029.少年の選択
なんとか書けました。
少し短め?
最初はこれぐらいが1話だった筈なのですがズルズルと長く。
もっと読みやすい長さ、テンポの良い、読んで楽しい文章にしたいのですが、
中々そう上手くは……
とにかく続きをどうぞ。
※
「オレが、ラザンさんの弟子になって、武者修行の旅……?」
なにか、現実離れした話で、夢の中の物語の出来事の様だ。
「そう。身分登録的には、従者、という形になるが、それで身分証を出してもらおう。A級の従者だからな、扱いもほぼ冒険者並になる」
ラザンは、ゼンが気絶していた間に色々考えていたのだろう。その場合のゼンの身分保障の件等、具体的な事にまで話は及んでいた。
「でも、その……。なんで……オレなんか、を?」
「お前は誰かに言われた事はないのか?剣の才能がある、と。
俺は、そう思った。お前ならあるいは、『流水』の技を覚えられるかもしれん、と」
「それって、その……単なる買い被りじゃ、ないですか……?」
ゼンは別に謙遜をしたつもりではなく、ただ自分にそんな大それた素質があるとは思えなかった、信じられなかったのだ。
でも、確かに、リュウエンからも、「覚えがいい」「飲み込みが早い」「剣の才能がある」と色々言われてはいた。
真面目な話、剣士を志し、鍛錬を始めたばかりの自分に対する気遣いで言ってくれているだけだと思って、ほとんど本気にしていなかったのだが。
「実際、先程の立ち合い稽古で、お前さんは充分その片鱗を見せている。
まだ見様見真似の真似事だが、俺が教えれば、それは本物に至るだろうぜ」
『流水』の眼を疑うのか?」
『流水』に才能を認められた?
にわかには信じ難い話だが、もし本当なら、嬉しくない筈がない。
(でもそれって、オレが、ここを……フェルズを離れて旅に出る……)
ゴウセルの顔が、西風旅団の4人の顔がすぐ心に浮かんだ。あの人達と、別れる……!?
その時唐突に、昨夜見た夢の内容を思い出した。
黒い悪魔達が見せた、とびきりの悪夢。
あの時、自分が”動けなかった”場合の、可能性の世界だと、あいつ等が言った、ロックゲートのボス戦で西風旅団の4人が、全員皆殺しにされる光景。
その後、迷宮から転移排出され、ギルドの職員達に助けられてギルドの治療室に保護されて、ギルドマスターのレフライアに、『リュウエン達がした様に』、青黒いオークの報告までする。
まるで本当にそれが起きた時にはそうなるのだと言わんばかりに。
恐ろしい程の現実感、質感さえあり、報告が終わった後レフライアは言った。
『こんな悲劇が繰り返される事はもうない。これは、ゼン君のお陰よ』と!
それは、リュウエン達が言われた言葉だ!
その時の、克明な状況の、余りの悲惨さと、あった筈の現実との相似点に耐えられなくなったゼンは、思いっ切り、手の甲を噛んだ!
そして、目が、覚めた……?
違う、あの黒い悪魔がいる世界に移ったんだ。
そして、あの黒い悪魔達は笑いながら言った。世界には、その時その時の未来を、大なり小なり変える選択肢を、選ぶ時がある、と。
上手く選べるなら、状況は好転する、駄目な方を選べば当然……。
夢の記憶の詳細は、どうしてもよく思い出せない。
強烈な印象で残っているのは、ボス戦で全員が残酷に殺される光景と、悪魔達の、ゼンをあざ笑う言葉の数々……。
『君は今の所、それ程悪くない選択肢を選び続けている。
だが、先程見せた、”あったかもしれない世界の光景”を見ても分かる様に、それは何かを一つでも間違え、選びそこなえば簡単に失われる、綱渡りの幸福だ。
君はこれから、どれだけ”間違わず”に選択を出来るのか、楽しみだね……』
手の甲の噛み跡は、まだ血が滲んで痛む。
「急に言われても困るかもしれんが、俺には時間がない。急がないと、恐らく邪魔が入る。とびきり厄介な奴が……」
ラザンは顔をしかめて唸る。
ゼンには予想もつかないが、彼がそう言うからにはとんでもない障害なのだろう。
ゼンはラザンの言葉と、先程急に蘇った悪夢の光景、悪魔達の戯言によって混乱が激しくなって来る。
「ラザンさんから見て、オレは、強く、なれますか?」
思わず出た言葉。強くなれれば、あの悪夢の様な世界の確率を低く出来る?
