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11話

2人分の魔力が一瞬だけ膨れ上がる。精錬された大きい魔力と、それより小さい、禍々しい魔力。

 

 「でかい方の魔力は分からないけど……もう一方の禍々しい感じ、多分ミカっちだね」

 

 簡単にははめてもらえなさそうに見え、裏からこっそり侵入したことを早くも後悔している。

 

 「やっぱり正面切って行くべきだったかなぁ。こっからだとさっきの魔力から正反対の位置だからキッついなぁ」

 

 と言っても今は常時身体強化をかけている状態。いくら広いとはいえ、そう言っているうちに辿り着いた。

 

 「ひっさしぶりに来たけど、やっぱ広いなぁ……こんなに敷地占領してるけど要るの?」

 

 どれだけ愚痴っても仕方ないのでさっさとミカっちを連れ戻すことにしていじり倒す事を決める。

 

 「魔力が上がったのは一瞬だけだった……」

 

 ミカっちの事だから喧嘩を売ったか、もしくは買ったことは予想出来ている。

 

 「こら!ミカっち何してるんだい!……?何してるの?いじめ?」

 

 扉を勢いよく開く。しかしそこには倒れた御影とそれを3人の男女が囲っている。

 赤い髪の見た事あるイケメン。深海のような蒼い髪を持つ少女。細身で白髪の女性。

 倒れ伏した御影を笑い転げ、顔の当たりを突っつき、なにか声をかけるといった各々違った行動を3人はとっている。

 

 「ミカっち!?どうしたの?」

 

 走り寄ると3人の顔が一斉にこちらを向いた。そのうちのクルちゃんを誘拐した、にっくき朱雀は苦虫を潰したような顔をし、そらす。

 

 「これ、また朱雀がやったんだね?」

 「はぁ!?俺じゃねぇ!あのいけすかねぇ金髪野郎だ!」

  「いけすかねぇって……それ、私からしたら、君もそうなんだけどなぁ。わかってる?で、その金髪くんは?」

 

 ただ聞いただけのはずなのに青い髪の少女が少し身震いをする。

 

 「そいつなら出ていったよ!つまらなそうにしてな!瞬殺だ瞬殺……あとお前睨みきかせすぎだ」

 「そっ……かぁ」

 

 気分を落ち着かせるため、大きく息を吐く。居たら居たで痛めつけられた分を彼にし返そうと思っていたから、正直残念で仕方なかったが、ないものねだりをしても意味が無い。

 しかし正直言ってこれでミカっちが白虎のことを諦めてくれるならそれはそれで良かったと思う。

 

 「さて、んじゃ、私はこれにて。みんな元気でねー」

 「この声どこかで……あ!メガネだ!任務に関してとても厳しくて怖かったメガネ!」

 

 立ち去ろうとした寸前で過去の自分を叫ばれ、思わず立ち止まる。

 

 「せ、青龍?それどう言う……」

 「ってミカが言ってた。私も思ってた。ミカっち曰く、あの眼鏡、土御門とかいう全く外に出てこねぇ人に心酔しすぎて怖い人だ」

 「よし、後でミカっちには尋問をさせてもらうとしようかねー」

 

 口元が引くつくのを感じながら肩に担ぎ家でやることを頭の中で整理をした。

 

 

 「久しぶりに会ったけど……雰囲気違ってたね」

 「そうか?と言いたいところだが、そう言えば青龍は会ったこと無かったな」

 

 久しぶりに会えた為か嬉しそうに笑みを浮かべる青龍。

 

 「うん!そうなの!あの、任務、土御門様が優先的みたいな雰囲気無くなってるよね!今の方がとっても接しやすいな」

 「それはわれも思う」

 

 「だよね」と青龍が声を弾ませるも、隣で唾を引きつけるように「けっ」と忌々しそうに吐き捨てた。

 

 「なーにがとっつきやすいだ。あいつ出会い頭に俺を疑っただけでなく殺気まで向けやがったんだぞ?昔のままじゃねーか」

 

 それを聞いた白虎と青龍はお互い顔を見合わせ、ため息をついた。

 

 「朱雀……自分が何をしでかしたのか覚えておらんのか?」

 「あん?どういう事だ?」

 

 その言葉に白虎は目元を抑え力なくうなだれる。

 

 「朱雀よ。あの眼鏡……グラの友人であるビクトールを拐ったであろう。忘れたとは言わせんぞ?」

 「だからあれはだな必要だったからっつってんだろ」

 「必要だったとしても拐われた方はまだ許せておらんのだ」

 「……人間ってめんどくせぇ」

 「そう思うのは我ら、四神ぐらいだろうな」

 

 呆れたように脱力する朱雀の肩に白虎が手を置く。そんなふたりの様子に青龍が首を傾げた。

 

 「なんかそうしてると、夫婦みたいに見えなくもないね」

 「「は?」」

 

 見事にハモり2人して目を見開き固まる白虎と朱雀。そんなふたりの様子に青龍は笑う。

 

 「だって……喧嘩始めたと思ったらそうやってお互い優しくしあって、また喧嘩……この場合、痴話喧嘩って言うのかな?をして……夫婦みたいに見えてくるよ?喧嘩するほど仲がいいって言うしね!」

 「まてまてまてまて、青龍!誤解だ!絶対そんなことないぞ!我はこやつのことそんなふうに見た事がない!そもそも、我らにそんな感情は無いだろう!?」

 「ていうか大体、こんなやつと夫婦だァ!?青龍!冗談でもそんなこと言うんじゃねぇ!虫唾が走る!」

 「シンクロしてる……やっぱり夫婦だ」

 

