013.ギルドマスターと謎のエルフの愉快な歓談
遅くなりました。
ちょっと間に合わせっぽい内容なので、後日手直しするかもですが。
後書きも~
※
「ううぅ、なんて健気な子なの……。流石は私の義理の息子(仮)ね……。もう泣きそう……」
魔力を込めれば任意の音、映像を記録出来る魔具、メモリークリスタルから聞こえている会話に耳を傾けながら、迷宮都市フェルズのギルドマスター、レフライア・フェルズは、感動的ね、尊い、尊いわ、とかつぶやいている。
このクリスタルは音声のみの物だった。トイレの個室の壁を映しても意味はない。
「……いえ、ギルドマスター。もうボロ泣きです」
ギルドマスターの執務室。
ある商会にて秘密の任務を遂行中の某スカウトは、顔を隠す黒布の上から手で眉間を押さえ、頭痛がすると言わんばかりの仕草をする。
「あ、あら、そうね、そうなのね。それなのに、ハンカチ一つ差し出す事も出来ないなんて、気のきかない男ね。雇い主に対して、紳士的な行動も出来ないのかしら?」
「私はこんな悪趣味な盗聴をする、ゲスで卑しい一介のスカウトに過ぎません。紳士である筈がないでしょうがっ!」
多少の怒気を声ににじませ、それでも自分のハンカチをギルマスの机の上に投げ出す。
「機嫌が悪いのね。でも、いにしえの尊きハイ・エルフの末裔が、『ゲスで卑しい一介のスカウト』に過ぎないわけないでしょう?」
そのハンカチで当然のように涙をふいたレフライアは、黒い布で頭部、及び顔面までもグルグル巻きにして、目元以外を隠した見るからに怪しい風貌の相手に皮肉げに問いかける。
「血統に意味等ありません。それに、卑しい行動をしている事に変わりはありませんから」
「でも、スカウトとは本来そういう縁の下な仕事するものよ。余り無意味な卑下で自分を貶めても意味ないと私は思うわ」
「………」
「それに、この養子を申し込む話には、本来私も同席する筈の話だったのよ、内容を聞く正当な権利が私にはあります!」
「………」
「なのにゴウセルったら、また先走って…!」
「………」
「まあ、『西風旅団』のメンバーが、ゼンの引き留めをして、あまつさえ自分達が教師役をして将来のパーティーメンバーに、なんて素敵な申し出をして、とても遠慮深い感じのするこの子が、その申し出をはにかみながらも受けたんですもの」
当然、この時の様子も、こちらは映像付きで視聴済なのだ。
「なんか流れと勢いで、この子がさらに喜んで、あの申し出も受けてくれると思ったのね。その気持ちは分からなくもないわ」
レフライアは、その一部始終の記録データが保存された二つのクリスタルを手の平の上でもてあそびながら、半ば独白のようにつぶやく。
「でも、それを断って、なんで?!て思ったら、理由が、自分はもう貰い過ぎてるから、恩を返せない、幸せ過ぎて死にそうって、……やだ、また涙が……」
「………」
その気持ちは、彼も分かる、と密かに思った。自分も、会議室の隣、暗くなって視界のきかない狭いトイレの個室で、物音を立てて気づかれたら申し開きようもない状態だ。ただただ声を押し殺して静かに泣いた。
「……そろそろ、いいですか?会長補佐としては、会長が出勤される前には執務室で待機したいので」
茫然としていたレフライアがその声でハっと我に返る。
「そ、そうね。でもその前に一つ」
「……なんでしょうか?」
「あなたの任務は、私とゴウセルの事が上手く行って婚約した、あの時点で終わりにしても良かったのよ。でも継続任務を望んだのはあなたの方。理由を聞きたいのだけど」
「……ご結婚されるまでの時点が、正確な任務完了になるから、と説明した筈ですが?」
「そう。確かにそう聞いた。私も一応は納得した、つもりでした」
「……?」
レフライアは、面白そうな顔しながら、でも半ば本気で尋ねてみる。
「私には、ゼン君、っていうすっごく手強そうな強敵が現れて、もしかして実は、あなたもそうだったりするのかしら?」
「……?」
彼は最初、ギルマスの言う意味がまるで分からず、しかしその頭脳明晰な彼の思考は、意味深な表情のギルマスと、その言葉の意味するところを素早く解析し、その正確な意味を把握してしまった。
「な、何わけのわからない事を言ってるんですか!」
雇い主であり、自分の遠い親戚で女性に対し、今、本当の本気で怒り、殺意が湧いた!
