商売の話などに、教会が応じる筈がない、彼はそう思っていたのだ。しかし……


 教会の、紫の美しき法衣を纏った審議官は、見苦しく騒ぐ侯爵を一瞥しただけで、まるでそれには関わらずに、今回の『真偽判定』の説明をする。


 請求者は、ゴウセル商会の会長と共に、ローゼン王国、東辺境の、迷宮都市フェルズ、その名誉領主であり、その東辺境の冒険者ギルド本部のギルドマスター、レフライア・フェルズより、前々から要請がなされていて、他国の商会からの”侵略”行為として、問題提起がなされており、この国の貴族のいくつかがそれに加担している事も指摘されていた。


 そしてこの度、ギルドの調査官から、その動かぬ証拠と、いくつかの状況証拠の情報も提出されており、教会は要請の通りに、『真偽判定』を、高位の司祭全員一致の賛成をもって執り行う事と相成った。


「王や宰相殿は、この決定に異を唱えるや否や」


 突然呼び出された国王とその宰相であったが、彼等はこの場では、国のトップきではなく、神の前にひれ伏す、公平な単なる一信徒に過ぎない。


「異議の申し立て等、とんでもございません。ただ神の御心のままに……」


 一体誰が、神にの異議に異をとなえると言うのか。それは勇気ではなく、蛮勇の自殺行為だ。


 最早ゼフヴァーン侯爵は、哀れな生贄の山羊に等しい。


 そして、儀式が始まる。


 審議官はは、うやうやしく、首を垂れ、神の御霊に触れ、お言葉を賜る神聖なる巫女を出迎える。


 彼女もまた、紫の美しき高位の者しか着る事を許されぬ法衣を纏い、ゆるゆると中央に優雅な足取りで進み出て、そして顔の天上にと向け、尊き光を浴びて、神の声を聞く。


<かの者の罪は確定している。『有罪』>


 巫女は、すでに人ではない、高位者の眼差しで、侯爵に無慈悲な審判を下した。


 そして、その後ろ立つ者達は、見、言い放つ。


<そこなるは、罪を問われし者ではない。偽者。神を偽る者達は、すでに都を出ていずこかへ……。捕縛するがよい。彼等の『有罪』も確定している>


 そこで、巫女から神の御霊は離れたのだろう。


 青い顔をして卒倒する彼女を、教会の神官達が囲み、取り急ぎ、奥へと運んで行く。神との交信は、それだけ巫女に多大な負担をかけるのだ。


 その場は大騒ぎとなった。侯爵が有罪となった、それはいい。


 だが、彼の共犯者、いや、首謀者である海商連合の会長達は、教会に替え玉を出し、自分達は逃走したと、お告げがあったのだ。


 これは前代未聞であった。神の『真偽判定』は絶対であり、そこから逃げる事さえ恐れ多きおこないだ。


 それを異国の馬鹿どもがしてしまったのだ。


 王や貴族は騎士団や王都の警備団を呼び出し、至急追手を差し向ける様に手配した。


 ギルドや、この先の国境に通信手段のある者はそれを使って国境の封鎖を手配したが、果たして、この犯罪に手慣れた悪党達を捕縛出来るかどうか……。


 彼等は知らなかった。もうその者達が、手酷い”裁き”を受けるのが決定事項だった事に……。




 海商連合の会長達は、みすぼらしい荷馬車に乗り、農民に変装して、自分達の祖国とは逆方向の隣国へと向かう街道をゆっくりと走らせていた。


 今回の計画は失敗に終わってしまったが、大してそれを惜しむ気持ちはない。


 他でまたやればいい。彼等の支配領域は着実に拡大しているのだ。神など知った事か!


 次は、北方の貧乏臭い雪国を狙うか、それとも、東の帝国の、知恵者面した商人どもを騙くらかすかすか、どこに向かおうと、そこが彼等の標的だ。


 いかにもこずるい悪党面した男達は、笑いながら会話をしていたが、いつからいたのか、黒髪に黒服の、まだ幼く見える少年が彼等の横に、当然の様に座っているのに、たった今気が付いた!


「残念ながら、お前達は何処にも行けない。あるじ殿のお望みは、お前達にそれ相応の罰を与える事だ。覚悟するのだな……」


 それからの、阿鼻叫喚の地獄絵図は、一昼夜ずっと続いたと言う。


 余りのひどさに、引いていた馬は恐怖に倒れ、泡を吹く始末。




 ……それから、たまたまこちらの巡回をしていた警備隊が見つけたのは、


「この者、先の王都での事件の首謀者達。相応の報いは受けさせたが、王国法に従い、勝手に捕縛すればいい」


 と、何処か投げやりなメモが残された、この世の痛みの全てを味わったかの様な、絶望に歪めた顔をした、まだ生きている4つの肉塊が残されていた……



 (余談)



 その、ただ遠くから見ても分かる程の力が溢れ出している、見事な、大剣の様な角を見た途端に、ヴァルカンには分かった。


 これこそが、天啓にあった素材、私は出会ったのだ!


 あれで何をつくろうか、どう加工しようか、いや、何でも造れる!


 恐ろしい程の創作意欲が無限に湧いて来る!そして、その後に続く、待機された品々もまた、どれもが彼の琴線をこれでもか、と言わんばかりに刺激する!


