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それ魔石だったんですか?



「本ですか?

 帝国ではそれなりに流通していますよ。

 ですが有用なものはやはり高価ですね」


「やっぱりそうなりますか……」


 食後のお茶を楽しみながら雑談。


 印刷技術が無ければ本の複製は難しい。


 特にこの世界は魔法があるから科学や技術が発展しにくいだろうし。


 ドレイクさん曰く、『魔法術・初級』等の最も安い部類の本でも金貨五枚ほどらしい。


 金貨一枚が一体どれくらいの価値なのかわからないからあんまりピンと来ないけど。


 兎に角高価だという事だ。


 いい機会だし、出稼ぎに行ってみようか。


 買い揃えたい物も結構ある。


 それに魔帝国、行ってみたいしな。

 

 目が見えるようになってからずっと森の中で生活してきたから、人の営みを久しぶりに見てみたかった。


 まあ魔帝国は人じゃなくて魔族の国らしいけど。

 

 折角だからドレイクさんに相談してみよう。


「ドレイクさん、俺お金持ってないんで本を買うために稼ぎたいんですけど、魔帝国に言い働き口、ありません?」


「へ?――ゴホン!失礼、ヘイサカ殿は働きたいのですか?

 ――本を御所望されるのでしたら、いくらでも献上させていただきますよ。

 貸し出しと言う形でよろしければ貴重な本も御座います」


「おお、ありがとうございます!

 ……ですけど、ここでの生活に必要な家具や雑貨、道具も欲しいのでお金がいいんですよ。

 ――あ、お金は受け取りませんよ。

 あくまでも自分で稼ぎたいんです。

 あぶく銭に良い事なんて一つもないですからね……」


「そ、そうですか……。

 一度帰ってからになりますが、いろいろ検討してみます」


 やった。


 上手くいきそうだ。


「ありがとうございます!

 できればで良いですが、早めにお願いします」


「承知いたしました。

 お任せください。

 ……あの、もっとこちらでゆっくりとさせて頂きたいところですが、そろそろ帰ろうかと思います。

 魔獣の件の報告をしなければなりませんので……。

 それで、申し訳ないのですが、タイラントガイアベアーの素材を一つ持ち帰ってもよろしいでしょうか?

 ああ、もちろんきちんとお返しいたしますので。

 できれば頭蓋骨を拝借したいと考えております」


 あー、証拠と言うわけか。


 写真とかないもんな。


 一人だから、証拠も何もなしに手ぶらで帰ったらサボってただけと思われるかもしれないのか。


 ……正直あれ景観ぶち壊すし、特に使い道も無いし、睨まれてるように感じて薄気味悪いから、前からずっと処分したいと思ってたんだよな。


「ドレイクさん、よかったらあれ全部貰ってくれません?

 いやー、正直あれ処分に困ってたんですよね」


「「え!?」」


 メディとドレイクさんが同時に仰天した。


 メディの髪の蛇は驚きすぎて少し絡まってしまっている。


「だ、旦那様!そんなもったいない事仰らないで下さい!」


「えー?でも邪魔だし……」


「ヘ、ヘイサカ殿、メドゥーサ殿の仰る通りです。

 あれらを全て手放すなど正気の沙汰ではありませんよ!」


 猛烈に反対された。


 そこまで?


 白骨死体を家の近くにずっと放置しとくの、全く趣味じゃないんだけど……。


「じゃあせめて……」


 ドレイクさんを庭へ案内。


「これ引き取ってくれません?」


「旦那様……前から聞きたかったのですが、それってオブジェか何かですよね?

 どこかで拾ってきたんですよね?

 あの化け物の体内にあったなんて事ありませんよね?」


「え?そうだよ。

 そのなんちゃらベアーから出てきたんだよ。

 これも庭の景観ぶち壊してるから捨てたいんだけど」


 ……


 あれ、なんか沈黙が痛い。


 ドレイクさんはもう完全に絶句して固まってしまっているし、メディの髪の蛇の何匹かは白目を剥いて気絶してしまっている。


 そんなに?


「……い、良いですか?旦那様。

 これは只の石……いや、岩ではありません。

 『魔石』です。

 魔物や魔獣の体内で生成される魔力の結晶で、マジックアイテム製作など、様々な用途に使われる大変需要が高い物です。

 そしてこの魔石は、より大きくて高品質なほど貴重で価値が高くなります。

 それだけ強い魔物や魔獣を倒さなくてはならない訳ですからね」


「な、なるほど」


「私は千年近く生きていますが、こんなに大きくて高品質な魔石は初めて見ましたよ……」


「ええっ!?メディって千歳なの!?」


「そこは今どうでもいいでしょう!」


 怒られた。


「ドレイクさん……?」


「へ、ヘイサカ殿、これが本当に魔石であるとするならば……そうですね、換金すれば帝国全土にある本を全て購入しても半分も減らないと思います。下手をすれば四分の一も消費できるかどうか……」


 ……。


 これ、絶対俺が持ってていい物じゃないよね?


