6話
「そ、それでは!魔術競技祭開幕です!」
様々な魔術が空を飛び交い空に文字を描き出す。その光景に一般客も学院の生徒も全てが感嘆する。そんな中
「ママァあれなーに?」
「こ、こら!見ちゃいけませんよ。目に毒です。」
なんて不審者を見つけた親子の常套句をひそひそ声で子連れの親が言い合っていた。子供が指さす方向には、星型のサングラスをして縄で簀巻きにされた若い男が、警備のために配置された魔術師によって捕えられていた。
「へいそこの、君たち魔術師さん!これまでの所行は水に流そう!だからこの縄を」
「勝手に喋らないでください。怪しいヤツめ。」
「お、oh......」
半刻前。闘技場に全員の入場が終わり、宣誓も終盤に差しかかる。
「わたしたーち、選手一同スポーツマンシップに基づいて――」
スポーツマンシップの部分を強調されていたが目が笑っておらずただただ相手を倒す為の殺意の宿った目をしていた。
「「「わぁあああ!」」」
堂々たる選手宣誓により盛り上がる学院生と一般客。
「ええ、続いて学院長挨拶!よろしくお願いします!」
....................
「が、学院長?」
.....................
ざわざわと困惑の波が広がっていく。そんな時だった。突如地面である芝生がもっこりと盛り上がりそして.......
「私が!学院長だー!」
星型のサングラスに、何故か草花をあしらった民族衣装の様なものを着ており、チラチラと見える肌色から真っ裸の上から着ているのが分かる。
先程までの困惑のざわめきと、少し下がったものの宣誓による熱気が急転直下し氷点下まで下がる感覚がした。
「「「.......」」」
「あれ?どうしたの?」
「「「.......」」」
「おーい?あれれー?おかしいぞー?なんにも聞こえないぞー?」
誰も彼も白い目で見る。反応できないのもそうだが、したくないのもまた事実。しんと静まったせいかなにか聞こえたような気がして見回すと観客席のところでブツブツと何か話している風の男がいた。遠すぎて何を言っているのか聞こえなかったが、タイミング的に観客にまじり警備をしていた人が応援を呼んで対処させるのだろう。予想が的中。ものの数分で警備隊が駆けつけ簀巻きにした。男は学院長だと言っていたが、聞く耳持たずの警備の人は無視を決め込んでいた。そしてそのまま現在へと至る。
ふときになり男の方を見ると、不意に男と交わる視線。しかし御影は何を求められているのか分からぬ振りをしながら目を逸らしそっと心のカーテンを閉じた。いよいよ魔術競技祭が開催する――。
『さぁ今年もやってきました、魔術競技祭!いきなりですが1競技目に移りましょう!お題は幻惑!』
わああああ!と場のボルテージが上がる。
『さぁルールは単純!単に自分がなりたいものになってもらうので構いません!採点は点数札を教師陣に挙げてもらい行います!さぁ、それぞれの選手はどんなものを見せてくれるのかー!』
熱気渦巻く競技祭の最中。1人だけはどんよりとした空気をまとっていた。
「やばい胃が痛いお腹痛い。吐きそう帰る。」
そう御影である。そんな御影に活発な笑い声。
「いやー、御影っち大変だーね?」
そう言ってくるのは眼鏡を日光で反射させながら歩いてくるグラ。
「な、何がだよ?」
「いやー?才能のないって言われる御影っちが1番大変だなーって。なんたって至近距離で魔術が放たれるんだもんねー?」
「.......」
その言葉に冷や汗が流れる。その死刑宣告染みた言葉に生きている心地はこれっぽっちもしない。なははーと言いながら去っていくグラ。グラの後ろにいたビクトールは力強い目をしながらグッと親指を立てる。
(はぁ。何が、グッドなんだ。)
御影は訳の分からない行動に陰鬱としながら持ってきていた水筒に手をかけるその時
