3話
「おーい。」
「ん、んん~」
「おーい御影?」
「そろそろ起きねーかー?」
「わ、わかっっふぁ~。」
「おお。そろそろ起きてくれるのか。」
微睡みと言うのは心地いい様で実際のところ頭がぼうっとするため何かを為す時には辛いだけである。そんな状態の御影はうっすらと目を開く。そしてすぐさま後悔することになる。なぜ寝ぼけいきに返事をしたのだろうと。周囲の反応から30分達起こしに来たのだろう。目の前のクラスメイトはニタリと笑いそして.......
「さぁ、やろうか?」
そう楽しげに笑ったのだった。
さっき迄の消沈は何処へやら。
「ほらほらほらー、並走してやってんだ、気合い入れろー!」
魔術での妨害は、禁止されていないが体や武装といった妨害は禁止されている魔術競技に御影は2週間後参加することになる。普通であれば魔術で作る障壁で何とでもなるのだが、普通であればの話だ。まともに魔術を使えない御影にとって妨害にしろ打ち出される魔術は恐怖の対象でしかなく。しかも併走されることによってほぼ至近距離の射撃であり.......
バチン
「ひぃ!?(ビクン)」
何と休憩と走り込みを入れた2時間程度で大幅に手加減された魔術をかすりながらも何とか避けることには成功していた。避けると言うよりはびびって体を逸らし、結果的に魔術わ避けているように見えるというなんとも情けない状態である。それでも結果的には走り続けられているので、問題は無いはずだった。
「おー、もう帰れよぉ。下校時間だー。これ以上はもうダメ無理監督するのしんだい。」
空を見ると夕日が傾き始め空は茜色をしていた。そして終わりを迎えた特訓に感動し黄昏ていた。どれ程たっただろうか。ふと思い出したかのように荷物を取りに行き、抱え、帰路へとつく。すると学院の出入口である門に一人の少女が立っていた。
「あ、ビクトールさんですか。」
「.......(コクリ)」
いつもの無感情な顔でただ頷いた。
「そう言えば眼鏡っ娘は?」
「用事があるらしい。」
「そうか。」
「そう、これ。」
「ん?」
渡されたのは1本のスポーツドリンク。
「.......」
「今日はお疲れ様。」
「.......」
「また明日も.......御影?」
御影は心の中で号泣しながらビクトールを見つめる。その事にビクトールは無表情のまま首をかしげる。
「ビクトール」
「.......?」
「貴方様は天使だったのですね。」
「.......どうしたの?熱でもあるの?」
その後若干ビクトールが距離を置いて歩いていたが、感謝を述べそのスポーツドリンクを飲みだした。
「私が帰ってきた!ただまー!」
「なんじゃうるさいの。というか何故そんなにツヤッツヤしておるんじゃ?」
「いやそれがさ!」
御影は語り出した。それはもう練習期間である二週間の始めであると言うのに、今日あったことを等々と語った。
「それで、ビクトール様がスポドリくれた時には感動したんだよ!なんでか若干距離置かれてたんだけど!何でだろう?.......?白虎?」
沈痛な面持ちでとぼとぼと、足取り重く近づく白虎その姿は悲愴に暮れていた。
「.......御影」
「ど、どうしたんだ?」
余りの重い空気に唾を飲み込む。
「我が悪かった。.......だからな?」
「び、白虎さん?ど、どしたの?」
「今日は尻尾でも触るか?いや、一緒に寝るか?今日はお主と共に居てやってもいい。うん。重症だと気づいてやれず悪かった。」
「な、なんで今日みんなやけに優しいんだろう?」
突然慈愛に充ちた眼差しを白虎から受け狼狽える御影。
「早く風呂に入り寝床へ来い。今日はわれも一緒だ。そう言いながら背を向けた白虎は寝室へと赴いた。」
「なんだったんだろう?俺なんか変なことしたっけ?」
そんなことを思いながら御影は入浴し終え本当に居た白虎の隣でぐっすりと眠ったのだった。御影が眠っている間白虎がちらりと御影を見ると時折ビクリと身体を震わせたり、唸るような寝息をたて、寝苦しそうにする御影に目を逸らし続けたのはまた別の話である。
「へぇ。こんな所に。」
御影が白虎に哀れなが寝ている時。ある一点を見つめるひとつの影がいた。見つめる先には侵入者を惑わし侵入を防ぐための述式により守られていた地下水道の柵が1部切り取られあとからくっつけられている惨状だ。その地下水道は学院の方を通っているものだった。
「さすがにこれ以上踏み込むのは得策じゃないかも知れませんね.......!?」
帰ろうとした時だった、背中に視線を感じ地下水道の方へと振り返る。しかし誰もいる気配がなかった。冷や汗ひとつ流れる。
「わ、悪い冗談はよして欲しいよね、ハハハ。」
そう言うと夜闇に溶け込み直ぐにその場を離脱した。
「行きましたか。」
そう言って男は幻惑を解いた。その時にあらわになるのは、柵だと思っていたものが黒く蠢き出す。夜闇によってその黒いものの目は赤く光る。
「さてあのガキはしくじったようですが、私は上手くやってみせますよ。ひひっ。さぁ踊りなさい。絶滅危惧種の陰陽師さん。」
夜はさらに更けていった。