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181.夜の女神と、これからの事

ちょっと、思ってたのと又違う話になりましたが、

間違ってはいないので……

前話の後書き部追加


21:25 後書き部追加



 ※



「もしかして、サリサの治療に来てくれたんですか?」


 ゼンは、アルが言った事を思い出して、ノート(夜の女神)に問いかける。


 ノート(夜の女神)は、何故か一拍の間を置いた後、ゼンの質問に答えた。


「―――あー、ええ、ええ。そうそう、そうなのよ。加護を持つ乙女の苦しみを感じ取って、降臨したのよ」


 なんとも、嘘だとすぐ解る下手な答えで、何だかゼンは、どうでも良くなって来た。


「ノートさん。へー、夜の女神なんだ~~」


 それを聞いて、まるで平素と変わらないアリシアは、かなり異常で異質だ。


「サリサを器とせず、何か印象が不安定なのですが?」


「ああ、それは、私が夜の女神だから、夜になればそこは私の領域。その時間帯で、私を知る人の子、信徒、神に関わりのある者などがいれば、私の存在を感じ取れる程度の形を取れるの。なにせ、夜そのものですからね」


 神に関わりのある、でアリシアを見る。間違いなく、彼女の事だろう。自覚はないようだが。


 で、面識ある自分とサリサ。サリサには加護があり、信徒の部類にも入る?


「アルティエールもいるかと思ったのだけど、あの子は私達と余り顔を会わせたがらないから、仕方ないわね」


 小さな苦笑。アルは原種の割に、ゼンの様に神嫌いなところを、時々見せていた。


「そっか~、サリーは黒髪だから、そっち系なんだね~~」


 ゼンが入ってくる前から、すでに仲良くお話をしていたらしい。


「そういうものらしいわね」


 サリサ自身、器にされるまで知らなかった話だ。


「でも、神の加護って、本人にも他人からも分からないんですね」


 ゼンは、サリサはベッドで、他は適当な椅子に座っているので、自分も予備の椅子を奥から持って来て腰かけた。


 3人の女性は、それぞれゼンの作った果実のゼリーを美味しく食しながら話を続けた。


「う~ん。昔は、そうじゃなかったのよ」


 女神の昔とは、何世紀どころではない、超古代な時代だろう。


「人ってどうにも、神の加護で、すぐ区別や差別をするようになって、とにかく教会関連とかね。例えば、我が加護を受けし、サリサリサなんて、ヘル(魔神)の加護も持ってるでしょ。それは人にとって、魔術の才があるって事なのに、何故か教会とかでは、魔女だ、魔族の血が流れているんだ、異端だ、とか言い出して、迫害するの。結構無茶苦茶だったわね」


「へぇ……」


 そんな時代もあったのか、と感心する。


 そもそもヘルは冥府を司っているし、世界の魔素マナ全般に関わっている。魔族専属でもなんでもない上級神だ。


「元々神の加護は、多岐に渡るものなの。獣神は、獣人族に加護を与えているけど、普通の獣や、魔獣なんかもその範囲に入るわ。それをただ、獣神の加護の眷属、なんて大雑把な勢力にまとめてしまったら、もう何がなんだか分からなくなるのよ」


 確かに。獣人族だって、獣を狩って食料とし、強大な魔獣は敵でしかない。魔族にも獣要素を持った人種ひとしゅもいる。神の加護での区分けはナンセンスで無意味だ。


「そこら辺、託宣とかしなかったんですか?」


「勿論したわ。でも、人は目に見える事に囚われ過ぎるのよ。特に神の加護については。だから、結局神の加護は、基本、人には絶対に見えない、分からない様にしたの。看破するスキルとかもなしね。世界のことわりとして、そうなったの」


 賢明な判断、と言えよう。人はすぐ派閥を作り、揉めるのが好きな生物だ。


「大体、魔術を使う者は大きな戦力となるから、そうした後の時代では、術士の血族が国をまとめ、それを統率する様になったのよ。王族、貴族なんかの始まりね。その前は、差別の対象だったのに、次は、高貴な血筋とかって、もう極端なんだから」