「あなたが、前の女勇者が持ち込んだという、世界中の女性の数割に感染し、蔓延している怪しげな趣味の信望者とは思いませんでした!」
「あらあら怖い。いえ、私は別に、あの、や、なんたら教の信者ではないわ。でも、別に同性愛への偏見を持つものでもないの。
それにエルフなんて、そういう意味では性欲薄くて、精神性の愛を重んじる種族よ。同性愛のカップルだって普通にいると聞いた事があったのだけど……」
「……確かにそれは否定しません。だが、私が会長にその……懸想をしているのだの、そういう事は一切ありません!
長く潜入任務とはいえ、その補佐をしているんです。会長の人間性は。尊敬していますし、仕え甲斐のある人だとも思っています。ですが、そのような邪推をされるのは不愉快です!」
ギルマスの、書類が散在した丈夫そうな机に、思わず両の拳で力いっぱい殴っていた。
「あらあらまあまあ御免なさい。ちょっとだけ心配になってしまったものだから」
脅しとも取れる行為に対して、レフライアはまるでそんな事がなかったかの様に、ニッコリと艶やかに微笑む。
「……それと」
「な~~に?」
「ゼンとゴウセル会長に対しても、そんな風に言ってしまうのはちょっと酷いのでは?
彼等は、血の繋がりはなくてももう親子同然の、親と子の愛情、親愛でしょう。強敵とか言ってしまうのは、その……」
「あらあら。でもね、私としては、ゴウセルから愛情を……強い愛情を受けるのは私一人で充分だったの。女として当然の独占欲よね。
なのにこんなに強い愛情を……あなたが言うところの、親愛の情ね。を受けている存在が現れたのだから、私の女としての嫉妬や危機感は伝わらないかしら?」
「……それこそ杞憂では?
私の聞くところ、会長の初恋はあなたであり、パーティーを抜けたのもあなたに釣り合わない自分に嫌気がさして、とか、守りたい相手より弱い自分の劣等感だとか、があっての事で、罪滅ぼしにギルマスの目の治療法を探して世界を飛び回り、そして、結局のところ彼はずっとあなたの事を一途に思い続けていた様ですから。
まるで我等、エルフの様ですね」
「……聞いてない」
「だから、無意味な取り越し苦労をしないで、愛されている者の自覚を……」
「全然その話、聞いてないわよ!」
突然レフライアが爆発した!(比喩的表現)
「え?何の話ですか?」
黒布男は何故ギルマスが突然怒りだしたか分からない。
「その、初恋、とか、パーティ-抜けた理由、とか色々諸々!」
「え?そうでしたか?あれ?」
レフライアは椅子から立ち上がってジリジリと彼に詰め寄って来た。かなり怒っているのだがゴウセルの話を聞いてニヤけてもいるので奇妙な表情をしていて、かなり怖い。
身の危険を感じて必死に思い出す。
「あ、そうだ、あれです!」
「なによ!」
「ギルマスがやっと、本当にやっと告白した夜!あの時、商会の執務室で私に悩みを打ち明ける感じな流れになって、で、その後、お酒を飲むのにも付き合って、そしたらもう、会長の一人語りが止まらなくなって、もうベラベラベラ、俺はあいつの燃えるような紅い髪が好きだっただの、太陽の様に微笑む表情はまばゆさで目がくらむ、とか、聞いてるこっちにもなって欲しい程の……」
「なんでその報告がないの!」
「え?あ、だってもう上手く事が運んだんですから、必要ないかと……」
「ない訳あるか!」
「……そうですか?そうですね」
冷や汗を浮かべ、愛想笑いを浮かべても黒布を巻いているので意味がない。
「その時のメモリークリスタルは?!」
出せと手を突き出されても困ってしまう。
「……急な事だったので、撮っていません……」
「……この無能!」
「それはひどい、あんまりですよ……」
子供の様にむくれて頬をふくらませている乙女なギルマスを見ながら控えめに苦情を言ってみる。
「……レポート」
「は?」
「その時、ゴウセルが言った事、内容、一言一句全部、詳細なレポートを出しなさい!」
「え、いや、あの夜は私も付き合いで飲んでいて……」
無意味な抵抗を試みるも、当然却下だ。
「無駄に頭脳明晰なエルフなんだから、それぐらい出来るでしょ!なんなら知り合いの神術士呼んで、無理やりその記憶掘り起こしてもらうわよ!」
「わ、わかりました。レポート、書かせていただきます……」
「提出、今日の夜までね」
「え、いや、流石にそれは、私、商会の仕事も……」
「今夜、絶対、ね?」
とても怖い笑顔のギルマスに逆らえる者等いるのだろうか?
彼の受難は続く……
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