162.月面決闘(1)月下の騎士
「あんた、背中が〇けてるぜ」は同作者の別作品の決め台詞。
月面上だと月下にならんとですよ
今日はなろうジャンル別日刊91位でした。
昨日も入ってましたが、慌てて書き忘れ~
※
【月の重力、引力は、『アースティア』の約6分の1、火星よりももっと低重力下での戦闘になる。注意するのじゃな】
ジークが月に、静かに降り立つと、ミーミルが月のうん蓄を披露して、注意を喚起する。
「……了解しました。ジークだと、垂直に跳躍しただけで、その勢力圏を出てしまいそうで、怖いですね」
「普通に外に出れて、格闘出来たら面白いのじゃがな」
二人は、軽口を言っているようで、その実、ひどく緊張していた。
【解っていると思うが、月は、母星の潮汐運動にも関わる、重要な衛星だ。ここに何かあって、津波等が沿岸都市を襲うような事になったら、被害は大きな物となろう。派手な戦闘は出来んぞ】
とテュールが、わざわざ注意するような事があるからだ。
月の地形が変わり、重さが変わるようなド派手な事は当然出来ない。
火星中心空間で行ったような戦闘は禁止だ。
もっとも、ゼンにとってはその方が手慣れた戦闘になる。要は、実剣で相手を地味に倒し、殲滅出来ればいいのだ。
こちらと違って、背中から墜落する様に月に降りた、ヴォイドの機神モドキは、妙に不自然なギコチナイ動きで、なんとか立ち上がると、金属製の剣を抜き、構える。
【以降、偽機神とでも呼称するかのう】
「……誰に話しかけてるんですか?」
【無論、お主らじゃよ】
ゼンも、収納空間から毎度おなじみ、機動装甲兵装用の大剣を取り出し、構える。
加速ユニット用の金属に、収納空間の兵器をほとんど使用したが、大剣だけは、予備を含め、複数残しておいた。ジークの“力”で壊れてしまうかもしれないからだ。
相手は妙な棒立ちに、やる気の欠片すら見えない構え。
(やはり、人型になった意味が、皆目分からない。戦闘力が低下するとしか思えないのだけど……)
白を基調とし、ところどころ赤いラインの入った、どこか無機質で、機能美を感じられる様な機体だ。普通に盾も持っている。
「むう……。まるで主人公カラーな機体、気にくわんのう」
「……白ってそうなの?ジークも綺麗な蒼になったけど」
「蒼な主人公機体も、なくはないが、白の方が多いのじゃ」
「まあ、白って、聖なる光って感じで、教団の法衣とか、神官服とかにも多いからね」
アリシアが使っていた神官見習いの服もそうだった。白は純白で汚れがなく、正義の主調だったりするのだろう。洗濯する主婦の身になれば、汚れやシミの目立つ、厄介な布だったりもするが。
二人が呑気に雑談の興じているのは、目前の敵の動向が読めず、不気味だったからだ。
まるでカカシの様に棒立ちだが、一応剣を構えてはいる。
今までも、考えが読めた訳ではないが、積極的に攻撃して来て、余り待ちに入った覚えがない。
それでも、いつまでもにらめっこをしてはいられない。
ゼンは、覚悟を決めると、ジークを前傾姿勢にして、なるべく浮かない様に、偽機神へと突っ込み、
「っ!!」
途中で慌てて横っ飛びに軌道を変え、偽機神から距離を取った。
「ゼン、これは……?」
「分かってる……」
突然、偽機神の構えが変わり、まるでそれは、剣の達人の様に隙のない、迫力すら感じる構えへと変貌したのだ。
(今までのこちらの動きを見て学習した、とかじゃない。アレは、俺がする様な、『流水』の構えじゃない)
まるで、正統派の剣。冒険者の剣士とも違う、それは、誰かの剣を思い起こされるものだった。
(まるで、シリウスさんみたいな……騎士の、剣?)
だとしても、ゼンはシリウス以外でも、旅の途上、そこの騎士団と揉めて、戦う事も何度かあった。(大抵がロクでもない国の、ロクでもない騎士団だった)
騎士の剣は、型にはまり過ぎて、奇剣、とも言われた『流水』に対応出来る者は、ほとんどいなかった。師匠相手でも、弟子相手でも。
ゼンが覚えている中では、互角以上に渡り合えたのは、シリウスぐらいしか存在しない。
相手が何で、どうであろうとも、倒す敵に変わりはない。
「アル、ジークを重くしてもらえる?」
「うむ?重力魔術かや?同調しておるのだから、そちらでも使えるじゃろうに」
「俺、剣の方に集中したいから」
「そうか……。一筋縄ではいかん感じじゃしな」
アルティエールは、魔術や精霊術だけでなく、武器を使っての戦闘や格闘にも精通している。
それでも、相手が簡単に倒せる様な相手ではない事が分る。それはゼンも同様だ。
「うん。だから、お願い」
そして始まる、剣対剣の、基本的な戦闘が。
基本的、と言ってもゼンの剣は、素早く動き、相手を翻弄して奇襲もありの、どこか暗殺者や忍者を彷彿とさせるような動きが多い。
対する偽機神は、どっしり構え、不動の態勢で、ゼンの素早い攻撃、全てに、剣と盾で対応する。
(……『流水』がうまく作用しない。対応を練っていたシリウスさんみたいだ。今まで吸収して来た生物の中に、剣の達人でもいたのだろうか?)
