Episode37 Atlantis Versus Lemuria
天界から地上までの滑空は、今まで経験した事のないスリルアクションだった。
いくら死神と言えど、その風圧によって幾度も振り落とされそうになる。
「あーーーーーーーー。」
『遂に落ちたか。』
「ストナちゃん、ちゃんと捕まってないと~♪」
大鎌に跨り、空中で体制を立て直していると、トニとアポロンが戻って来た。
「いくらなんでも速すぎるじゃろう。何かこう、ないのかの。風避けバリヤー!みたいなものは。」
「あるよ、はいコレ。」
トニの羽毛の中からゴーグルと安全ベルトが取り出された。
その作りも簡素な物である。
「ふむ、中々人間らしい装備じゃの。」
「航空技術を持った人間に教えてもらったからね。」
「ほう、これは良い、星空もはっきりと見える。」
『あの辺りだな。タナトスの気配がする。』
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「むむ、ちと遅かったかのう。」
「タナトスちゃん派手にやってるねえ。ボクは矢を持ってきてないから戦闘はゴメンだよ。」
着地と同時にゴーグルを外す。
「タナトス。お前が欲しているのはコレか?」
「何でちょっとカッコつけて呼び捨てにしてるんじゃ。」
研究所の周囲には凄惨な光景が広がっており、生存している者はもはやネムリだけであった。
「お姉さま!ご無事でしたの!みんな、殺されてしまいました……。」
「それは……、賢者の石!なぜアポロンが持っておるのじゃ。それに片割れよ、如何にして封印の地から這い出て来た。」
「ん?どうやってじゃと?こやつらの助けがあったから出て来られたのじゃ。」
アポロンは照れた様に鼻を擦り、笑顔をストナに向ける。
『地上。着いたの?』
『実おいし。』
「ちょーっと待ーってよー。聞いた事ある声がするー。」
「ほほっ、なぜかここに入っておったのう。」
ストナの漆黒のワンピースからコロコロとこぼれ落ちるパズズとミーちゃん。
「アポロン、今すぐその石を我に寄越すのじゃ。さすれば大怪我をしなくて済むぞ。」
「あ、タナトスちゃん。ボクは戦闘要員じゃないからパスね。」
「タナトスよ、お主は賢者の石の能力を履き違えておる。この石があったところで、過去に戻ったりする事は出来ぬのじゃ。」
「そんな欺瞞に満ちた話、誰が信用するものか。我はこの星を崩壊させ、その結晶の力で超古代へ行く。そのためには主の時間逆行の能力と賢者の石が必要なのじゃ。」
ストナの大鎌が空中で大きく躍動し、霧を放った。
「ネムリよ。そこにおるラミア達を眠らせるのじゃ。ラミアの動きは速くて危険じゃ。我らは問題ないが、パズズとミーちゃんが食べられてしまう。」
「えっ、あ、はい!」
ネムリは能力を取り戻し、その快感に溺れる。
「アハハハハッ!久しぶりに能力を使う時が来ましたわね!よくもタクトさんを……。本来なら殺す所ですが、今はお眠りなさい!」
ラウラとナタリアは崩れ落ち、深い眠りに就いた。
「それで、タナトスよ。なぜこの地球の再構築を執拗に試みようとする。例外も些かあるじゃろうが、我らは死を司る神、星の寿命となればそれまでじゃろう。」
空中に浮かぶ三本の大鎌はストナの方へ向き直った。
「ロキは、この星を一度救っておる。自らの生命と引き換えにな。じゃがそれもまた、愚かな人間の争いで無駄になろうとしておる。人間のいない世界を再構築する事でロキも還り、この星も悠久に存在出来る様になるのじゃ。」
「レムリア人は……、見つかっておらぬのか?」
「再構築の能力を持つレムリアの子孫を探し1,500年程経ったじゃろう。再構築どころか五次元移動を可能とする者など一人もいなかった。もはや我が動かねばならぬのじゃ。」
『やってみれば。時間移動。』
「なんじゃと?一角獣。」
「ミーちゃんの言うとおりじゃ。やってみるがいい。」
「どういうことじゃ。我は主の記憶からその術を会得しているのじゃぞ。出来ぬわけがなかろう。」
『やってみて。見てみたいな。』
「ふっ、とくとその目に刻んでおくのじゃ。次に我が目を開けた時には、主らの存在は消えている。後悔する事になるぞ。」
三本の大鎌の内一本を掴み、地面に立てる。
静かに目を瞑り、呼吸を整えるタナトス。
…。
……。
………。
「なぜじゃ。なぜ!何も起こらぬではないか!」
「だってそれ、我が脳内で過去を再構築してるからのう……。不完全じゃから失敗もするし、遡れても一週間が関の山じゃ。タナトスの脳みそじゃ無理じゃろうなって思っておったのじゃ。」
「なんじゃと、再構築!?どういうことじゃ!?」
ストナは血に塗れたタクトとユメカに目をやり、歓喜の声を上げ空を飛び回るネムリを放置して説明を始めた。
タナトスとストナは双子ではあったが、血統に大きな違いがあった。
タナトスはアトランティスの血を濃く受け継ぎ、ストナはレムリアの血を濃く受け継いだ。
そんな二人は、幼少の頃から意見が食い違い、それぞれが別の場所で生活を送り、数千年もの間顔を合わせる事はなかった。
タナトスはネムリと同様に戦闘を好み、ジャッジメントと称して人間の死後に訪れる結晶化までの期間、レムリア人としての本質を見定めていた。
また、この事を把握しているのは、タナトスとストナを含めた一部の神々だけであり、スペクターや他の死神が回帰させた事は記憶を介しタナトスの心理へ通ずる。
一方のストナはレムリア人同様、戦闘は好まず謙遜する性格で、これまでのジャッジメントとは違う方法を編み出すべく、レムリアの真相究明に明け暮れる日々が続いた。
そこで辿り着いたのが、四つの生命を与え、結晶化までの期間を長引かせつつ、レムリア人の本質を見定める事が可能な転機である。
「へえ、じゃあすごい久しぶりの再会なんだねえ。ストナちゃんが転機を編み出したなんて。驚いちゃったよー。」
「それでは、主はこの星を再構築する術を持ち合わせていると言うのか。」
「いーや、今の我では到底不可能じゃ。100年あっても無理かもしれんのう。」
「それでは意味がないのじゃ。主の語る事は全て世迷い言。こうなれば全人類を滅ぼし、この星を結晶化に導くまで!」
三本の大鎌が電光石火でストナを目掛けて繰り出された。
その刹那、くぐもった鈍い音が鳴った。
Episode38へ続く