「絶対にとは言わんが、充分成れると、俺は踏んでいる」
何事も断言する事等出来はしない。それをするのは無責任だ。
「オレは、どうしても強く、なりたい、今すぐにでも!」
ゼンは切羽詰まった様子で言葉を吐き出す。
「それは何故だ?」
この短い時間の内に、ゼンの様子が大きく変化した事は、ラザンも気づいていたが、流石に相対する少年の心の中まで見える訳ではない。
何か、そう言い出す切っ掛けとなった事でも思い出したのだろうか、位までは察したが。
「お前はまだ幼い。7、8歳ぐらいだろ?」
「ギルドの判定具だと、十歳らしいです。スラム育ちで、栄養が足りなかったからだろうって……」
「十歳……。それでも、成人には、この国じゃ5年はあるだろ。何故今すぐ、なんだ?」
「それは、守りたい人達がいるから……」
ゼンの顔色が悪い。まるで、”その守りたい人達が死んだ光景”でも見た様に。
「ふむ。そいつらは、お前より強くないのか?」
「いえ、基本的に、オレより、全然強い、です……」
リュウエンの斬撃、ラルクスの堅実な動き、サリサリサの上位魔術、アリシアの補助、治癒。
西風旅団は、十二分に強く、バランスのいいパーティーだ。
「なら、急ぐ必要はあるのか?」
「あり、ます……」
ゼンの様子はどこか悲壮だ。
「その人達が、一回死にかけた、時がありました。結果的には全員無事でした。
でも、何かが掛け違えば、人は簡単に死ぬ……。どんなに強い人でも……。
ラザンさんも、今日……」
耳に痛い話をされ、ラザンは顔をしかめる。
「俺によくしてくれた、スラムの人達は、皆すぐ死ぬか、いなくなるかしました……。
だから、オレは、もう誰も失いたく、ないんです……!」
真情をを吐露するゼンは、泣きそうにも見えるが、涙を流していない。
「誰も、か。難しい事を言うな。
……成程、それで自分自身が強くなり、少なくともそいつらと同等以上になって、一緒に肩を並べて戦える様になりたい、ってところか」
「そう、です。よく分かりますね……」
「そりゃあ、俺だって弱い時代があったからな。誰もが通る道だ」
「ラザンさんに弱い時?」
ゼンの余りにも意外そうな顔に、ラザンは声を出して笑う。
「ないと思うのか?
別に俺は剣を持って生まれ、最初から自在に気を使えた、とかそんな馬鹿げた存在じゃない。
誰もが最初は弱い。悲しい位に弱い。だからこそ、強者を志すものなのさ」
そう言って、ラザンは少し考え込むと、ゼンを見て言った。
「俺も、ちょっとくだらない昔語りをしよう」
そうしてラザンは何もない、汚い天井位しか見えない上を向き、昔を思い浮かべる様に話し始めた。
「……『流水』を使えるのは、もう俺しかいない。
流派が、その国の、王に認められそうになった時、他の流派が結託して、俺以外の全ての者が殺された。皆殺しだ。剣士だけでなく、その家族までも、な。
しかも、尋常な勝負で、じゃない。宴席に毒を洩られた、卑怯卑劣極まりないやり口だ。剣士の風上にも置けないクソ野郎どもだ。
たまたま俺はそこに居合わせなかったんだが……。
俺はだから、その件に関わった、全ての人間をぶち殺した。
やられた事を仕返ししただけなんだが、俺はその国では単なる大量殺人鬼だ。手配もかかっている。
だが、捕まってやるのも業腹でな。外の国まで逃げて逃げて逃げて、今は、ここだ。
正直、もうどうでもいいと思っていた。ここで朽ちるのも運命。『流水』は俺で終り、後には何も残らずに………
だが、もし、お前に『流水』が伝えられるのなら、俺もここまで来た意味があったんじゃないかと思えてな。
だから旅に誘った」
ラザンは顔をゼンに向け直し、静かな声で淡々と語り、ゼンを真正面から見る。
ゼンは思う。
