登校〜事件
お久しぶりの除霊部更新です
ブログからの転載ですが、添削に手間がかかりました笑
音声入力で小説を書いてはイケませんね
「よっ、くさっさん。 おはよ」
公志は、少し離れた場所で騒ぎを見ながら、何やらメモを取り続ける、公志より少し背の高い、メガネをかけた少年に語りかける。
いかにも真面目そうな雰囲気である。
「あ!鬼塚く〜ん!!」
くさっさん、そう呼ばれた少年は、人混みをすり抜けるように、まるで稲妻のような軌跡を描いて公志の元に駆け寄ってくる。
少年の名は『日下純一』公志のクラスメイトで友人である。
公志は狙いを定めたように、右手の人差し指と中指を立てると、ゆっくりと右腕を廊下と水平にする。
「ぐぶえぇ!」
ガマ蛙の断末魔のような声が響く。
日下の額が、吸い込まれるように公志の指へと向かい、指に触れると同時に少年の頭部の運動エネルギーはゼロへと変化する。
少年の首から下が一瞬、宙に浮いたように見えた。
「ひどいな、鬼塚くん! 首から下がさよならするとこだったっすよ!」
日下の苦言
公志は無言、無表情だ。
そこへ茉奈果が、
「廊下を走ってはいけません。ダメ!絶対!」
「エヘヘ、おはようくさっさん。」
日下は首を撫でながら、だらしのない笑みを浮かべて返す。
「あ、おはよう茉奈ちゃん!今朝も仲良く登校っすか? 夫婦仲良くて何よりっす!」
茉奈果は、たわわに実った両の胸を、両腕で隠すように…と言っても隠しきれないわけだが、腕を組んで更に返す。
「くさっさん、挨拶は目を見てしましょうね! 目線の向く先がいけません。エッチー!」
日下は悪びれる風もなく言う。
「それは、仕方ないっす!健康な男子は抗えないっすよぉ。そのウヘヘなバストがいけないんっす。」
割って入る公志のため息。
「はぁ」
「挨拶は終わったか? それでくさっさん、一体何があったんだ?」
「まぁ、最近お騒がせのアレの延長のようっすね。 ただ……」
メモに目を落としながら、日下は答え、最後に言葉を濁す。
「ただ?」
「新たに、影。 白い人影のようなものが目撃されてるっす。 あとは、この有様と…」
苦笑いを浮かべる日下。
「これか……」
公志は、床に散乱したガラス片に目をやりながら、低く呟く。
すると、そこへもう一名分の声が割って入る。
「おはよう鬼塚くん、高橋さん。」
随分と高校生離れした、とろみのある大人びた声である。
声の持ち主の名は『島田真梨』
茉奈果の親友でクラスメイト、同級生でありながら、女子からは『お姉さま』と呼ばれ、男子からは『探偵』と呼ばれる学校一の情報通である。
「おはよう、お姉さま。」
茉奈果の声に、真梨は笑みを浮かべると、そのしなやかな腕を茉奈果の胸へと伸ばし、乱暴に撫で回す。
「あら、今日も立派なお胸だこと、イケませんわね!隠しきれないなんて、罪以外の何物でもありませんわ!お仕置きです!」
茉奈果は何故か成すがままにされながら、苦笑いを浮かべて言う。
「自分のお胸が寂しいのは同情するけど、私にあたっても、どうにもならんぜよ。」
すかさず日下が、
「なぜ急に訛った?!」
公志は少し苛ついた空気の混ざった声で遮る。
「話が進まん! 探偵さん、満足したか?」
真梨は茉奈果の胸から手を離すと、
「ゴメンあそばせ」
と言い舌をだす。
公志は続けた。
「警備員さんが聞いたって言うのは、例の『助けて』って悲鳴で間違いないんだな?」
「そして、初の物理的な被害か。 このガラスが砕けたのは、間違いなく同時刻なのか?」
淡々と話してはいるが、誰に問うているのか分からない公志の語り口調。
それに合わせるように、日下がメモを見ながら口を開く。
「皆んなの話をまとめると、そういう事で間違いないっすね。 委員長が先生から受けた説明も同様のようっす。」
「そうね、警備員さんが教頭先生に話していた内容もそのままでしたわよ。 警備員さん、半べそでしたわ。」
茉奈果は、いつそんな会話を聞く機会に恵まれたのか疑問であったが、そこは校内一の探偵のやる事と、あえて突っ込まないでいた。
「なるほど」
公志がそう言い、考えるように顎に手をかけた瞬間。
ゴゴゴーー!
