表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/19

お前たち、ワザと黙ってただろ?



 良い事をすれば、それはちゃんと我が身に返って来るものだ。


 今回の場合、あれが善行だったのかどうかは甚だ疑問だけれど。


 兎にも角にも、当面の食糧問題があっさり解決したのだからオッケーという事にしておこう。


 熊肉の保存食作りを諦め、現実逃避気味に動物たちと存分にたわむれて不貞寝したその日の夕方、外の騒がしさに目を覚ますと昨日の山猫たちに加えてその他様々な動物たちが門前に木の実や果実、薬草、キノコ、活きた魚などを門前に大量に運んできていた。


 一宿一飯のお礼ってやつか?泊めてはないけれども。


 ありがたく貰っておこう。


 でも多すぎじゃないかな、うん。もう持ってこなくていいから。


 門から出られなくなっちゃうから。


 十分だから。


 な?




 とりあえず腹が減ったから朝飯代わりに手ごろな大きさの魚を枝に刺して焼く。


 魚はマグロくらいある巨大なものから鯛くらいのものまで、ざっと見た感じニ十匹くらいあって流石に今食べられない分は返した。


 いや、とってもありがたいんだけど……。


 ごめんごめん、そんな顔するなって。


 自分たちで食べればいいから。


 ありがとう。


 森の動物たちに貰った食べ物を種類ごとに分けていく。

 

 一番多いのは木の実と果実だ。


 動物たちの種類で一番多いのが大きいリスみたいなやつで、そいつらが全員木の実と果実を持ってきたからな。


 この木の実だけで八種類前後あった。形はどう見てもドングリにしか見えないものとかもあったけど、大きさと色からやっぱりここは異世界なんだと思い知る。


 果実も数種類。野苺みたいな赤い実を一つ口に放り込んでみたら、想像通りに甘酸っぱくて美味しかった。もう苺でいいだろこれ。


 次に多いのは薬草とキノコで、これも数種類ずつある。

 

 これも選別していく。



 ……



 そして気付けば三日間、ひたすらこの作業をしていた。


 片付けども片付けども、毎日同じくらいの量を持ってくるもんだからいつまで経っても減らない終わらない。


 そして二日目にして気が付いた。お礼にしては多くないか?と。


 まさかこれ貢物か?


 確かに、あの時肉を食べに来てなかった鹿みたいな動物も薬草みたいなのを運んできてるな。


 いや、そんなに持って来てもらっても困るんだけど……。ありがたいけどな。


 わかった、じゃあその半分の量を二日おきに持って来てくれ。


 あ、魚はたまにで良いからな。



 そんなわけで結構な備蓄ができた。


 苺のような赤い果実やオレンジの様な黄色い果実は足が速いので薄く切って天日で乾燥させてドライフルーツに。


 水分は無くなったけど、甘味が凝縮されてこれはこれで美味しい。


 これだけでも結構な量。


 薬草やキノコ類はそれぞれ箪笥にあった布に包んで台所の暗所に保管。


 このキノコ、毒とかないよな?と思ったけど、動物たちは普通に食べてるし大丈夫だろうと、焼いて食べてみれば、ジューシーで大変美味でした。




 食糧問題解決で一安心した俺は森へ向かうことにした。


 あの熊が暴れて倒してしまった木を集めるためだ。


 あんな直系一メートル以上もある大木が何本も倒れていたら、獣道を遮ったりしてしまって動物達の生活の邪魔になるかもしれないし、あとあの大木を使って何かできないかと考えたからだ。


 ドライフルーツと焼いたキノコと魚の切り身を大きめの葉っぱに包んだ特製お弁当を箪笥にあった風呂敷で包んで出発だ。


 ん?お前たちも付いてくるのか?


 ははは、よし一緒にお散歩しよう。


 何故か頻繁に姿を現すようになった合計七頭の山猫とイタチと犬たち。

 

 完全に懐いてくれた。誰が何と言おうと、もうお前たちはうちの子だからな!


 今度名前でも付けてやろうか。


 道具さえあれば小屋でも作ってあげるんだけどな。


 ……

 

 さて困った。


 木が大きすぎて上手く運べない。


 神様に貰ったこの丈夫な身体のおかげで簡単に持ち上げることは出来るが、鬱蒼と茂った森の中を大木を担いで歩ける訳がなかった。


 細かく出来ればいいんだけどなぁ。


 やっぱり道具が足りない。何をするにも道具不足が壁として立ち塞がる。


 調理器具や食器は充実してるんだが……。


 まぁ、重機レベルの機器でもないとこの大木を一本半分に切るだけで日が暮れてしまいそうだ。


 熊が来た方向を遡って透視の力で見てみる。


 どうやらあいつは数キロ先の洞窟の様な所からやってきたようだ。そこを始点として一直線に通った後がある。根城だったのだろう。


 そしてその洞窟と家までの数キロの一本道の間に倒れている大木は四、五十本ほどある。

 

 その内獣道に影響なさそうなものを除いたとしてもまだ半分以上はある。


 うーん、とりあえず今日は獣道を遮っていそうな巨木を退かして終わりかなぁ。


 殴ったり蹴ったりして細かくしても良いけど、そうすれば粉々になってしまって薪ぐらいにしか使えなくなってしまうんだよな。


 折角だから綺麗なまま持ち帰りたい。


 うーん……


 さっきまで後ろをちょろちょろしていたイタチ三兄弟が頭を抱える俺の前に躍り出てきた。


 なんだお前たち俺を笑いに来たのか?