「へぇ。そういう成り立ちなんですか」


「大体の、人間の国ではね」


「でも、神々の加護って、遺伝するんですか?」


「勿論、しないわ。完全無作為で、加護を与えない時だってあるのよ。だから、サリサリサやアリシアの先祖って貴族?」


「……そんな話、聞いた事ないですね。東方からの移民でしたし」


「うち、完全無欠の一般庶民~~。大体農家で、商人や狩人してた人がいるぐらいかな~」


「って訳で、国の上層部の特権階級は分かりやすい“力”である術士を独占したいのに、実際は出来ていない、と。確かに、ある程度の適性は遺伝するし、政治とか、魔術関連で学習法、応用法の確立はしてても、実際の才能豊かな子孫は、そう上手くは産まれない、と」


 優秀な魔術師の子、必ずしも上位魔術師ならず、な訳だ。


 血筋で多少の適性は受け継がれるようだが、それも本人が努力して磨かなければ、一般市民に生まれた加護持ちや才能ある者に、簡単に追い抜かれる。


 階級社会の固定化、というのはほぼ無理なのだろう。


「王都の魔術学校は、貴族と一般公募とでクラス別れているのだけど、貴族の特権意識とか、尊厳プライドとかむき出しで、平民への扱いが物凄いの。自分達は大した術も使えず、覚えようって苦労もしない癖に……」


 溜息まじりにサリサが話す。


 そんな学校に嫌気がさして、飛び級でムキになって勉強して、とっとと首席卒業した経歴のサリサだった。サリサ自身、苦労やいびりとかにあい過ぎて、その時に事は思いだしたくもないと前に語っていた。


「なんて、かなり脱線した話になったわね。私は、ゼンに、『超回復』な加護を共同で与えたのに、ヘルがしばらくその立場を悪用……職権乱用して抜け駆けしてたから、私も直接、ちゃんとお礼をしたかったの。こんなついでじゃなく、もっと何かちゃんとした……」


 と言ってノート(夜の女神)はサリサの額に手をかざす。


 淡い光がその手から溢れ、サリサの頭部を包んだ。


「急に詰め込み過ぎよね。貴方も律儀にそれを考えるから、余計に熱が出たのよ。私の方で、ある程度情報を整理して、熱も引き取ったわ。


 でも、また考え過ぎれば熱が上がる事もあるでしょうから、思索は程々に、ね」


 とサリサに注意を与え、ゼンに向き直る。


「何か、私個神としても、お礼がしたいから、考えておいて欲しいわ。例えば、貴方にスキルを与える事が出来なくても、従魔になら出来ると思うから」


 と意味深に言った後、窓を開けると、笑顔で手を振り、ノート(夜の女神)は夜の闇に溶け込むように消えてしまった。


(従魔にって、もしかしてミンシャの事を言っているのかな……)


 ミンシャは、元がコボルト(犬鬼)の従魔だ。


 だから、他の従魔程に、特色のあるスキルがなく、そのせいで自分は余り役に立ってないと思い込んでいるフシがある。


 料理やその他、家事の雑事全般の補佐を受け持ってもらって、修行の旅の間も、ずっと助かっているのだが、立場の近いリャンカに、完全治癒のスキル等があって、よく使われるために、比較してしまう様だ。


 ゼンはむしろ、ミンシャが大事なので、戦いなどに参加して欲しくなかったのだが、従魔の本能的にはそれだと困るし、悲しいのだろう。


(何か、夜間関連の、他の従魔になくて、良さそうなスキルでも考えておくか……)


 あくまで、実戦的なものでないのを、とゼンは考える。


「……で、サリサは具合、よくなった?」


「あ、うん。大丈夫よ。熱はないし、頭の中も整理された感じでスッキリしているわ」


 顔の火照りもなくなり、確かにシャッキリとした感じになっている。


「良かった、良かった~~」


 アリシアもニコニコ大喜びだ。


(本当に、大物って言うか、謎だなぁ……)


 女神が影とは言え、顕現したのに、まるでちょっと変わったお客様が来ただけ、な対応だ。


 ゼンは神々に、アリシアの、加護系統の事を聞いてみる、という選択肢もあったのだが、それを聞いてもいい事情なのかどうか、躊躇うゼンなのだ。


(アリシアはアリシアで、何かを聞いて変わる事はないだろうけど、深い事情があったりしたら……。いや、そういう話かどうかを、事前に聞けばいいのかな……)


