Episode3 モノクローム
我は死神。
死者を天国と地獄へ導く為事をしておる。
ざっと1,500年程。
じゃが、本来は死神ではないのじゃ。
我は、ストナは。
ス・リーピーン♪ド・リーミーン♪眠るとあなたはもう目覚めない~♪天界冥府の超絶アイドル~♪オ・ト・ナ・の・ス・ト・ナ~♪キラッ☆
どうじゃこの貝殻ビキニ。
笹森タクトよ。
ジャッジメントの趣旨は見いだせたかの。
「だあああああああああ!近い近い!夢か!」
「え?何?呼んだ?もうすぐお魚焼けるから。」
「呼んでない呼んでない!夢、夢を見ていたんだ。超絶アイド……ストナの。」
「水の音で聞こえなーい。なんてー?」
あれから数ヶ月、特に大きな出来事もなく世間は夏休みのシーズンを迎えた。
この生活にも慣れたことだし、天気も良かったので人気の少ない森林へピクニックへ来ている。
だが、ただの息抜きではない。
以前ここの滝壺がテレビで紹介された時、タクトは苦味を感じたのだ。
しかもニュースの内容は水難事故。
滝壺に行けば何かあるのではないかと、嫌がるユメカを連れてやって来た。
決して一人が怖かった訳ではない。
腹も減っては戦は出来ぬと言う格言の下、魚を食べるための準備は万全だ。
釣り竿も何もないが魚は釣れる。
そう、触れずして物を動かす力で。
「お魚焼けたよー。さっき呼んでたよね?何だったの?」
「ああ聞いてくれよ。あの死神が夢に出てきたんだよ。ストナ。ジャッジメントの趣旨は見いだせたかとか何とか。」
「その割には『近い!』とか必死に叫んでなかった?」
「そうなんだ。貝殻がもう目の前に……。」
「貝殻……?」
「……いいんだ、それにしてもこの魚美味いな。何で味つけたんだ?」
「え、塩コショウのみ。」
「へえ。やるなあ、荷物運んだからお腹が空いててさ。」
魚を頬張りながら褒め言葉を並べる。
「キモいから食べながらしゃべらないでよ。」
「とか何とか言って、ちゃんとサンドイッチも用意してくれてるところが抜け目ないというか、気が利くというか。」
フワッと風が吹いた様な気がした。
「おお!この世界の食べ物も美味じゃの。お主らも中々残忍なことをしよる。生きたまま腹を捌いて火にかけるとはな。フフッ。」
「そうだけどさあ。仕方ないだろう。生きるために命をいただきますだろ。って、貝……ビキ……ストナ!」
「貝もあるのかの。どれどれどこじゃ?」
「ひ、久しぶりだね、死神さん。」
「フフッ、初めて面と向かって喋ってくれたの。財満ユメカよ。そう怯えるではない。我は無闇に命を奪ったりせんと言ったじゃろう。」
「どうしてここに現れたんだ。何が目的だ?」
「フフッ、夏休みじゃからの。イレギュラーとは言え、笹森タクトの命を奪ってしまった詫びをしに来たのじゃ。」
どうやら悪意はないようだ。
だが俄には信じ難い。
あれから数ヶ月、タクト達の目の前に現れた事はなかった。
死神にも夏休みはあるのだろうか。
黒髪美少女とブロンド美少女に囲まれるのも悪くない、両手に花というやつだろうか。
「詫びって何だよ。蘇る手段でも教えてくれるのか?」
「戯けが。そんな事知っておったとしても教えられるはずがなかろう。そもそも我の知識にはない術じゃ。」
「じゃあ何で。ジャッジメントの事なの?」
「うむ。お主ら、何か見いだせたのかの?」
「いや何も。でもここの滝壺の映像を見た時に苦味を感じた。」
「ほう。中々繊細な味覚を保有しておるようじゃの。この場所はどこぞの誰かがジャッジメントを執行された場所じゃ。」
「どこぞのって、こんな所でジャッジメントされるのかよ。」
「ジャッジメントに場所など問わん。」
「どういうことなの?」
ストナは唐突に画像を記録できる媒体を求めてきた。
カメラとかデジカメとかそういう類の物を。
記念撮影でもしようと言うのだろうか。
「スマホならあるけど。カメラ機能ついてるよ。」