『おおっとぉー!?1組が!あの1組が高得点を叩き出したー!?これは凄い!1組になった人は素行が悪いや失礼!元気があり活発で、優秀が故に全くこういうことには本気を出さないと噂の1組が何と幻惑で高得点を叩き出したー!これには私もびっくりです!』
御影は持っていた水筒を取り落としそうになりながら必死に負けた時の言い訳とどうするかについて本気で考え始めた。
2つ目の競技は2位だったがそれでも優秀な得点だった。そして始まる3種目目。
『さぁ!誰もがこれを待ち望んだことでしょう!開催される中で体力的に一二を争うきつさであるこの競技!中距離妨害走!なまえに関しては適当なので悪しからず!』
6人1組。全4組あり魔術で妨害しながら400メートルを走りきる競技。あれよあれよという間に進行していき、次でラスト4組目に配属されている御影の出番である。
「それでは皆様位置についてください」
スターターが開始の準備に入る。御影は1組。1番インコーナーであり最初が肝心。
「よーい!」
全員がかまえる。そのあとパンという雷管の乾いた音が鳴り響く。
一方その頃。謎の変態男と言うと。
「ん~!?んー!ん!」
口にタオルを巻かれ黙らされていた。
「なぁー。こいつずっと叫んでるんだが。」
「ああ。」
「本当に学院長なんじゃねーのか?」
「そんなはずないだろう?学院の生徒誰も反応してなかったぞ?」
「それはそうなんだがなぁ。」
「しかたないなぁ。そう言えばローブを近くで拾ったな。」
黒色のちょうど学院長の体を覆う程のローブが連行途中で落ちていたのを警備員が拾ったのだ。
男の見張りをしている男達はローブにあるポケットをまさぐり始める少ししたあと
「あ?なんだこれ?」
「さぁ?でもこれ微妙に魔力の残滓が感じられるな。」
「んー!んんんー!」
全力で頭を縦に降る男。その必至さに
「仕方ねー。おい大人しくしてろよ?すぐ戻ってくるから。」
そう言って出て行った男の手には顔の作りを少々変えて見せるという幻惑の術式が書かれた1枚の札だった。現在はその効力は消え失せて本来の顔に戻っている。数分後。
「おーい解析終わったぞ。そいつの魔力をこれに流させろ。」
そう言って取り出すひとつの機械。簡易式魔力解析機。魔力にはそれぞれ特性があり全ての人が同じ魔力を持っているとは限らない。どんな魔術が苦手でどんな魔術が得意なのか。荒々しいのか、穏やかなのか。そういった魔力の質を調べる。
「うぇーい。ほらこれに流せ。」
そう言って腕を縛っていた縄を切り落とすと解析機を渡す。そしてそれに流される魔力は魔力は札に残っていた魔力と同質のものだった。静けさが監視役二人の間に充ちた。
「いやー!これで私も釈放だよね?ね?さてこの所業を.......」
「「誠に申し訳ありませんでしたー!上には今すぐ報告する故に御容赦を!!」」
見事にふたりの息がシンクロする
「うーん、仕方ないなぁ。まぁ、私も少しはやりすぎた感あるし?まぁ仕方ないよねー。うん。仕方ない。てことでこの県は何も無かったって事で!」
「「はっ!!!」」
姿勢を正し敬礼する。学院長がやらかし始めたのだから実際は全面的に悪いのは院長なのだが、島全体で最強を誇ると言われる魔術師相手にそんな言葉は微塵も浮かんでこなかった。ただ無礼を働いたという重圧があっただけだった。
「んじゃ。私は競技祭に戻らしてもらうね?さらばー?」
途中で前に回り込まれる。
「少し待ってくださいそのお姿ではまた観客の人達に怪しまれます!どうかまとも.......普通の服装で出て頂いた方がいいかと!」
そういった警備員の方に手を置き
「そうだねありがとう。今度から気をつけるよ。サラバだー!」
と走り去って行った。監視役をさせられていた警備員が上司に報告。警備員に常に解析機を持ち運ぶように支給されたのはこの時からだったと言う。