地響きのような音と共に教室、いや公志達がいる空間が激しく揺れ始める。
「キャー!」
「うわぁ!」
「ヤベぇ!」
怒声とも悲鳴ともとれる声が、あちこちから上がる。
誰もが目を閉じ、耳を塞ぎ、頭を覆った。
次の瞬間、教室内から悲鳴があがる。
「イヤーッ」
女子の声だった。
公志、茉奈果、日下、真梨の四人は教室を覗き込み、そして息を飲む。
教室内の机に椅子、教室の後ろに設置されたロッカーと掃除用の用具入れ、そして黒板が全て逆さまになっていたのである。
不思議な事にロッカーの上の花瓶、黒板消しやチョークは、さもそこが定位置であったかの様に上下が逆さまになった、それらの上に収まっていた。
「ま、まばたき、2回したぐらいの間だったっすよね?」
誰に、と言うでもなく日下が声にする。
「ああ」
公志は答える。
「もうヤメてー!」
教室内でヘタリ込んでいる風紀委員の武田優子が黒板を指差し、顔を覆っている。
鬼より怖いと噂の彼女が取り乱す姿に、四人はあっけに取られるながらも、目線を武田が指差す黒板へとむける。
「ヒッ…」
茉奈果は息を飲み、両手で口を覆い、次に控えていた悲鳴を飲み込んだ。
『逃げて』
ドス黒い赤
この表現が適切に当てはまる文字で、逆さまになった黒板一面に、大きく書かれていた。
そしてまた、カタカタと教室の揺れが始まる。
天井の吊り下げ型の蛍光灯が、その揺れが大きくなりつつある事を教えていた。
「チッ!活性化してやがる。」
公志は小さく毒づくと、教室に駆け込み、壁を背にして座り込む。
「仕方ない、済まない皆んな、頼む。」
そう言うと、茉奈果、日下、真梨の三人は何を言わんとしたのか、瞬時に理解をしたらしく、公志の姿が見えないように、壁を背に床に正座をした公志の、残りの三方を周りの視界から塞ぐ様に立ちはだかる。
「ホント、面倒臭ぇ」
公志はそう言うと、ズボンのポケットから棒状の物を取り出した。
両の端が槍の穂先の様な棒
『独鈷杵』
と呼ばれる仏具である。
公志は両の手の親指と人差し指の間で独鈷杵を持つと、器用に印を結び始める。
「南無来臨地蔵菩薩、急急如律令」
「オンカカカビサンマエイソワカ!」
真言と共に独鈷杵を床に付き立てる。
茉奈果は思った。
なんだろう?蒼い、優しい光、柔らかい、優しい。
次の瞬間、揺れは収まったが、代わりに鼻を突く臭いが教室に充満する。
公志は、この匂いを知っていた。
公仁と行う稽古、剣術とはまた別のカリキュラム、空手でいつも口の中に広がる匂い。
血の匂いが、教室全体を包んでいた。
公志は眉間にシワを寄せ呟く。
「マジで面倒臭くなってきやがったな」
読んで下さってありがとうございます
作者同時進行の『お風呂コント』に慣れた方にはトビクラポン!
だったかもしれませんが、実はコチラの方が作者にとっての本気だったりします
なるべく間を開けずに投稿しますので、どうかよろしくお願い致します