 聞けば聞くほどヤバそうな物に思えてきたんだけど。


 むしろ余計に手放したくなってしまったわ。


 こういった物はトラブルの元でしかないんだよなぁ。


 ちなみに、白骨だけでもどえらい金額での買い取りになるそうだ。


「……やっぱり、帝国で引き取ってくれませんか?」


「旦那様!そんなご無体な!」


 じゃあせめて半分とか――え?魔石は割れたら価値がなくなる?そしてそもそも割れないのか。


 うーん、メディはどうしても手放したく無いようだから、無理やり持って行って貰ったら機嫌悪くなるだろうなぁ。


 そもそもドレイクさんも遠慮して受け取ってくれなさそうだし……。


 ……。


 お、良い事思いついたぞ?


「ドレイクさん、やっぱりあの白骨も魔石?も全部帝国に差し上げます」


「旦那様、そんな……」


「そんなわけには……!」


「でも只で上げるわけではありません。

 まずは魔石ですが、これは友好の証という事でどうでしょか?

 火の粉を払ってくれるという事ですし、その手間賃も含めるという事で。

 白骨ですが、全て差し上げる代わりにとあるマジックアイテムを頂きたいのです」


「そのマジックアイテムとは……?」


「メディの眼の事は……知ってますか。

 帯で覆わなくてもこの石化の能力を抑制するアイテムってありませんか?」


「旦那様……」


「メディの眼も顔も凄く綺麗で美しいのに、四六時中見れないのは残念だなって……。」


「な、なるほど……。

 私も帝国の所有しているマジックアイテムのすべてを把握している訳ではありませんので、今すぐあるかどうかは分かりませんが、お造りすることは可能だと思います……いえ、可能です」


「良かった。

 では、この条件で受け取って貰えますか?」


「……最初から我が国からすれば断る理由は一つもありません。

 本当によろしいのであれば、そちらの条件で魔石と素材を頂戴いたします」


「じゃあ交渉成立という事で」


「ありがとうございます!!!」


 メディは残念そうな、でもちょっと嬉しそうな複雑な表情をしていた。


 メディさん?人前だから手を繋いでくるのは止めようね?恥ずかしいです。


 というわけで、二度目の握手はお互い両手を出しての物となった。


 ドレイクさんは感謝しきりだったけど、俺としては粗大ゴミの処分をしながら恩も売れて、尚且つ愛する女性へのプレゼントも用意できるのだから、もう一石三鳥って感じだけれど。




「ところでドレイクさん。

 どうやって持って帰るんですか?

 魔石だけでも結構な重さなのに、あの巨大な全身骨格なんて一人で運べます?」


「帰りは片道一回限りの【転移門(ゲート)】のマジックアイテムで帰るつもりでした。

 私の魔力では一度に全て持ち帰れるほど大きな物は作れないので、まずは頭蓋骨だけを持ち帰り、その後輸送部隊を編成して取りに来させて頂こうと思います」


「旦那様、【転移門】とは繋がれた所定の場所に瞬時に移動できる魔法ですよ。

 【転移門】は使える人間が少ないので、基本はマジックアイテムによる使用ですが。

 ちなみにこの魔族が持っている物は、使用時に込めた魔力量に応じて威力が変わるタイプのマジックアイテムですね」


 つくづく魔法は便利だなって思うよ。


 でも……。


「魔帝国から片道一週間くらいって言ってましたか?」 


「ええ、そうですね。

 ですがそれは魔帝国領に入るのが一週間と言う事ですので、帝都までの距離も合わせれば二週間ほどでしょうか」


 うわ……思っていた通り滅茶苦茶時間掛かるんだな……。


 二週間かけて帰って、報告とかまあもろもろの用事を済ませて、また二週間かけてやって来て、そしてまたまた二週間かけて――。


 ……。


 便利な魔法とかマジックアイテムとかで……無理ですか。


 【転移門】は様々な制約がある?そうですか。


 うーん……。


「旦那様、良い方法がありますよ」


「いい方法?」


「はい。

 あのマジックアイテムは使う魔力量によって威力が変わると言いましたよね?