 そういう青龍に顔を引き攣らせつつ白虎は青龍の肩に手を置く。

 

 「青龍よ。1度話し合わんか?勘違いされたままでは嫌なのだが……」

 「うーんでもやっぱりそう見えるのは気の所為?」

 

 しかし、青龍はわからないというふうに首を傾げる。

 

 「気のせいだ!気の所為!」

 「うーん、じゃそこまで言うならそういう事で……」

 「いや、もうダメだ。そう言っても絶対また、夫婦だの痴話喧嘩だの碌でもないことを言うに違いねぇ。この際、はっきり叩き込んでやる」

 

 ポキポキと指を鳴らし歩くのに合わせ青龍が後ずさる。

 

 「逃げるなよ?」

 

 朱雀は手に火球を生み出す。

 

 「ね、ねぇ、スーさん?私悪かったからね?許して……」

 「問答無用!」

 「お、おいやめんか朱雀!」

 

 叫び、白虎は羽交い締めにする。

 

 「離せ白虎ぉ!あいつは言っても聞かねぇ事がよぉく分かった。こうなったら実力が行使だ」

 「お主!自分より年下にそんなことをするのか!?」

 「幼ねぇのは見た目だけだろ!今更年齢持ち出してどうすんだ!」

 「そ、そうマジになるでない!少しは心を広く持たんか!それでは誰からも好かれんぞ!」

 

 羽交い締めから抜け出そうとする朱雀と、それをさせまいとする白虎。それを続ければ当然のごとくチャンスを逃さない者がいる。

 

 「じゃぁ私は、お先に!にげるね!」

 「あ、おい待たんか青龍!話を……」

 「テメェのせいで逃げたぞ!どうしてくれるんだ!あ?」

 

 バイバイと手を振り青龍は出口へと消える。その為今度はどちらのせいか決めるのに再び口喧嘩を朱雀と白虎は続けた。

 

 

 「うっ……腹いってぇ……」

 

 目を覚ますと自室であり、誰もいなかった為服をめくり上げて殴られた腹部を見る。

 

 「問題なさそうだな」

 

 腹は赤くなっているだけで中が痛いという訳では無いから大丈夫だろうと結論づける。しかし自分の体も心配したがそれよりも、一番の問題が俺自身の精神をガリガリと削り取っていた。

 

 「式神作ってまで学院サボったこと、どう言い訳しようか……」

 

 そう、これが一番の問題だった。家に寝かされているという時点で誰か……多分グラ辺りが俺を運んだのが濃厚である。よって

 

 「んー、これ詰んだな。グラの他に魔力が3つ視えてるし。死ぬほど何か言われそう……」

 

 詰みは確定。どう覆しようもない案件となっている。

 

 「……諦めて、その時になったら考えよう。それ迄は……大人しく寝てるか。腹痛てぇし」

 

 ひかれた布団へと再びもぐりこみ、先の事を思い起こす。何も出来ず手心を加えられた上で惨敗した事を。

 

 (……普通に強かった……俺は手も足も出なかった。出させてはもらえなかった……)

 

 学院内の迷宮をどうにか生き抜いて強くなったと、右腕の力を使いこなせていると勘違いしていた自分に嫌気がさす。

 

 (情けない。かっこ悪い……何が連れ戻すだ。連れ戻すどころか返り討ちにあってのうのうと戻ってきただけじゃないか)

 

 呪術にも上が必ずいる。そんなことは理解していた。それでも思い上がっていた後悔で苛まれる。

 

 「ってダメだな。こんな所で寝てばっかり居たら余計なことばかり考えそうだ……誰にもバレないように抜け出すか」

 

 四つん這いになりながら身体を起こそうとしたが……

 

 「うっ!?……ぐぅ……」

 

 痛みがはしり支えていた両手足が崩れあえなく失敗。再び布団へと戻される。

 

 「ほんとに、いってぇ……」

 

 しかしこのままでは誰か来るのは時間の問題だ。だからもう一度立ち上がろうとした。

 

 「そうそう、うまくはいきませんよねぇ」

 

 すぐ近くの廊下が聞き覚えのある声によって騒がしくなる。

 

 「仕方ない。諦めるか」

 

 もう逃れられない運命。確定した未来。それをあまんじてウケるため布団に潜り手を胸の前で組む。死者のように。

 耳に届く、戸がゆっくりと開かれる音。薄目を開ければ視界に入るグラ、ビクトール、千咲、ペーレ。

 

 「さぁさぁミカっち、覚悟は出来ているね?」

 「……」

 

 そっと目を閉じ、4人が出ていくのを待つ。嵐よ早く過ぎ去れと。

 

 「ミカっち、起きてるのは知ってるんだよ?……無視してもいいのかなぁ?誰が気絶した男の子を運んだのか知ってるのかなぁ?しかもわざわざ学校抜け出してさー」

 「……」

 

 無視はしていない。寝ているんだ。そう。ねむってるたらねむっている……

 

 「いやー、疲れたなぁ急いで走ってくるの。疲れたなーミカっちを持ち上げたりするのに身体強化続けるの」

 「その節はお世話になりました。有難うございます、どうぞ家でゆっくりしていてください!」

 

 弱い所をつかれ、ポッキリとその決意は折れた。

 

 「あれ?起きてたんだ?」

 「……はい。起きておりました。でも少し待ってください、殴られた所が、腹部が痛いんで……」

 「起きられるよね?」

 「いや、出来れば寝たまま……」

 「起きられるよね?」

 

 グラから漏れる魔力に、その他からの無言の圧力。有無を言わせぬ空気――

 

 「はい。仰せのままに」

 

 気がつけばおれは、反射的に頭を縦に振っていた。

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