Episode40 魔法
『その男。』
「タクトがどうしたの?ねえ、どうしたの!」
パズズを持ち上げ揺さぶるユメカ。
『いいいいききかえる方法ああある。』
「なんですって!パズズさん!教えてください!」
『エリクサー。』
「なんじゃと。じゃがアレはもう、現代の技術では精製する事は……そうか!そうじゃ!その手があった!パズズよ、エリクサーを産み出すのじゃ!あー、タクトを蘇らせてからユメカを転機させるんじゃったー。もっと早く気づくべきじゃったー!」
「いいの、ストナちゃん。ロシアの時もそうだけど、私のためにありがとう。」
皆の表情も明るくなる。
巻島の意識が戻りタクトが甦れば、地球の崩壊を防ぐ方法を再び考える事が出来る。
『産めない。』
歓喜の声は一転した。
「おおおおい!エリクサーはもうこの世に存在してはおらぬ!過去に存在した物は産み出せるのじゃろう!」
「パズズさん!お願いします!」
「どうしてここでそんな事が言・え・ちゃ・う・の・よー!」
ユメカがパズズを持ち上げ揺さぶる。
すると天空から声が響き渡った。
『ストナよ、もう忘れたのか。パズズが物を産み出せるのは数百年に一度だ。あまり無茶を押し付けると、言うことを聞かなくなるぞ。』
「あ……、そう言えばそんな事を言っていたやも知れん。ならば無理強いは出来ないのう、致し方あるまい。」
「そんな……。タクト……。」
「お姉さま!大変です!巻島さんの容態が!先程まで落ち着いていたのですが、また意識を失ってしまいました!」
巻島の出血は酷く、生きているのが奇跡だった。
ホーグの実を食べた所で、ほぼ人間状態の巻島には然程の効力はなかった。
そして、今から病院に搬送している猶予など、既になかったのである。
「巻島さん!巻島さん!」
「さて、本当に困ったぞ。タクトを失い巻島までも……。」
ユメカの指先から麗らかな暖かい光がじんわりと溢れ出す。
ストナは驚きユメカの手を掴んだ。
「ほう、驚いた。ユメカお主……。」
「な、何?これは何の光?」
「なんだかいい香りがしますわね♪」
「これは回復能力じゃ。しかも相当上位の。我やネムリの回復能力を優に超えておる。もはやこれは、魔法とも呼べる領域じゃろう。」
溢れ出した光は、ポタポタと滴り巻島の体へ落ちた。
「あー!痛えなあおい!かかって来いこのヘビ女!」
「巻島よ、よくぞ戻った。」
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ストナとユメカは巻島が意識を失っている間の事を如実に伝えた。
「ってこたぁ、タクトはもう生き返らないのか。」
「いや、そうとも限らん。」
ユメカの方へ向き直り、ストナはユメカの行動を制止した。
「ユメカよ、お主の能力があってもタクトは蘇りはせぬ。じゃがユメカ、お主がタクトを蘇らせるきっかけを創る事は出来る。」
「お姉さま!何か方法を閃いたのですね!」
それは、巻島のタイムマシンを使い古代エジプト時代へ行き、ストナが精製したエリクサーを持ち帰るという内容だった。
「我もほとんど記憶にないのじゃが、アポロンの庭園で過去を映す鏡を見た時、エリクサーを精製するにはフルムという女の回復能力が必要じゃった。それがユメカ、お主だったのじゃな。フフッ。我ながら先見の明があるのう。」
「フルムっていやあ、アラビア語で夢っていう意味だ。嬢ちゃんの名前と似てるな。」
「ステキなネーミングですわね♪」
「よし!そうとなればユメカ、ネムリ、巻島よ!我は対消滅の危険があるから一緒には行けぬが、タクトを安全な場所に安置しておこう。」
「過去にって言っても、私アラビア語なんて話せないよ。」
ストナはユメカと巻島、ネムリの額を順に指でツンと突いた。
「كيف يتم ذلك؟」(これでどうじゃ?)
「إنه لأمر مدهش! أستطيع أن أفهم!」(すごい!理解できる!)
「お、アラビア語じゃん。ほんっと型破りだよなあ。」
「フフッ、我の知識を少し分けてやったのじゃ。それと、人間の体にも戻しておいたのでな、行く先で不便は感じないじゃろう。」
しかし、肝心な研究所やタイムワープを行う木造の小屋は火災で崩れ落ちていた。
「あの状況では過去にタイムリープする事は出来ないのでは?」
「うーむ、建物自体を修復する事は可能じゃが、タイムマシンを復元するには我の知識ではどうにもならぬかもしれんのう。」
修復された小屋に入ると、火災で倒壊する前の状態のまま全ての設備が揃っていた。
「前と変わった所はないみたいだよストナちゃん。」
「カンペキですわ♪」
小屋内を歩き回る巻島はそうは思わなかったらしく、困惑した表情で壁を叩いた。
「あー、全然ダメだな。電子回路がメチャクチャだ。これじゃあ修理に半年はかかっちまう。」
「ふむ……、やはりか。」
「待ってくれ!未来行きはてんでダメだが、過去行きなら使えそうだ。」
湯船には少量のお湯が残っており、42℃を示したまま湯気が立っていた。
「しかしこの湯の量じゃあ、一人分しか無理だな。」
「え、私一人で古代エジプトに行くの?」
「どうやらそのようじゃのう。タクトのために一肌脱ぐのじゃ。」
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ストナが用意したビーズのドレスと薄い布で織られた赤いヴェールを身に纏い、賢者の石の欠片を首にかけ湯船に浸かる。
「うぅ、緊張する。ストナちゃん、他に覚えている事はない?」
「えーっとじゃな、あの時代は神々が人間と共存しておったから、ユメカにとって不思議に思う事は沢山起こるじゃろうなあ。アヌビスという獣人がおるはずじゃが、やつは静かな性格じゃ。あとは何かあったかのう。アポロンも現れるじゃろうが、やつはチャライから気をつけるのじゃ。それくらいかの。」
巻島が頭を掻き毟りながら口を開く。
「俺からも一つ言わせてくれ、戻る時に使う渦は七日間で消滅する。七日間の内に帰ってくるんだぞ。」
「あ、我からももう一つ。あの時代の賢者の石は万物の法則を乱す恐れもあり非常に危険じゃ。現に何度も襲撃されておったからの。我が見た過去では賢者の石は破壊されておったが、長い年月を遡ると時間の軸がズレる事もある故、その通りになるとは限らん。もし我が石の破壊に至らなかった時は、ユメカが壊すのじゃ。あと、年代と座標はココじゃ。到着したらまずテーベの街のどこかに獣人が集う酒場がある。そこで我にお主の能力を見せるのじゃ。」
ネムリも何か言いたげだった。
「ネムリちゃん?」
「あの、歴史の勉強で習った事なので、史実と現実は違うかもしれませんけど。食べ物とお水には気をつけて下さいね♪」
そう言って巻島の無限チキンのビニール袋を手に取り、ユメカに差し出す。
「ハッハッハッハ!そうだな。当時のエジプトには色んな疫病があったって話だ。食い物と水には要注意だ。じゃ、そろそろだな。嬢ちゃん、その服も似合ってるぜ!」
皆に見送られ、ユメカは浴槽に吸い込まれて行った。
Episode41へ続く