 もはや、オークションの決まりも礼儀も、彼の前では無意味だった。


 これから、前代未聞のオークションが始まる、その前に客席から立ち上がり、檀上を目指す者がいた。


 余りにも非常識で、大胆な行動に出た者を、止める者は誰もいなかった。


 その迫力に圧倒されてしまったのだ。


 男は壇上に出ると、変化の腕輪を外し、自分の正体を明かした。


 ドワーフの国では人間国宝に指定され、鍛冶王、鍛冶の神とも言われる、稀代の天才鍛冶師ヴァルカンであった。


 このオークションでも彼の手掛けた作品が出され、どれもが信じられない様な高値で落札されていたので、彼の名をこの場で知らぬ者は誰一人としていなかった。


 そして彼は言った。


「これが、この国のオークションの決まりを逸脱した行為だとは分かっている。それに対しては、幾重にも謝罪しよう。この会にも、何か補填をしたい。


 だからすまないが、これから出る、『流水』の素材、全てを私に買い取らせて欲しい!


 これが、私自身の勝手な我が侭だとは分かっているのだが、私は今までずっと長い不調スランプおちいっていて、何も物を造れず、苦しみ続け、それを脱却する為の何かを求めていた!


 そしてある朝、私に天啓が訪れ、このオークションに、私の不調を打ち破る素材が出る、と脳裏にささやかれたのだ。


 だから、私は祖国を離れ、はるばるこの国の王都に滞在し、今まで2回程オークションを見て来たのだが、そこに私の求める者はなかった。


 だが今日、天啓は本物となった!


 本当に、私は正当な規則すら守れず、この様な無法を、無様に押し通そうとしている自分を、愚かで大変恥ずかしいと思うが、どうか、私の長く続いた絶不調スランプを打ち破る協力をしていただきたい!


 私は、これから出る『流水』の素材の代金と、このオークションへの迷惑料、皆さんへの迷惑料も込みで、私の全財産、3百億ディナールで手を打って欲しい!」


 会場が、嘘の様に静まり返り、誰もがその対応に困っていた。


 ただ彼は普通に、その膨大な財産で『流水』の素材を落札すればよかっただけの話だったのだが、彼は自分の全財産を馬鹿正直に使って、このオークションの妨害とも取れる行為の代金と、おまけに客への補填まですると言っているのだ。


 彼の全財産の金額と、その絶不調スランプ脱却への意気込みを聞けば、誰も彼に競売で勝てないのはもう充分理解出来ている。


 客側としてはもう納得し、運営側の裁定を待つしかないだろう。


 そして、運営側としてもほぼ損のない交渉ではあるが、あと一歩、と考え、オークションの司会をし、事実上このオークションのトップであるディアス伯爵は言った。


「ヴァルカン殿、私達としては、後一つ、貴方から伺いたい。それさえ了承してもらえるなら、損害は相殺されるでしょう」


「それは、いったい何かな?伯爵」


「このオークションで、その素材で造られた、武器や防具等は、扱わせてもらえないでしょうか?」


「う、うむ。私の、国での立場もある。出来れば、その品は、今回購入する素材の、十分の一程度ならば、何とかこちらに出せるかもしれない」


 彼はドワーフ国の人間国宝だ。


 造った品をほいほい国外に、自分の一存で出す訳にはいかないのだが、自分は無理を通そうとしている。何とか国と交渉しようと思うのであった。


「十分の一、ですか。そうですね。そちらのお立場も理解出来ます。では、この素材諸々は、全てヴァルカン殿の落札、と言う事で、皆さま、よろしいでしょうか?」


 伯爵の呼びかけは、盛大な拍手で向かえられた。


「ではモラン殿、そちらの素材は全て、ヴァルカン殿が買われました。それで問題ないですね?」


「あ、ああ、それは勿論……」


 モランは、表面上は平静を保っていたが、頭の中はもう混乱し過ぎてグチャグチャだった。


 高く売れた。それはいい。


 ドワーフの人間国宝鍛冶師が買い占めた。運営が認めたのだ。それもいい。


 だが、3百億ディナールってなんだ?


 確か、ドワーフの王国が、ヴァルカンの様な特別な鍛冶師に報酬を出すときの為に特殊な通貨単位で、1ディナールで、ローゼン王国の大金貨百枚以上にあたる、と聞いた事がある。


 つまり……3百億の百をかける大金貨って、一体いくらになるんだ?3万憶枚の大金貨、か?そんなに大金貨ってあるのか?


 いやこれ全部ではない。運営や客への迷惑料を引くし、自分も代理人として少しはもらえるだろうが、もうこれは、国家予算並なのではないか?


 いや、国家予算ていくらかなんて知らんのだが、本当にこれなら、どんな詐欺の借金だろうと払ってお釣りが来るぞ!


 どうするんだ、ライナーは……、いや、この場合はゴウセル商会が、か。


 ちなみに、この日のオークションは中止になった。


 モランの順番が来るまで誰一人として入札しなかったし、この大騒ぎの後ではもうオークションどころではないだろうから……。



 ※


 たった今決めた通貨単位(ちなみに中の字は、抜かしてただの金貨、銀貨、銅貨と言う事がある)


 (銅貨以下の通貨もあるが、面倒なので、省略)


 小銅貨:百円位。 中銅貨:五百円位。大銅貨:千円位。


 小銀貨:五千円位。中銀貨:一万円位。大銀貨:五万円位。


 小金貨:十万円位。中金貨:五十万位。大金貨:百万円位。


3万億枚の大金貨とは、30兆円相当?(計算が合ってれば)




頑張って書きましたが、書いてる内に自分でも……。

なんて言うか勉強不足?頭悪い?


こんなんより「香辛料」とか読んだ方がいいかも。(ぉ

次回、日常的な話挟んでから、迷宮行こうかと思ってます。

風邪、多少、落ち着いた感じです。


さてゴウセルは借金持ちから一転、大金持ちです。

一応後々の伏線なんですが、そこまで行けるかな?





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