「具合、良くなったんだし、二人でお風呂でも入って来たら?俺も、ずっと入れなかったから、入って来ようと思うんだけど」


「あー、そうね。さっき着替える時、シアに身体拭いてもらったけど、やっぱりそういうのと、お風呂って別よね」


 風呂はただ身体を綺麗にするだけでなく、あの湯につかり、疲れが取れるような感覚そのものが癖になるのだ。


 アルティエールも、ジークの操縦席(コクピット)内で苦労していた……。


 思いださなくていい事を思い出して赤面するゼンだった。



 ※



 風呂に入り、丁度居合わせたダルケン達と、他のPTが戻って来たら、の話で従魔育成の話をしたら、大盛り上がりになってしまった。


 爆炎隊は、ギルドから概略的な話は聞いていたが、自分達がすぐ、それに取り掛かれると思っていなかったのだ。


 リュウ達も、ゼンが帰って来てから話す方がいいと判断していた様だ。


 で、ゼンが以前ギルドに通っていたのが、その関係の話で、試験的な育成に立ち会っていた事、ゼンがその技術の創始者と言える『東の隠者パラケス』と一緒に行動していて、その技術確立の手伝いをしていた事等を、ようやく明かせた。


 もう公開済みの話なので、自分が関わっていた事を秘密にする必要がなくなったからだ。


 だから、ギルドからの技術指導を受けなくても、ゼンがいればそれで済む、との話に大興奮だった。


 フェルズのギルドの方では、入院している上級冒険者等の治療の兼ね合いもあって、希望者全員にすぐ教えられる体制になかった。なので、希望者は順番待ちなのだが、試験育成で指導教官を務めていたゼンがいれば、順番など関係なく、すぐに始められる。


 これは、クラン『東方旅団』の、実質的な特権だった。


 そして、今彼等は中級迷宮ミドル・ダンジョンをクリアし、B級の試験に受かりさえすれば、それでもう上級。すぐにでも従魔育成が始められる。


 しかも、今フェルズで一番従魔に詳しいと言ってしまってもいい、パラケスの助手をしていたゼン本人からだ。


 これは、この状況になって初めて分かる、クラン参加の、大きな優位性アドバンテージとなる情報だった。


 事前にこれを教えられたら、もっとスムーズなクラン勧誘が出来たのだろうが、あの時点ではそれは出来なかった。


 しかし、だからこそ、彼等は自分達の英断が、決して間違ってなどいなかった事を、今更ながらに再確認出来たのだった。


 それは、いずれ戻って来るであろう、他のPTにも同様の話だ。


 そして、全ての準備が整った、その時が、クラン『東方旅団』の伝説的な快進撃の始まりとなるのだが、まだそれは、しばらく先の話であった……。



ハ「……扱い、ひどくない?ボクらだって、ギルドから帰って来て、食事してるのに」

エ「サリサさんが具合悪いから、仕方ないでしょ」

コ「コロンは、明日、呼ばれるみたいです」

ハ「むー、アルばっちゃまからは、魔具造るの頼まれたけど、なんか凄い見下されていたし……」

エ「始祖様は、ゼン様との婚約が本決まり、らしいわ」

ハ「え、なんでそれ、ボクが聞いてないの?」

エ「私に聞かれても…」

コ「へえ。まだ結婚もしてないのに、婚約者増えるんだ、何か凄いね」

ハ「ぐぐぐぅ。ばっちゃには、断固抗議する!」

エ「……後、従者の二人とも、婚約が決まったみたい」

ハ「えーー!?」

コ「なんかもう、違う世界の話だね」

ハ「同じ世界の話だよ!エリンはどうして知ってるの?」

エ「ザラさんから聞いたの。ゼンさんいなくなってすぐ後、あの二人、妙に機嫌がいいと思えば……」

コ「さすがに、もう無理じゃない?ハルちゃん」

ハ「いや、無理じゃないよ!逆に、それだけ複数と結婚してくれるのなら、後一人ぐらい増えても変わらないよ!」

エ「二人も変わらないわね」

コ「二人とも、心が強過ぎて、コロンは怖いです……」

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