Episode45 訪問者
そして元の世界
「およ、もう帰ってきたのか。今行ったばかりではないか。」
「もうって言っても、嬢ちゃんは過去で何日か過ごしてきたんだぞ。」
「おかえりなさい、ユメカさん♪」
顔や衣服は泥だらけで、露出している腕には数カ所の擦り傷があった。
その疲弊した姿は、ユメカが過去で奮闘してきた事を物語っていた。
「た、ただいま。はいこれ、もらってきたよ、エリクサー……。」
ユメカは過去で起きた出来事を語った。
アヌビスは巻島の飼っていたでんでんだった事、アポロンがアヌビスを育てた事。
ストナやアヌビスは偉大な賢人として活躍し、多くの生命を救った事。
そして、最後にティターン族の襲撃を受け、ユメカを助けるために研究施設と共にその身を投げ打った事も。
「あー、そんな事もあったかもしれんのう。」
「あの後どうなったの?無事だったの?」
「無事もなにも、我が一人で退治したわい。」
「そんな、だってストナちゃんは『我が外に出た所で負けることは必至』とか『ティターン族もろとも異空間へ葬ろう』って真剣な顔で言ってたよ?」
「ティターン族ごときに我が敗れるはずがなかろう。ちょっとシリアスな展開にしたかったんじゃろうなあ。ほほっ。」
そう言って、ストナは服に隠れた肩にある傷を手で覆った。
巻島は目に涙を浮かべ、うんうんと頷いていた。
「しっかし、でんでんが獣人になって、賢者の石を作ってたとは驚いたぜー。」
「獣人の寿命は四千年とも五千年言われておる。まだどこかに存在しているやもしれぬぞ。フフッ。どころで、賢者の石は破壊出来たのかの。」
「うん。ストナちゃんが砕いて、欠片を私にくれたよ。巻島さんにこれ、渡しておこうと思ってたんだった。」
でんでんからの手紙を渡した。
明るく振る舞っていた巻島は、ついに滂沱の涙を流した。
「あのやろうっ……、次会ったらもしゃもしゃしてやるぜっ。」
ネムリは小屋の床に眠るタクトをじっと見つめていた。
おびただしい量の出血に、何をしてももう起きないのではないかという不安が過る。
「お姉さま、本当にタクトさんはエリクサーで蘇ることが出来るのでしょうか?」
「うむ。死後一日以内の者ならその息を吹き返すはずじゃ。」
震える手を押さえながらエリクサーをタクトの口に注ぐ。
失敗は許されない、これが最後のエリクサーなのだ。
タクトの体に注目が集まる。
…。
……。
………。
「なんで!?なんで目を覚まさないの!?」
「時を渡るとエリクサーの効果が切れてたりしてのう。」
「そんな……。タクト!タクト!!起きなさいよ!!!」
何度も何度もタクトを揺さぶる。
迫る恐怖に耐えきれなくなったのか、体中から冷や汗が止まることなく溢れ出る。
「私がどんな思いでこの薬を手に入れてきたと思ってるのよー!」
「痛いよユメカ、でも痛みを感じるって事は、僕は生き返ったんだな。」
「おおっ!」「手間かけさせやがってコノヤロウ!」「タクトさん!!」
遂にいつものメンバーが再び揃った。
ユメカの回復能力でタクトは完全に元の状態へ戻り、タクトは驚愕した。
「ユメカ……、その能力、まさか。」
「私もタクトや巻島さんと同じ半人半霊になっちゃった。」
「そうなんだ、タナトスに……。」
「……うん。」
タクトの死後に起きた惨事、ストナやアポロンの活躍で地球の危機は一時的に回避された事を伝えた。
「タクトよ、お主の転機は能力を封印され、死んだ時に停止した。もう能力が増える事はないじゃろう。」
「三つ目の力の事か?でもストナこれを見てくれないか。」
タクトの左手の能力傷には三本の亀裂が入っていた。
「なんじゃと!一体どういうことじゃ。何か能力は使えるのかの。」
「いや、これと言って何も感じないな。」
指を鳴らしたり、手を空に向けて広げるが何も起こらない。
すると突然、タクトの破れた衣服の隙間から小さな子猫が顔を覗かせた。
「うわっ!何だこのネコ、いつの間に。」
「かわいいですわね♪食べちゃいたい♪」
「大きい嬢ちゃんが言うと本当に食べたそうに聞こえるな。ハハッ!」
「ほー。これは驚きの連続じゃな。何千年も色んな能力を見てきたが、これは初めて見たのう。」
タクトの三つ目の能力、それは【召喚能力】だった。
異世界より魔物や精霊を召喚し使役するという、もはや伝説上の魔法だ。
「でも何で子猫なの?どこからどう見てもただの子猫だよね。」
「さ、さあ。何も意識してないけど。」
「フフッ、召喚能力なぞ簡単に扱えるわけがなかろうに。何でもレムリア三賢人の一人、プル、プル、プルグなんちゃらが使用していた能力とされておるのじゃ。」
「タクトさんすごいですわ♪」
「あー、それにしても喉が乾いちゃった。夏休みが終わるまではゆっくりしたいかも。」
その時である。
太陽が昇り眩しい最中の大雨。
「わ、いきなり降ってきちゃったね。なんなのもうー!」
すると雨は止んだ。
「ユメカよ、言い忘れておった。お主も巻島と同じく回帰を受けておる。そして初めに目にしたジャッジメント対象者であるタクトの能力を受け継いでおる。」
しかし、首を右へ左へと傾けるストナ。
「じゃが、何故じゃろう。普通なら巻島の様にタクトより同等以下の能力を受け継ぐはずなのじゃが。タクトよりも優れておる気がするのう。ちともう一回喉が乾いたって言ってみてもらえぬか。偶然かもしれんからの。」
「喉が渇いたー!すごくお水が飲みたいっ!」
一同は騒然とした。
先程よりも強い雨が小屋の窓を強く叩く。
「ちと、今度は何か動くように念じて見てもらえぬかの。」
「動く様に?」
タクトがふわりと浮かび、天上に強く打ち付けられた。
「いてっ!なにすんだよ。」
「ごめーん!そんなつもりなかったんだけど。」
「ユメカよ、お主は過去に存在したレムリアの魔法使いの素質があるやもしれんのう。」
「ということは、召喚能力もですの?」
「おいおい、こんな所に大魔神とか巨人とか呼ばないでくれよ。小屋が壊れちまう。」
「ユメカ、なんか呼んでみてよ。」
「なんかって言われても。」
ユメカは目を瞑り何かを念じていた様だが、特に何も現れる事はなかった。
その後も何度か試行してみたものの、触れずして物を動かす能力と水を操る能力しか確認出来なかった。
研究所に場所を移し、皆で冷たい飲み物を飲みながら憩う。
非日常的な生活が馴染み、会話の内容も人間の世界とはかけ離れている。
これからどう過ごしていくか、ストナからの提案があった。
その時、研究所のインターホンが鳴った。
「誰だ?こんな朝早くから。研究員がインターホンを押す事なんてねえしなあ。」
「私たちをお呼びでしたか?」
Episode46へ続く