「フフッ、そうじゃな。では三人で撮ってみるとするか。」
「え、おい、画角……、難しいな。」
「お主の能力を使わんか。まあ我のでも構わんが。」
ユメカのスマホが宙を舞い、怪訝な表情を浮かべるタクトたちとニコニコしたストナのスリーショットが出来上がった。
はずだった。
「ほれ、見てみい。」
「な、なんなのこれー!死神さん裸じゃない!タクトも日焼けしたみたいになってる。」
「え、ちょ、見せてみろよ。」
「バッカじゃないの?女の子の裸見て楽しいの?」
ストナからスマホを奪い取り画面を伏せるユメカ。
「フフッ、我の衣装は仮初じゃからの。本来は存在しておらぬ。笹森タクト、お主、何か粗相をしたな?」
「どういうことだよ。食事だってユメカが作ってくれてるし、コンビニで万引き紛いな事なんてしてないぞ。」
「本当であろうな?よーく思い出してみるといい。」
「タクト、本当に大丈夫なの?ちゃんと考えて思い出してよ。」
「(何かあったか…。散歩しながら色んな人のスカート捲ったことか?ユメカの風呂を覗こうとした事か?人を傷つけるような事は絶対にしていないはずだ。)」
「その両方じゃ。」
「な……んだと……。そ、それが何の関係があるっていうんだ。」
ストナは笑いを堪えるようにして説明を始めた。
廉直な手段を取ると浄化される。邪な手段を取ると汚染される。
見た目では判断できないが、浄化を重ねると光に包まれ天国へ。汚染され続けると漆黒に包まれ地獄へ。蘇りの基準は不明。
簡潔に言うと、良い事をし続ければ天国行き。悪い事をし続ければ地獄行き。
「と言うことは…。滝壺の水難事故って…。」
「如何にも、お主の味覚が感じた通り、殺人じゃの。ただの殺人ではない。憎悪に満ち溢れた物じゃろう。生前の恨みを晴らそうとしたのかのう。無意味な行いを。」
「タクトは?タクトは何で日焼けしてるの?」
「お、おい。それはさ、ほら、たまたまだろ。な、ストナ。」
「フフッ、安心せい。財満ユメカ。笹森タクトの色は許容範囲じゃ。ジャッジメントが悪い方へ近づくと体中から負のオーラが滲み出てくるでの。」
そう言ってストナは右手を差し出した。
見る見るうちにその右手は黒色化し、霧が蜃気楼の様に湧き出てきた。
「こんな塩梅じゃ。」
「じゃあ、タクトは大丈夫なんだね。廉直な手段取りなさいよー!廉直廉直ー!」
「いてっ!何で叩くんだよ。」
「スマホで定期的に色を見ればタクトは地獄行きにならなくていいんだね。」
「うむ。お主ら二人で写らないといけないがの。これは類稀なケースなのじゃ。転機に居合わせた人間と写らないとジャッジメントの進捗はわからんようになっておる。」
「お、ユメカとツーショット。いいじゃんいいじゃん。」
「嫌だけど、仕方ないから写ってあげる。」
「フフッ、仲良きことかな。我はそろそろ戻るぞ、ではまたの。」
相変わらずの神出鬼没だ。
不幸中の幸いとでも言おうか、ジャッジメントの仕組みが分かったことは成果だ。
「廉直な手段か。人助けでもしろってことか?」
「スカート捲りも控えないといけないね!」
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その夜。
「今日は疲れたな……。」
浴槽に湯を張り、肩まで浸かったところで呟いた。
「そう言えば普段来てる服って一般の人から見たらどう見えてるんだ?服だけ浮いてるように見えるのか?だとしたら今日のルートはまずかったな。電車にも乗ったし。」
「ああ、大丈夫じゃよ。半人半霊のお主が身につけてる物はすべて透過されるのじゃ。身につけてる物と言うよりは触れている物、じゃがの。財満ユメカに触れている間も彼女の姿は消えとるということじゃ。」
「あ、ちょっ、と!何してんだよ!普通にシャンプーしてんじゃん!」
「フフッ、夏休みじゃからの。」キラッ☆
Episode4へ続く