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第八話 ラブソルジャー田淵Ⅱ

「良い天気ですねセレスさん! どうです、お昼でもご一緒しませんか」


「……田淵先輩、毎日教室に来るのやめてくれません? ぶっちゃけ迷惑なんですけど」


 ジト目で俺を見るセレスさん。

 あれから俺は少しでもセレスさんと仲良くなるために日々奮闘しているのだ。


「それはゴメンナサイ! それはそうと一緒にお昼を……」

「ほんと折れないわね! いいかげん私の気持ちを察して消えなさいよ!」


 もはや敬語すらなくなっている。しかし俺はこの程度で折れたりはしない!


「嫌です! 俺はセレスさんが好きなので!」

「だ・か・ら! いちいち恥ずかしいのよアンタ! でかい声出してるんじゃないわよ!」


 確かに先ほどから周囲の生徒たちからの視線が痛いが、まあ俺にとっての最優先事項はセレスさんであり、それ以外は大した事ではない。故にノープロブレムである。


「うん、問題ない」

「大問題よ!」


 机を叩き、俺を怒鳴りつけるセレスさん。全力で怒鳴った為か、若干息が乱れていてエロい。


「お願いしますセレスさん!」


 セレスさんと仲良くなる為なら恥も外聞も知ったこっちゃない! 俺はその場で見事なジャパニーズ土下座をしてセレスさんに頼み込んだ。


「なんでそんな恥ずかしい事をしてまで私とご飯が食べたいのよ! アナタにはプライドとか無いわけ?」

「俺はセレスさんと仲良くなる為に土下座をする事を恥だとは思わない! 何故なら全力であなたの事が好きだからぁ!」

「それでも手段は選びなさいよ! はっきり言ってすぐ土下座する男とか嫌われるだけだからね!」


 むう、セレスさんに嫌われるのは何としてでも避けねばならないな。俺はそう考えると土下座の体勢をやめた。


「……はあ、わかったわ先輩」


 全力で怒った事で疲れたのか、セレスさんは溜息をついて俺に向き直る。


「一緒にお昼を食べてあげる。そのかわり何か奢りなさいよ」


 おお! ついに……ついにセレスさんとお昼を!


「神様ありがとぉぉぉぉ!」

「だから叫ぶなって! 恥ずかしいのよ!」





「セレスさんの趣味って何ですか?」

「……読書よ」

「へえ、ちなみにどんな本を……」

「ちょっと食事中だから黙っていてくれないかしら?」

「……ハイスイマセン」


 セレスさんと学食に来て、一緒に食事をしている。何とか話題を盛り上げようと頑張っているのだが……これはちょっと厳しそうだ。


 無言でカレーを食べるセレスさんをぼんやりと見つめる俺。


 うむ、やはりセレスさんは美しい。ただカレーを食べるという日常的な行為の中にも、その洗練された美しき所作が見られる。その行動一つ一つが優雅であり、俺はその姿にただ見とれていた。


「……先輩は食べないの? お昼時間終わっちゃうわよ」


 自分の昼飯に手も付けずにセレスさんを見ていたので不審に思ったのだろう。セレスさんが俺に話しかけてきた。


「あ、そうですね」


 ちなみに俺がセレスさんに対して敬語なのは反射的なものだ。誰だって美しいものには敬意を払うだろ? つまりそういう事だよ。


 俺は既に若干冷めつつある目の前のカツ丼に手をつける。


 しかし、先日友人の石堂に昼飯を奢ったのだが、あの時は地獄を見たよ。まさか小柄な石堂があんなに食べるとは思わなかった。おかげで俺の財布の中身は……ううっ、ダメだこれ以上思い出したら精神衛生上よくない。


 俺は頭を振ってトラウマ級の思い出を追い払うと、食事を再開した。

 突然だが俺は丼ものが大好きだ。理由など自分でもわからない。だが丼ものと聞いただけで腹が減ってくるし、外食時に食べるものは高確率で丼ものである。


 肉厚のカツを口に放り込む、少し冷めてはいるものの、味のしっかり染みたカツは最高においしかった。


「……とてもおいしそうに食べるわね先輩。カツ丼が好物なの?」

「いや、カツ丼に限らず丼ものは何でも好きですよ」

「へえ、そう」


 驚いた、セレスさんは俺の事なんて全く興味がないんだって思ってたのに。そして、こんな何気ない会話でも最高にテンションが上がっている自分がいた。


「田淵先輩……さあ」

「なんですか?」

「私のどこが好きなの?」

「へ?」


 思わず間抜けな声を出してしまった。本当にどうしたのだろうか、少しは俺の事を気にしてくれるようになったのか。


「何よ? 私がこういう事聞くのおかしいわけ?」

「いえいえ、そんな事ありませんよ! どこが好きか、ですか」


 少し真面目になってセレスさんと向き合う。


 セレスさんのたっぷりとした金髪が、どこからか吹いてきた風に吹かれてさらさらと流れていく。


 美しいと、思った。

 綺麗だと、感じた。


 それが全てだとわかった。


「全部好きです」


 俺は、どうしようもなくセレスさんの事が好きなのだから。


「…………そう」


 セレスさんは無愛想にそう言うと、再びカレーを食べ始める。その頬が少し赤く染まっているように見えたのは気のせいだろうか。

 




「ご馳走さま。おいしかったわ先輩」

「それは何よりです」


 楽しい時間というものは流れるように過ぎていくものだ、夢のようなお昼休みは過ぎ去り、午後の授業が始まろうとしている。


「……敬語」

「はい?」

「敬語、やめなさいよね。アナタの方が先輩なのに敬語なのはおかしいわ」

「あ、でもこれは……」

「それに何かむかつくじゃない。先輩が私に言い寄ってきたくせに敬語で距離とられてるみたいで」

「いや、これは距離をとっているとかではなく……」

「いいから! 敬語をやめて、いいわね?」

「……うん、わかったよ」


 俺がそう言うと、セレスさんは満足したようにふわりと笑った。


「よろしい。じゃ、またね先輩。奢ってくれるんなら、またお昼一緒してもいいわよ」


 俺は返事をする事が出来なかった。俺に笑いかけてくれたセレスさんの表情が、頭に焼き付いて離れなかったのだ。


 俺は今、最高に青春ってやつを謳歌している。



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