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Episode42 アヌビス

タイムマシンが完成した日、男は安全性の確認のためあらゆる時代へ試運転を試みていた。

ふと思い立ち、幼少期を過ごした生家へタイムリープした。


区画整理により、現在は生まれ育ったこの家も犬の墓も存在しない。

男は込み上げる懐かしさに浸っていた。


「よし、座標のズレもそんなにないな。しかし、墓の真上に出ちまったのはまずかったか。ハハハッ!」


男は犬の墓へ手を合わせ、元の世界へ戻る。


この時、墓の上に現れていた蒼い渦により、犬の亡骸はどこの時代とも分からぬ場所へタイムリープしていた。


━━━━━


犬の亡骸は砂漠地帯のスフィンクスの頭上に現れ、その下70メートルの砂上に二人の少女の姿があった。


「ここが天空神ホルスの像です。あのスフィンクスはホルスの数ある姿の一つとされているんですよ。」

「へえ、お姉ちゃんは何でも知ってるんだねー。」

「何でもは知らないですよ、知っている事だけ。次は7,000万年程前に遡り、ウルルという巨大な一枚岩の起源を見に行きましょう。」

「行こう行こうー。」


少女が指を鳴らすとたちまち竜巻が起こる。

一面に広がる砂を巻き上げ、視界はゼロ。

その竜巻に巻き込まれた犬の亡骸を見つけ少女は手を止めた。


「っととと、あれ、このワンちゃんにそっくりなのをこないだ見かけたねー。」

「まさか、他犬の空似でしょう。」

「今の竜巻に巻き込んじゃったのかなー。可哀想な事しちゃったなあー。」


少女が指先から柔らかい光を放つと、犬は即座に息を息を吹き返しどこかへ走り去って行った。


━━━━━


それから数日、犬は彷徨った。

食べる物も飲み水もなく、照りつける強い日差しという過酷な環境下では生きるすべなど皆無だった。


「ようこそ。ラディーズへ。」


一人の獣人が、瀕死の犬を抱えて蜃気楼の酒場へやって来た。


「おや、どうしたんだいジャメル。」

「……。」

「見かけない犬だね。」

「……。」


アポロンはクエーサーの実から創り出した青りんごを小さく切って、犬に与えた。

徐々に体力を取り戻した犬は、次第にアポロンに懐いていった。

クエーサーの実から創られた様々な食べ物を与えたが、青りんごだけを好んで食べ続け、それは犬に大きな変化をもたらした。


━━━━━


三ヶ月後


犬は獣人の姿になっていた。

しかも、知能指数は他の獣人と比べ物にならないほど高く、日夜地下遺跡に閉じこもる生活が続いた。


その夜。


「獣人の姿がすっかり板についたね♪そう言えば、キミの名は?」

「……。」

「獣人ってどうしてそうも無口なんだい?」

「……。」

「もー!そんなに石版ばかり読んでないで、少しはボクとお話してよー。」

「……外の石版も読ませてホシイ。」

「お、やっと喋ってくれたね。外の石版を読むにはさ、日中は犬の姿に戻らないといけないね。キミはこの地域の獣人じゃないだろう?獣人同士の争いなんて始まったらこの国は消し飛んじゃうからね♪」


そう言ってアポロンは獣人に真鍮の首輪を差し出した。


「その首輪はね、ボクんちの庭にあった能力を封じる首輪なんだ。ホントは頭に付けて使う物なんだけどね♪それで、キミの名は?」

「……。」

「わかったわかった。そうだなあ、じゃあキミの名は、うーんと、地下遺跡あなに引きこもって勉強ばかりしている獣人ビーストだから……、アヌビスね♪」


アヌビスは様々な壁画や石版を読み取り、知識を蓄えていった。


━━━━━


「ほほーっ、随分とでっかい獣人じゃのう。こやつが私の研究を手伝ってくれるというのかの。」

「うん、街のお医者さんと協力して疫病を撲滅したいんだって。アヌビスの数学的能力はすばらしいよ。ただ、無口だけどね。」

「街のお医者さんとな。フフッ。なぜ獣人なのに犬の仮面を付けておるのじゃ?」

「……。」

「あ、これはね、彼は視力がとても悪いんだ。眼鏡をかけようにも耳がホラ、上にあるでしょ?だからこの仮面にレンズを入れたんだ♪」


アヌビスはさらりさらりとパピルスに文字を書き出した。

【私は言葉を話す事には疎い。だが文字を読み書きする事は出来る。アポロンのお陰で様々な知識を得れた。あなたの研究を手伝いたい。】


そしてアヌビスは自らの口の中に手を入れ、蒼く光る欠片を取り出した。


「これの大きいやつをツクル。」

「な、なんじゃこれは。未知のエネルギーを感じる。お主これをどこで手に入れたのじゃ。」

「……。」

「オリハルコン?とは色が違うよねー。」


タナトスとアヌビスの研究は夜となく昼となく続いた。

タナトスの化学力でオリハルコンの能力を抽出し、アヌビスが持ち寄った天秤により寸分の誤差もなくそれを計り分けていく。

そうして様々な薬を作り出し、他の国からもその薬を求め行商人がやってくる程だった。


そして研究は大詰めを迎えた。


「よーし、あとはこの液体をそのへんの石コロに封じ込めれば完成じゃ。名付けて、どんな事でも出来てしまうすごい石!」

「……。」

「長い名前だね……。妹ちゃんのそういうセンス、嫌いじゃないよ♪」

「小馬鹿にしておるのかー!ではアヌビスよ、お主が名付ければいい。賢人アヌビスと名も広まったしのう。」

「……賢者の石。タナトスと私の、賢者ノイシ。」

「しっくり来ないのう。だが悪い気もしないのう。賢人タナトスと賢人アヌビスか。ほっほ。その欠片の能力もだいぶ失ってしまったのう。」


賢者の石はあらゆる薬品を精製するきっかけとなった。

時には国を守るために毒の調合も行った。

他国の軍や他国を統治する神々の耳にも噂は流れ、賢者の石を求めて幾度となく襲撃された。


その間にも疫病は蔓延し、人口の半数を失い国家も危機敵状態に陥った。

タナトスとアヌビスは地下空間に研究施設を移し、疫病を収束するための研究を続けた。


両手で覆う様に賢者の石から能力を抽出する。


「よーーーし!これを注いで液状化させれば完成じゃ!名付けて、どんな疫病も治しちゃうドリンク!」

「……。」

「いいねー♪サイコー♪」

「お主に褒められると小馬鹿にされている気がしてならぬのぅ、おわっ!とととと。」


賢者の石の能力は全て放出され、その能力を失った。

タナトスの手の隙間からは抽出された液体がポタリポタリと漏れ落ちていた。


「ま、まちがったー!私とした事がー!」

「……。」

「どうしてアヌビスの天秤で計らなかったのさー!」

「だって、もう完成したも同然だったのじゃよー!」


こうして研究が足止めされていた所に現れたのが、フルムと名乗る旅の者だったのである。


Episode43へ続く

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