Episode38 さらば愛しき者
トニの体に突き刺さる三本の大鎌。
「トニ!!」
「おわっ!空間移動したのか、びっくりした!お主、平気か。」
『……ふっ、平気な様に、見えるか。だが私もまた、レムリア側の存在だ。』
「血迷うなタナトスよ、賢者の石は持つ者の能才を開花させる物。お主が手に入れた所で、レムリアの力は開放されぬ。お主が殺したその三人の力なしでは時間の跳躍を行うことはもう叶わぬのじゃ。」
「そうか!ではその三人を回帰させ、ラウラとナタリアの様に我の下僕と成そう!」
「愚かな……、何の説明も無駄の様じゃな。お主にはもう語る資格はない。」
大鎌を構えるストナに対し、タナトスもトニに突き刺さった大鎌を手元に呼び寄せる。
『……ッ。』
「トニ!トニ!大丈夫か!」
『実おいし。』
「実!そうだ!パズズ!ホーグの実を分けてくれないかな!ミーちゃん!ホーグの実にアレ、やってよ!」
『貸して。分かってるから。』
「ネムリよ、いつまで遊んでおるのじゃ。ちと手を貸してくれんかのう。」
「あらお姉さま、やっと私の出番ですの?」
「ヒュプノスが加勢した所で何が変わろうというのか。この星もろとも消えてしまうが良い!」
空気を断ち切る様な金属音が二重三重に響く。
三本の大鎌を自在に操るタナトスの身体能力は、永久機関とも言える程にその動きを緩める事はない。
「ぬるいのう。二人がかりでその程度か。遅い遅い、あくびが出るわ。」
紫電一閃、タナトスは手に持つ大鎌を更に大きく振りかぶった。
「今じゃ、ネムリ!」
「はい!お姉さま!」
ヒュプノスの能力は対象を眠りに落とすものであるが、直接対象に触れて眠りに落とす事によってその生命を奪う【最後の眠り】とも成り得るのである。
無論、タナトス程の格上の相手には、そこまでの効果は期待してはおらず、眠りに落とす事がストナ達の目的であった。
地面に突き刺さる大鎌に身を委ね、目を閉じるタナトス。
「やりましたわ♪お姉さま!」
「ふぅ、よくやったネムリ。アポロンよ、賢者の石を貸してくれんかの。」
「はーい、こんなの何に使うのさ。」
「この石の能力を持って、タナトスを封印の地へ送る。こやつは粗相をし過ぎたからのう。」
「このまま殺してしまったほうが良いのではありませんか?この方は私たちの敵ですわよ?」
「ネムリよ、これでも我らの姉妹、姉なのじゃ。封印の地に送ればアトランティスの能力の大半は失われる。ホーグの実を食べたとしてもここまでの脅威にはならんじゃろう。生命を奪う必要はあるまい。」
ストナが賢者の石をタナトスへ向け、目を閉じ意識を集中する。
それがぼんやりと青白い光を放った時、賢者の石は地面に落下した。
その石を拾った者は、タナトスであった。
「そうそう、これじゃ。まずはこれを手に入れなくてはのう。」
「うっ、タナトス。お主……。」
「お、お姉さま!血が!」
「あー、よく眠ったのう。三分間も寝てしまったわい。お・は・よ・う。」
ストナに刺さる大鎌を引き抜き、己に滲み出す能力を確認する。
「これが賢者の石、思ったより大した事ないのう。以前にも増して体が軽くなった程度か。」
「くっ、タナトス姉さま……。殺しておけばよかった……。」
「おー、怖い怖い。実の姉を手に掛けようと目論むのは、どこのどいつじゃ・ろ・う!」
一振りでネムリは地に伏せた。
「お前は我と同じアトランティス側の者、殺しはせぬ。後でしっかりと教育してやろう。で、アポロン、主はどうする?」
「タナトスちゃん、さっきも言っただろう?ボクは武器を持ち合わせていない。争い事はゴメンだよ。一個だけお願いしてもいいかな?」