この人も自分と同じ、いや、もっとそれ以上の、死や悲しみを見続けて来た者。そのの眼差しなのだ、と。
「これはつまり、俺の勝手なエゴだ。
だから、お前も俺を好きなだけ利用するといい。最速で強くなりたいなら、俺と来る事だ。
そして、お前が自分で満足いく強さになったなら、フェルズに戻ってくればいいさ。
俺も別に、ずっと旅がしたい訳じゃない、今がその時だと思っただけだ。
お前を束縛する権利は、誰にもない」
ラザンは何かを放り出す様に言った。強制はしない、と言いたいのだろうか。
「最速って、どれぐらい、ですか?」
「それはお前さんの努力次第。そして、自分がどの程度で満足するか、妥協するか、だな」
「……妥協?」
「そうだ。剣の、いや、強さの高見そのものにゃ、恐らく終わりはねぇ。
強くなろうと思えば何処までも、果てなんざ、ないと俺は思うね。
だから、その到達地点に『神』とかいう胡散臭い目標地点を設定してるんだろうさ」
ラザンは鼻で笑う。
彼にとって、神だの進化だの試練だのは、単なる戯言だ。
それに真剣に取り組んでいた『神の信奉者』等と言う傾き者達は、単なる道化に過ぎない。
「何処かで終りを見極め、仲間の元に、お前の大切な所に戻ればいいさ。
引き際を見誤るなよ。それもまた、選択だ。戻る選択、行く選択」
そう言って外を見るラザンの目は、いったい何を見ているのだろうか。彼にはもしかしたら、その終わりすら見据えて……
「ラザンさんも、いつかフェルズに?」
「どうだろうな。また、何処かの国に居つく可能性もある。戻る可能性もある。
居心地が良い所なら、何処だっていいさな」
本当に、ラザンにはもうどうでもいいのかもしれない。
恐らく、彼の守りたかった者はもう……。
「そうだ、まだあったな。
お前はここに……フェルズに残る選択もある。
仲間と一緒に、遅くとも着実に強くなれるだろう、お前ならな。
それにも利点はある。
仲間の危機に、その場に居られる、という結構大事な利点だ。
旅から帰って来た時には、知り合いはもう誰もいない。皆、死んじまってる。
そんな事だって、絶対にあり得ない事じゃあない。あっても少しもおかしくないんだぜ」
ラザンの言っている事は、悲しい位に正しい。
”どんな事だって起こり得る”
なら、オレは何を選べばいいのだろう。
ゼンは激しく迷う。
ラザンについて行き、剣を学ぶ。魔獣と戦う。世界中を回って、まだ見ぬ様々な物を、人を、世界を見れる。それは色々な意味で魅力的な話だ。
だが、それはフェルズとの、親しい者達との離別、決別を意味する。
今ある幸福を、ぬくもりを、良くしてくれる仲間達を、親同然のゴウセルを、例え一時だったとしても捨てる?離れる?別れる?
想像するだけで気分が悪くなる!
心が引き裂かれそうだ!
ずっと、すっと、ずっと一緒にいたいのに………!
だが、そこで浮かぶのは、あの悪夢の光景だ。
弱い事は、この過酷な世界ではどこまでも罪だ。力なき者はいつか残酷に淘汰される。
そして、自分は今、限りなく弱い存在だ……。
「……もうすぐ日が暮れる。難しい話だ。その、お前さんが大事に思う奴等にも相談するがいいさ。そいつ等も、同じ様にお前を大事に思っているんだろうからな。
……お前がどうあれ、俺は明日の朝一でフェルズを発つ。
一応、少しは待つが、余り長くは……」
ラザンが最後まで言い切る前に、ゼンは言った。
断固たる決意を込めて。
「……行きます。オレ、ラザンさんについて、行きます!」
ラ「あ?俺ぁ、いいよ。こういうの苦手でね」
ゼ「え、と。次、みんなに話に行き、ます」
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