 え?自分たちに任せろって?


 はっ、そんな爪でいけるのか?


 大丈夫?ほう、じゃあちょっとやっ――


 ……


 ……


 すげえ!なんだそれ!?

 

 もの凄い切れ味で巨木が輪切りにされていく。


 え、魔法?


 そうか、魔法か。


 ふーん、魔法ね。


 そう言えば神様が剣と「魔法」の世界って言ってたな。


 こんなに便利なものなら俺もちょっとくらい使えるようにして貰えば良かったな……。


 まあ良い目も貰ったし贅沢は言えないよな。


 それに動物たちでも使えるんだし俺にも使えるようになるかもしれないじゃないか。


 どうだ、と言わんばかりに誇らしげに胸を張るイタチ三兄弟を撫でてやると、それを見た山猫と犬が我先にと競うように他の倒木目掛けて走り出した。


 え?お前たちもできるって?


 ははは、凄い凄い。


 無茶すんなよ?


 でもイタチ三兄弟の切ったやつが一番綺麗だな。


 そのまま頬ずり出来そうなくらいの切れ口だ。


 山猫と犬が切ったものは、抉られたような切り口で無駄が多い感じがする。


 ほら、お前たちも撫でてやるから今日のところはあいつらに任せとこうぜ?な?

 

 

 ……

 


 全ての獣道を遮っていた倒木を回収するのに五日ほど要した。


 のんびりやっていたのもあるが、だんだん運ぶ距離が長くなるのだから仕方ない。


 途中他の動物たちも時々やってきて手伝ってくれた。


 特に鹿が凄かった。念動力っていうか、大木を浮かせて運んでくれたのだ。


 すごく助かった。


 あれも魔法の一種なんだろうか。


 運んだ大木は、屋敷の門の反対側の塀の外に積んである。


 ついでにイタチ達に頼んで屋敷の周りの木をある程度の範囲で伐採して貰った。おかげでかなり見通しが良くなった。この時に出来た木材も併せて、大きな木材の山が裏に出来てしまった。


 ここはこのまま資材置き場になりそうだな。


 そうだ、縁側からの景観を激しく阻害していたあの熊の白骨も木材を置いている所へ移動させてしまおう。


 あ、ちなみに毛皮はちょっと素人にはどうしようもないので捨てましたよ。




 この一連の作業を通して、この森の動物たちは皆魔法が使えることを知った。


 各種族によって得意な魔法があるようで、例えばイタチは物を切ったりするような魔法が得意で、犬は火を吐くのが、山猫は凍らせたり氷を作るのが得意なようだ。他にも鹿は物を動かす魔法が、リスは高速で動く魔法が得意のようだ。 


 イタチの魔法を褒めたせいか、みんな競って見せたがるんだよな。


 ……と言うか、お前ら魔法でそんなことできるなら早めに言ってくれよ。


 火起こしも簡単にできるようになるし、氷があれば肉の保存だって出来るじゃないか。


 熊の肉ほとんど食べられてしまったよな。


 七頭の猫、犬、イタチたちを見る。


 そっぽ向いてるけど、お前らまさかワザと黙ってたんじゃないだろうな?


 そんな訳ない?ホントか?ホントだよな?


 ……


 今度から色々手伝ってくれるなら許してやろう。


 というわけで火を使う関係は犬、生もの保存用の氷は山猫、伐採など切る作業はイタチにお願いすることに。


 うん、適材適所だ。


 一気に文明レベルが上がった。


 でもよく考えれば野生動物に手伝ってもらうって、文明レベルが上がったと言えるのだろうか?


 むしろ野生レベルが上がった気がしないでもない。




 常に俺の近くにいて魔法で手助けしてくれる七匹に、遂に名前を付けることにした。


 白い毛並みが綺麗な二匹の山猫は、つがいらしく、雄の方に「ハク」雌の方に「シロ」と名付けた。白いからハクとシロって、安直過ぎかなと思ったけど本人たちは、まあそれなりに喜んでいるようだ。


 続いて灰色の二匹の犬。こいつらは撫でてるときに気付いたが、姉妹だ。そう言えば、この世界に四季はあるのだろうか?前の世界とリンクしているなら今は春だよな。結構過ごしやすい気候だし、春だな、うん。よし、「ハル」と「ウメ」でどうだ。


 良さそうだな。


 最後にイタチ三兄弟。勝手に「三兄弟」なんて呼んでいたけど、実際に三匹とも雄の兄弟らしい。


 三兄弟か……「ぐー」「ちょき」「ぱー」。


 ……ダメですよね、分かってますよ。


 だからそんな呆れた目で俺を見るのをやめてください。


 ――「まる」「さんかく」「しか――……」


 ……「リク」「ウミ」「ソラ」はどうだ?


 も、もうこれ以上俺のネーミングセンスを求めないでくれ……。


 良かった、納得してくれたか……。


 お前たち、これからもよろしくな。


 どうしてか全く分からないけれど、名前を付けた動物たちはバリアを無視して家の塀を飛び越えてこれるようになった。


 他の森の動物たちは出来ない。


 いちいち門を開け閉めする必要が無くなったよ。 

誤字脱字等ございましたら、ご一報下さい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