自分の“気”で、『流水』の力の向きを変える力を相殺する。
するとそれは、まったく普通の、剣と剣がぶつかり合うだけの真っ当な、剣士と剣士の、力と技の応酬となる。
基本、受けているのが偽機神で、積極的に攻撃しているのがジーク(ゼン)と、いつもとは逆な戦況であったが、攻防は互角で、攻め切れていない分、ジークの方が微妙に不利に見えていた。
ゼンは、自分の覚えた『流水』のみならず、アルティエールの習得した技術も共有して使っているのに押し切れない、異様な強さであった。
剣を手前で、無意味に空ぶらせる、そしてその剣の勢いのまま、空中前転、かかと蹴りを、左右二連の時間差で、腕の盾ガードを無理に下げ、もう一発を頭にお見舞いする。
奇襲で、多少無理矢理な態勢での一撃だったので、浸透する力が余り込められなかったが、やっと入ったまともな一撃だった。
「……まるで格上の戦士と戦ってる気分だ」
「うむぅ。わし等の技術と、ジークのパワーを合わせて、押し切れんとは……」
「火星の星霊が、力を、別の敵にかなり移してた、って言ってたから、それでパワーアップしてるのかも……」
「ゼン、そういう大事な情報は、ちゃんと言え~~~!」
「いや、同調で共有する情報の中に入れてるよ。アル、ちゃんと確認してないだろ?」
「……何のことやら、解らぬのう……」
アルティエールはどうも、戦闘をゼン担当と考え、余り戦法や戦術を考えるつもりがなかった。だから、情報確認も適当だったのだ。
互角に見えて、押し切れない状況。
それは、使っている武器にも言えた。
「チッ、もう駄目か」
ゼンは、もう今日何本目かになる、壊れた剣を投げ捨て、収納空間の剣と交換をする。
相手の防御を破る為、剣を破壊する為に、自分の大剣に込めた力が剣の耐久値を超え、どうしても剣が壊れてしまうのだ。
「ゼン、エネルギー・ソードを使った方がいいのではないか?実剣に拘っても、向こうの剣の方が、何の金属を使っておるのか解らんが、こちらを超えた物であれば、今の膠着状態は打ち破れんぞ」
ゼンが実剣に拘るのは、それだけ自分の未熟さで、偽機神を圧倒出来ないような気持ちになっていたからだ。
だが今は、ちっぽけな自分の矜持を意固地に主張する場面ではない。
「そ、そうだね……。はぁはぁ……ぐっ……なんで、か、眩暈が……」
ゼンの、荒い呼吸と、疲れ切った声の様子を不審に思ったアルティエールが、ゼンのバイタルサインを確認して、驚愕の余り、心臓が止まるかと思った。
全ての数値が軒並み低く、それはまるで重病や重傷で衰弱し切った、重傷者のようだったのだ。
【??ゼンの生命エネルギー、そのものが、減少している?】
【ジークを操縦しての衰弱のみではない様じゃな。何故、これ程までに急激な……】
神々までもが驚きの声を上げている。
「ゼン、様子がおかしい!奴から距離を取るのじゃ!」
「わ、わかった……」
返事をするのも億劫そうだったが、ゼンはジークを『流歩』で下がらせる。
アルティエールは一旦重力操作の術も取りやめて、周囲に防御の結界を張った。どうやってかは解らないが、敵の何らかの攻撃によるものとしか思えなかったからだ。
しかし、それなら何故、同じ操縦士である自分の方にも、何か影響がないのか。彼女自身は、まるで何も感じていない。それが余計に不思議だった。
アルが誤解する、数日前の夜。
ゼ「……今日は月が綺麗だね」
ア「!!!い、今、なんと言ったのじゃ?」
ゼ「え?だから、月が綺麗だね、って」
ア「何、遠回しに奥ゆかしい表現しておるのじゃ!」
ゼ「え?何が?遠回しって、むしろ直接的表現だと思うんだけど」
ア「お主は、そういうとこが、アレじゃ、アレ!恥ずかし気もなく言いおってからに!」
(アルは真っ赤になって、ゼンの部屋から転移で逃げ出した)
ゼ「??勝手に転移で部屋に入って来て、話題に困って月の話したら怒られるって、理不尽じゃない?」
(ゼン君に異世界の文豪の知識なんてありませんw)
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