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エピローグ

気がつくとそこは軍施設の医務室だった。

 

 「体重いなぁ……」

 

 自分の体に視線を向けると両手両足を包帯でぐるぐる巻きにされていた。

 

 「そういや、俺は……」

 

 最後に候補者がばらばらに崩れたのを思い出す。

 魔物の血から開放されたためかお礼を言われたが、正直あまり嬉しくはなかった。ちゃんと助けることが出来なかったから。

 

 「ダメだ……また眠くなってきた……」

 

 突如聞こえるノック音。しかし、眠気に襲われた御影は再び夢の中へと。

 

 「御影?まだ目は覚めてないようだな……こんな時にでも言わんと恥ずかしいわ……」

 

 照れたようなしどろもどろな声が聞こえる。

 

 (びゃ……こ?……ダメだわから……ない……眠くて……)

 

 「強くなったな……駆けつけ……はとても……嬉しかったぞ……ありがとう」

 

 虫食いのようにしか聞こえなかった言葉は何故か心地良さを覚えさせてくれた。

 

 「ではな」

 

 その言葉が聞こえた瞬間眠りへと再び落ちていく。

 

 

 「おお!もう体調は大丈夫なのかい?」

 「あ、はい。お陰様で」

 

 ようやく医務室から解放され軍の施設を出る時、フェンスの門番から声をかけられた。

 

 「訓練所、すごいことになってましたね。結界はバラバラで地面があちこちめくれていましたし」

 「そ、そうですね……」

 

 苦笑いをするほかなかった。医務室を出る前に他言無用を強要された。人造人間とは言え魔物にしてしまったのを伏せたかったらしい。もう軍の人間では無いとはいえ、お世話になった為、言わないでおこうと決めたのだ。

 

 「ほら、そんなことより、女の子達を待たせてはいけませんよ?」

 「え?」

 

 門番が指さす先には7人ぐらいの人が暇を潰すかのように話し合っていた。その光景に驚き見ていると寒いのにも関わらず青いワンピースを着た少女が手を振る。格好的にも、行動的にも青龍だと窺えた。

 

 「ほら、行ってきな」

 「お世話になりました」

 

 そう一言かけ、みんなの元に走りよる。と、青龍が飛びついてきた。

 

 「ミカ!痛くない?冷やそうか?火傷やばかったんだよ!このクソ鳥のせいで!」

 「あぁ!?こいつが魔力を制御出来ないせいだろ!俺を悪者にするんじゃねぇ!」

 「人間の扱える魔力と一緒に考えるチキンが悪いんだよ!」

 「んだとてめぇ!」

 「はぁ……うるさい……あと青龍が正しいぞ」

 「なに!?」

 

 耳元で喧嘩を始める青龍達をそっと置き足早に離れる。

 

 「や、ミカっち」

 「御影、大丈夫?」

 「治った!?大丈夫?」

 「そやったなぁ、千咲ちゃん、ずっとソワソワしてたもんなぁ」

 「それは言わないお約束では!?」

 

 皆、ぱっと見た感じどこも悪そうなところはなく、ほっと胸を撫で下ろす。

 

 「そう言えば白虎が居ないな……家か?」

 「御影、御影」

 

 ビクトールが袖を引っ張り人差し指で地面を指す。不思議に思い視線を下げると真っ白い毛並みをした虎がやれやれと頭を横に振っていた。

 

 「なんだ、おぬし。そんなに視線が上では見えぬのも当たり前だろ?もしかして女の方が良かったか?」

 「ま、まさか白虎……」

 「うむ。いかにも」

 

 その言葉に耳を疑いつつもその見た目と声に確かな確証を持つ。

 

 「白虎!お前もしかして……」

 「うむ。帰ろうか、家に」

 

 思わず勢いよく白虎に抱きつく。

 

 「どうした、そんなに良いのか?」

 「良いも何もねーだろ!」

 

 少し力を入れてしまえば折れると錯覚するほどの華奢な体。虎にしては大きすぎる身長。そして何より顔にぶつかるふたつの柔らかい物体。

 

 「お主も欲求不満かぁ。やっぱり男だな」

 

 大きく暖かいからだと柔らかくふわふわな毛並みを想定していた俺は、そっと白虎を引き剥がす。

 

 「ん?どうした?もっとくれば良いだろう?せっかく元の体でも人間の姿になれるようにしたのだもっと来ても良いぞ」

 「……ぃぃ」

 「なに?ほれ?どうした?」

 

 にこにこと両腕を広げる白虎。確かに、美人だ。だけど俺が今求めていたのはそれじゃない、とおもう。そしてため息が出た。

 

 「な、なんだ?この姿では……」

 「俺はな、白虎。確かに女の人に抱きつく経験なんて一切無いけどさ……俺がお前に今求めていたのは!ふわっふわの暖かいからだなんだよぉぉぉぉ!」

 「まぁ、ミカっちならそう言うよね」

 

 俺の慟哭が青い空にこだまする。しかし、白虎に触れられてようやく取り戻したという実感が湧き吐き出す声とは裏腹に心はとても晴れやかだった。

 


 

 「ミカは強くなった。本当に強くなった」

 

 一つだけもぬけの殻になった結晶を見る。それは元々白虎がいた所だった。

 

 「僕の実験よりミカが強くなって戻ってくる方が早かったんだね」

 

 しがらみから開放されたように笑みを浮かべる。

 

 「後はミカにたくそう。何があっても、ミカなら大丈夫だ。まぁ、ミカっちには色々とやってもらおうかな。この代償として」

 

 近々迫る危機へ思いを馳せながら大陰寺はその場を離れる。笑みは暗いものへと変わり、楽しそうだった。

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