Episode43 どんな疫病も治しちゃうドリンク
ユメカが古代エジプトにやってきてから四日が過ぎた。
農耕文明であるこの地は、玉ねぎやレタス、ハコベやマメ等の穀物類の種類も豊富で、栄養のバランスは気にならなかった。
また、タナトスはテーベの街で唯一の医業を営んでおり、上流貴族と同等の待遇を受けていた。
そのため、野菜の他にも、ハチミツ入りのパンや、ウサギやカモの肉、魚卵を用いた煮物まで用意されていた。
賢者の石の能力が戻ってからというもの、液体薬の実績は著しい進捗を見せていた。
疫病患者のみならず、死亡して間もない者までも蘇生させる効果があった。
「はぁ、はぁ……はぁ。能力を使うとこんなにも体力を消耗するんだ。」
「大丈夫かい?フルムちゃん。疫病が感染しているかもしれないからきちんと自分でも液体薬を飲んでおくんだよ♪あ、回復出来るならそれでもいいか♪」
「はい、お心遣いありがとうございます。タナトス様とアポロンさんは、疫病の心配はないんですか?」
「アハハッ!もちろん感染するよ。だから液体薬をその都度飲んでるんだ。でも生命に関わる程の症状は出ないかなあ、ボクと妹ちゃんは腐っても神だからね♪」
そこにアヌビスの散歩をするタナトスが現れた。
「お、お主ら、どうじゃ?本日のどんな疫病も治しちゃうドリンクは。」
「……。」
「やあ妹ちゃん。今日は500人くらい治療できたんじゃないかな?フルムちゃんの頑張りが素晴らしいよ♪」
「アポロンさんはいつも草むらで何をしているんですか?」
「ふーむ、さてはアポロンよ、フルムに為事を押し付けてサボっておるな?どんな疫病も治しちゃうドリンクは消費期限があるのじゃ。二人で力を合わせて貰わんと困るのう。」
「ゴメンゴメン。フルムちゃんがあまりに手際がいいから、ボクの出番がないんだよ♪それと妹ちゃん、液体薬の名称、やっぱり長くない?その名称で呼んでるのは妹ちゃんだけだけど。」
「フフッ、じゃあなんて名付けようかのう。疫病ホイホイ、スグナオールヨミガエール、超神水、パッと思いつくのはこの辺りかのう。」
「……エリクサーがいいとオモウ。」
「エリクサーって神秘的な響きがするよね♪エリクサーにしようか。」
「お主らのセンスがようわからんが、それでよいならそうしようかの。」
タナトスが指をパチッと鳴らすと、診療所の看板が書き換わった。
【エリクサー有り〼、疫病・呪い・死後1日以内の遺体蘇生◎、出張治療も◎診察料ゼロ☆彡】
翌日から診療所には多くの患者が訪れた。
その反面、エリクサーの効果を知り、以前にも増してタナトスの身柄を拘束しようとする者たちの後は絶たなかった。
疫病による人口の減少により、内政が混乱、それに乗じて隣国のカルデア人やアラブ人、リビア人の侵略が始まっていた。
それに加えて、トロイア戦闘の真っ只中だったエーゲ海周辺の神々も、不死の生命を求めエリクサーを手に入れようとエジプトに迫っていた。
更に、疫病患者にエリクサーを投与し、回復能力を使用していたユメカにまでもその手は及ぶ事となる。
「どうするんだい?妹ちゃん。エリクサーはまだ足りてるからいいけど、フルムちゃんもずーっと回復能力を使ってるから少し休ませてあげないと。」
「そうじゃな。患者の具合も落ち着いて来たことじゃ、我らも一時避難しようかのう。」
「……南西から何カクル。」
「やれやれ懲りないやつらじゃ。あんな青銅武器で我を捉えようと」
「きゃああああああああ!」
「フルムーーー!あやつらはティターン族、神の使いまでもエリクサーを欲しておるのか。」
フルムは一瞬の内に数名の者にさらわれ、物凄い速さで飛び去っていった。
タナトスは大鎌を取り出し、ティターン族へ向けて構えた。
「妹ちゃん、それじゃ間に合わないでしょ?ボクに任せてよ♪雷霆よ、轟け!」
アポロンが一筋の矢を天に射ると、テーベの街中に曇天が広がった。
激しい稲光と共に雷が地に降り注いだ。
遥か彼方に飛んでいるティターン族にそれは直撃した。
天から落下してくるユメカ。
それを見ていた周囲の住民がタナトス達の下へやって来た。
「先生!空から女の子が!」
「わかっておる!そーれい!」
大鎌を振りかぶり、ユメカの方へ一直線に放り投げる。
柄の部分にユメカのドレスが引っかかり、ゆっくりと下降した。
「アポロンさん、ありがとうございます。」
「いいっていいって。でもすごいでしょう?オリハルコンで作った矢なんだ♪フルムちゃんが為事をしている間、街の至る所に水蒸気の塊を発生させておいたんだ。この矢で天を射れば上空の水蒸気は一気に凍って雷がドーン!っていう仕組みさ♪ティターン族にだけ当たったのはボクの腕が良かったからだけどね♪」
「お主、サボりながらも中々憎い事をしよるのう。」
「サボってたわけじゃないってばー。っていうか、フルムちゃんってどうしてボクの事だけアポロンさんなの?妹ちゃんはタナトス様~なのに。ボク達どこかで会った事あるかな?」
「い、いえ、ありません。絶対ありません。初めましてです。アポロン様。」
「アハハッ!そこまで強く言わなくてもいいのにー。いいんだよ。アヌビスにだって呼び捨てにされてるからさっ。」
ユメカは意を決してタナトスに声をかけた。
「タナトス様。」
「ん?なんじゃ?」
「い、いえ、何でもありません。その、助けていただきありがとうございました。」
「フフッ、気にするでない。お主は大切な私のパートナーじゃからの。」
ユメカはエリクサーが街の人々、それに留まらず国全体に必要とされている事で、譲ってもらう話を切り出せずにいた。
現代へ戻れる期限:残り3日
Episode44へ続く