 つまり、魔力量の大きい者が使えばそれだけ大きな【転移門】が発動できるというわけです。

 私が使えば、あの白骨も魔石も全て一度に運べますよ」


「なるほど!」


 メディはあれだけ色んな魔法やスキルが使えるのだから、相当な魔力を持っているんだろう。


 自信ありげに胸を張っている。


 だがドレイクさんはあまり顔色がよろしくないようだ。


「え、ええっと、それはありがたいのですが……」


「何か問題があるんですか?」


「メドゥーサ殿が【転移門】を発動するという事は、メドゥーサ殿ご本人も帝都に転移してしまう事になります。

 ですが片道しかないので、こちらに戻ってくるのは馬車と徒歩という事になります。

 そ、それに、メドゥーサ様がいきなり帝都に現れる事には、問題があると言いますか……」


「そうなの?」


「ああ、昔、姉のエウリュアレ―姉さんと魔帝国は戦った事がありましたが、それのせいだと思います」


「はい……その通りです……」


 お姉さん?何やってるんですか?


 好戦的だって話だったけど、たった一人で一国と争うなんて……。


 ああ、だからドレイクさんはメディを見た時にあれだけ驚いたのか。


 納得。


 会うのがちょっと怖くなった。


 その問題が無かったとしても、メディを一人で送り出すのも気が引けるよなぁ。


 帰路は二週間、急いでも一週間は掛かるだろう。


 寂しいじゃないか。


 しかし、今日は冴えている。


 また名案を思い付いてしまったぞ?


「じゃあドレイクさん、俺も帝都に行きます!」


「ええ?ヘイサカ殿も?」


「俺がいればメディを従者という事にして安心させられるのではないですか?

 あと、荷運びも手伝えますし」


「な、なるほど」


「まあ本音を言えば、早く本や日用品を買い揃えたいので働きたいんですよね。

 魔帝国に行ってみたいと言う興味もありますが」


「こちらとしては手間も省けて嬉しいのですが……。

 ――分かりました、それでいきましょう。

 メドゥーサ殿、【転移門】の発動、よろしくお願いいたします」




 荷造り。


 と言っても用意するのは着替えくらいだけれど。


 滞在期間は決めていないけど、まあそんなに長く居るつもりはない。


 メディは衣服と外套を準備した。


 やっぱり驚かせるかもしれないから、魔帝国内ではフードまで外套を目深にかぶって行動することに。


 まあ仕方ない。


 メディには窮屈を強いることになるから、その代わり夜はいっぱい甘えさせてやることにしよう。


 そして着替え。


 流石にいつもの着流しで行く訳にも行かないよな。


 本当はこの羽織袴が一番いいんだろうけど、着方がわからん。


 とりあえず、一番シックなグレーの着物に上から紺の羽織を着て行けばそれっぽいかな。


 よしいいだろう。


 そのあとハク、シロ、ハル、ウメ、リク、ウミ、ソラをそれぞれ順番に撫でてやってから出かける旨を説明。


 本当は連れて行ってやりたいけど、ドレイクさんの猛反対にあってしまった。


 仕方ないからお留守番を頼むぞ。


 食事は大丈夫か?――狩りをするから大丈夫と。


 ああ、家の備蓄と森の動物たちがくれる分も勝手に食べといてくれ。


 仲良くするんだぞ。


 そんなに遅くはならないつもりだけど、心配だなぁ。


「旦那様、準備できました」


「こっちもできたよ。

 ドレイクさん、お待たせしました」


「では行きましょう」


 俺としてはドレイクさんに一晩泊まって貰って、翌朝に出発すれば良いかなと考えていたんだけども、出来るだけ早く魔大帝様に報告したいらしい。


 職務熱心な事で。


 まあ、まだ日も傾きかけていないし、良いか。


 三名プラス動物七匹で資材置き場の方に。


 ハクたちはお見送りだ。


 七者七様に尻尾を振ったりジャンプしたり前足を振ったりしている。


 うう……やっぱり連れていっ――ダメですよね……。


 メディがドレイクさんから銀のブレスレッドの様な物を受け取る。


「【転移門(ゲート)】!」


「おおー」


「なんと大きな……!!」


 メディを中心に怪しく光る巨大な魔法陣のような円が地面に浮かび上がった。


 しかしその円はかなり大きく、距離を置いて、見送りに来ていた動物たちや、家の敷地まで範囲内に入ってしまっている。


「旦那様の前だから、少し張りきり過ぎちゃいましたっ。

 もう少し出力押さえますね――こんな物ですか」


 ドレイクさん、熊の全身白骨、魔石だけが綺麗に収まる程よい円陣になった。


「それでは行きますよ」


 魔帝国、楽しみだな。


 動物たちを残していく心配もあるけど、それよりも、わくわく感と少しの不安が入り混じった複雑な気持ちが胸をいっぱいにした。

誤字脱字等ございましたら、ご一報下さい。

一部改稿しました。


次話はドレイク卿サイドのお話をします。

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