人差し指を顔の前に出し、ウインクをしながら問いかける。
タナトスは面倒くさそうに頷いた。
「あそこで眠ってるラウラとナタリアちゃん、彼女たちはボクの古い友達なんだ。だから、元の姿に戻してあげてくれない?」
「出来ぬ。生憎じゃが、我はその様な能力は持ち合わせてはおらぬ。」
「やっぱりねー。じゃあいいよ、ボクが天界に帰ったら元の姿に戻すから連れて行ってもいいかな?」
「構わんが、我はこの星の崩壊時に、賢者の石の能力で必ずや時間逆行を成功させる。主らの存在はそこまでになるやもしれぬのだぞ?」
「過去に行けたとしても、タナトスちゃんの思い通りに行くとは限らないじゃない?それにストナちゃんは無理だって言ってたし。ボクは残った余生を静かに暮らしただけなのさっ♪」
そう言いながら、アポロンはラミアと化したラウラとナタリアを担ぐ。
「タナトス、お主……、自分を見失っておる。」
「……煩いのう。煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩いのう!」
賢者の石の効果であろうか、模造品ではあるものの、タナトスの能力を引き出し、周囲に爆破火災が起こった。
「もはや次の一撃が我らの最後の勝負となるじゃろう。我も一度は目指したあの勇猛果敢なるタナトス神、未だ消えずにこの心に焼きついておる。」
「よかろう、ならばその最後の一撃を打ち砕くまでじゃ。進化した我の攻撃を受けてみよ!我が全霊の攻撃を!!」
光芒を闇空に旋回させ、タナトスの大鎌の速さが勝った。
「天に滅せい我が妹よ!!」
「ストナちゃん。」
アポロンは親指で、蒼く光る欠片をストナに飛ばし、ストナはそれを捕らえた。
「な、ん、じゃと……。」
ストナの小さな手のひらに込められた蒼石の欠片が燦爛たる輝きを放つ。
「タナトス……、いや姉さま。これが、このちっぽけな欠片が現代に残された本物の賢者の石なのじゃ。封印の地でしばらく眠るがよい。」
東の空から薄い暁光が射し始めると同時に、一筋の光となってタナトスは天空に消えて行った。
『実おいし。』
『貸して、分かってるから。』
朝焼けの眩しさを遮るように額に手を当て、ストナの下へ行くアポロン。
「ストナちゃん!これ食べて!ボクの判断、ナイスだったでしょう?」
ニコニコとあどけない笑顔を向ける。
「アポロン、お主だけ無傷で何をニコニコしておるのじゃ!しかしよく賢者の石の欠片のある場所がわかったのう。そこはないすじゃ!」
「トニが教えてくれたんだ。視力が尋常じゃなくいいからねえ。」
『地上に向かう時、ストナが私から落ちて停止しただろう。その時ナタリアという者が賢者の石の欠片を持っているのを偶然見つけたのだ。エンパシーでストナがそれを探しているのが分かったのでな、それをアポロンに伝えたまでだ。あとの茶番はアポロンが勝手にやった事だ。』
「茶番じゃと?お主、ラウラとナタリアの旧友ではなかったのか。」
「アハハッ、ぜーんぜん知らない人♪それより、ボクのお芝居で欠片を手に入れられてなかったら、ストナちゃんはどうしてたのさ。」
「うーむ、特に策はなかったのう。じゃが、負ける予感はしていなかったのじゃ。」
ぴょんぴょんと跳ねて行った先で、ミーちゃんは振り返った。
『生きてるよ。この人。』
「む、巻島が!生きておるのか!パズズとミーちゃんの出番じゃ!ネムリにも頼むぞよ。」
「あのコ達はどうするの?完全に死んでるよね。」
視線の先の血の海には、タクトとユメカが倒れていた。
Episode39へ続く




