最終話 勇者と魔狼のこれから
「ねーねー勇者くんさー」
『勇者ごっこ』をまさかの勝利で終え、ただの剣だと騙されかけていた粗末な剣(我が股間のものにあらず)から戦闘終盤に生じた『第一の縛鎖』を首輪のようにしている魔狼、正体バージョンが俺に聞いてくる。
――巨躯を誇る魔狼が人語を話すというのはお約束とは言えるが、まあ現実となると不自然この上なくて気持ち悪い。いつか慣れるんだろうかこれ。
疲労困憊でしばらくへたり込んだ後、「喉が渇いた」といった俺をその背にのせて水場まで連れてきてくれたのだ。
「なによ?」
「下の『勇者の剣』は使わないの? 今の私はこの鎖に支配? されてるからテイコウできないよー?」
呑んでいた水を派手に吹く。
いや確かに決着ついてからの君は俺の言うことに素直ですけどね?
「女の子がそんなこと言っちゃいけません」
巨躯を誇る魔狼に向かってそんな台詞を吐いていることに面白みも感じる。
だが別にやせ我慢をしているつもりは――いや魔物少女状態になられたら多少はあるかもしれない。
「はーい。でもなんで?」
「そういうことは好きな人――もっとずっと一緒にいて、仲良くなってから「したいなー」と思ってするもんなんだよ。無理やりされるモンでも、無理やりするモンでもねーの」
それはそういうものだと本気で思う。
どれだけ「もうやだこの国」と言われた場所での知識を持っていようが、創作モノではそういうシチュエーションに興奮を覚えようが、如何にとんでもない状況でもそこだけは違えるべきじゃない。
そこを踏み違えたら「オタク」だとかなんだとか関係なく、ただの屑だと思う。
もちろんやせ我慢も込みでな! 鼻の下のばすのくらいは勘弁してほしいものだが。
とりあえずその形態でいてくれれば妙な心配も要らん。
俺にはケモナー性癖はない……と思うし、モフりたい病にも罹患していないしな。
そもそも物理的に、そのまあ、なんだ。
踏まれたら潰れるガタイの差だしな。
「ふーん、そっかー。じゃあいつか私から「したいなー」と思ったらその時に言うね!」
再び水を派手に吹いた。
不思議そうに見るんじゃありません。
「……そういう日がいつか来ることを祈っとくよ」
「えへへわかった。じゃあおやすみー」
そういって本来の姿、巨大な魔狼の姿のまますぐに寝息をたてはじめる。
未だマッパな俺を気付かってか、そのふわふわな尻尾で俺を包んでくれている。
――ここで「獣くせえ!」って言ったら好感度は下がるんだろうな。
とはいえ自然迷宮みたいなこの場は結構冷える。
多少獣くさくともこのふわふわはなかなかに有り難い。
このふわっふわの尻尾にくるまれて眠るのと、魔物少女形態の魔狼を湯たんぽ代わりに抱きかかえて眠るのと、どっちの方が寝心地が良いんだかな。
精神衛生上は間違いなく今の方だよなあ……
明日からどうなるかは全くわからないままだが、少なくとも道連れが出来たのはいいことだと思うことにする。
ついさっき殺されかけていたことは置くとしてだ。
まあとりあえず俺も寝よう。
目が覚めたらすべてを忘れて、いつもの部屋で目を覚ますかもしれないしな……
急速に眠くなる頭でなんか大事なことを思った気がするが、考える余裕もなく意識は眠りの淵へと堕ちてゆく。
――だけど思考は途切れない。
なぜか眠る魔狼と、その尻尾に包まれてこれまた眠る全裸の俺を俯瞰した状態で、俺の意識は空中に浮かんでいる。
あれ、俺結構オトコマエじゃねえか、これ間違いなく転生系だわ、転移系じゃねーわ。
粗末なものだけ本体から忠実に移植してんじゃねーよクソが。
それよりも俺の目前にクッソ色っぽい美女が俺と同じように浮かんでいる。
白銀の髪、黄金の瞳。
育ち切った肢体は豊満という言葉を裏切る場所が一カ所もない。
それでいて最高のバランスを保ったプロポーションは、生き物として雄に属していれば反応しないことは不可能だろう。
「なかなかできた勇者殿のようじゃな」
「どなたですか?」
声にすら艶が宿るその美女に、俺は一応聞いておく。
「落ち着いておるのう」
いや世の中には「お約束」というものがございましてな。
色指定がほぼ同一のキャラクターがこんな感じで現れた場合、オチは大概決まっているんですよ、美女様。
「魔狼の成体精神体じゃ。そこで寝とるのが我の幼体よ」
「何でもありっスね」
BINGO。
とはいうモノの、まったくわけがわかんねーな。
まあこの手の展開の導入は唐突なものが多いけどね。
きちんと後で説明できるだけの設定が練り込まれていればいいんだが、意外と投げっぱなしも多いからなあ……それでもまあ、キャラデザとプレイアブル部分のシナリオがよければ成立してしまうものだしな。
「まあよいわ、我は貴様を気に入った。とりあえずは第一の縛鎖に支配されておいてやろう。幼体でもそれなりの戦力にはなる筈じゃ。勇者殿が優秀であればいずれ第二の縛鎖、支配の紐を手にすることもできよう」
さっきのやり取りのことを仰っておられるのかな。
つまりさっき、うっかり「じゃあ」ってやってれば今頃「焦りすぎましたね、GAME OVER」になっていたってわけか。
そうね、確か魔狼は『第一の縛鎖』と『第二の縛鎖』はあっさりと引き千切っていたはずですもんね。
――危ない危ない。
「その暁には、その粗末な『勇者の剣』を我に使わせてやってもよい」
妖艶な笑みを浮かべて、俺の『勇者の剣(笑)』を見るんじゃねえ。
あとさらっと粗末言うな!
君ら女性が思っているより傷付きやすいんだからな、勇者は。
それでも勝てるはずの無い魔物に挑むからこそ『勇者』なわけだが。
稀に勝利を収める本物の『勇者』もおられるしな。それすらも魔物が「負けたことにしておいてくれている」だけかもしれないが。
まさに今の俺と同じようにな。
「下ネタヤメテくれませんか」
いやほんとに。
うっかり生唾呑みこんだりしたら、ただでさえあれなのにカッコつかないこと甚だしい。
「意外と紳士じゃな」
そういって成体の魔狼がコロコロと笑う。
女性の恐ろしい所は、これだけ色っぽくて艶っぽくて手におえない感ハンパなくても、そうやって笑うと「可愛い」と思わされてしまうところだと心の底から思う。
「ともあれこれからもよろしくじゃ。幼体の我によくしてやってくれ」
勝手なことを言って、クッソ艶っぽい人化魔狼の成体とやらが消える。
『魔物少女』が成長した成体はなんと呼ばれるべきなんだろうな?
字の取り方から言えば、『魔法少女』とおなじく『魔女』になるのか。
まあたしかにそれっぽい雰囲気を纏ってはいたけどな。
それにしてもほんと、勝手なことを言ってくれる。
まあいいか。
なんにせよすべては目が覚めてからだ。
疲労から来る睡魔に今度こそ本当に意識を手放す直前。
俺は真剣に悩んでいた。
目が覚めたらこれが全部妙な妄想の為せる夢だったほうが良いのか、おっそろしくも可愛らしく、時に妖艶な相棒と共に、まずはこの「ほくおうちほー」の攻略に乗り出す現実だったほうが良いのか、を。
【To be continued?】




