5話
御影の逃走劇からさらに2日。そのあとも順調に特訓は続いた。避け続けたのはまぐれでは無く、特訓でも避け続けれていた。それでも完璧にとは行かず、多方向からの魔術や疲れが出始める頃に使われる魔術は避けきれることは出来なかった。これでもまぁ、頑張った方だと御影は自分で自分を慰めていた。そして魔術競技祭当日。いつもは使用しない、人気のない場所を通学路にしていた。
「ホントまじすんません。ありがとうございます。」
「いや、別にこれくらいは良い。さして重くもないし、動きに支障が出る訳でもない。」
しかし現在みかげは徒歩通学では無い。かと言って車を使っているのかと言われても否というのが事実。御影は運ばれていた。白い虎に。度重なる特訓。なれない走り込みとそこに重ね合わせる魔術回避。それに筋トレ。1週間は我慢した。二週間も我慢するつもりだった。しかし、そう事はうまくいかなかった。昨日1日は疲労回復のため休みになったのだが、夜中に手足が吊り、苦しみながらも疲労によって体は眠続けようとし、紆余曲折の果てに眠れたか眠れてないか微妙な状況ながら体はひたすらに筋肉痛を訴えていた。
「ぐすん。俺はいい子をもって幸せだぁ。でも優しすぎて何があるのか怖くなるぅ。」
「人.......いや、我が親切にしておるのにその言い草か。下ろすぞ。」
「申し訳ありませんでした!どうか大通りに出るまででいいのでこのまま!何卒このままァぐふぉあ!っ~!?」
「はぁ。わかっておる。だから叫ぶな。耳に響く。お主は筋肉痛に響くぞ?」
「い、イエスマイロード.......」
普段は小柄の虎であるが、体を少しばかり大きくさせて御影を背中に寝かせている。人を寝かせるのは初めてだった為、落とさないかどうかなど不安要素は多分に含まれていたが、そこはなんとかなるという楽観的思考で歩みを進めた。よって最初は落としそうになりながらも歩いていたが、慣れてきたのか背中の揺れも少なく、白虎自身負担にならないぐらいに上手くなっていた。そのおかげで御影が睡魔に引き込まれようとした時に
「着いたぞ。近づけるところまでは近づいた。後は頑張って歩いてくれ。門の見張りは見鬼を持ってるやつが居ないだろうが校内はどうかわからんから、できるだけ人目につかないようにお主のクラスまで一旦届ける。まぁあとは頑張れ。」
「.......」
校門前とはいえ筋肉痛の御影にとって歩くという動作すら苦痛であった。故にロボットのごとく同じ両手足が順番に前に出てまともに歩けてはいなかった。
「おっふ、あっふ。ほほっ。.......つらい.......」
「.......」
奇声を上げながら、白い目を同校の生徒に向けられ、歩き、なんとか門を通り抜ける。白虎も難なく通ることが出来た。そしてそのまま教室へと入る。まだ早い時間帯のためかそこまでクラスメイトはいなかった。その代わりビクトールとグラはセットでいた。お互い話をしていたためこっちには気づいてないようだった。これ幸いと筋肉痛による奇声と悶絶を我慢しながら席まで行き着き座る。
「ふぉうあ~。」
『風呂に入ったあとのような声を出すな。』
「!?」
頭に響く白虎の声。唐突のことに悲鳴をあげそうになる。
『落ち着け。誰が聞こえるか分からんが故にこうして念話を使っている。それでできればお主も念話を使用してくれ。でなければ痛いやつに思われるぞ?』
『それもそうか。で、これからどうするんだ?』
『取り敢えずお主の競技が始まるまで何処か校舎内の誰にも見つかりにくいところで日向ぼっこでもしていよう。』
『わかった。』
(にしても日向ぼっこか.......絵になるから写真に撮りたい。)
『それよりいいのか?そろそろ隠行解かなくて?』
はて?と考える。隠行なんてした覚えがないのだ。
『.......してたっけ?』
『はぁ。奇声を上げて注目されるのが嫌だと使っておったでは無いか。』
思い出した。門の警備をしてる人や登校中に白い目を向けられてたからバレないようにと魔力も気配も消していたのだ。隠行は魔力を感じられなくなるまで沈め気配もできるだけ消して隠密行動する時の術。まぁさもありなんと思いながらそれを解いた。元から影が薄いのかすぐには気づかれなかったが見つけたビクトールが「あれ?いたの?」と首を傾げ問われた時には地味にショックだった。そのあとグラがやぁー!と言いながら肩をばしばし叩き「んじゃ。」と去っていった。何がしたかったのかは定かではないが挨拶のつもりだったのだと思う。白虎は、隠行を解いた時点でいなくなっていた。
「さてこれから体育祭だ~、はっきり言ってボイコット一直線なんだけどなぁはぁ。死ぬ気でがんばれよぉ」
いつもの気のない教師が朝の激励?を行った後、舞台となる競技場へ向かう。皆真剣みを帯び始める中1人だけは、筋肉痛による奇声という地獄を耐えていた。
「さぁ、移動するぞ~。.......あん?御影?」
「は、はい、なんで御座いましょう。」
「なんでそっから1歩もうこいてないんだ~?」
「.......」
「もらし?」
「い、今いきまず!?」
膝から崩れ落ちる御影。しかし、机を杖代わりに震える足で立ち上がる。その姿はまるで小鹿のよう。
「?」
「すみません。全身筋肉痛で死にそうなんです。」
「はぁ。いきなりアクシデントか。誰か回復魔術――」
回復魔術により御影の筋肉痛は動ける程にはほとんど治った。そして再び動きだす面々。これから地獄の競技祭が始まる。
一方その頃、競技祭会場、闘技場某所。
「よし、これで仕込みおっけー!ふふふ、私が唐突に地面から這い出てきたらどんな反応をするんでしょうか?楽しみです。」
星型のサングラスをかけ、身体には草花をあしらった民族衣装のような服を着たおとこがいた。もちろん下着などの類は一切着用しておらず、隠してるとはいえ完全に不審人物だった。
「掴みを大事にしつつ盛り上げなければね。ふふふ。」
誰に言うわけでもなく一人で呟く。地面と完全に擬態化しているかの学院長は怪しく1人で笑っていた。