Episode34 木の実
アポロンの庭園は封印の地、アルカディアの近くにある。
近いと言っても実際の距離は数千キロはあり、トニの空間移動能力で近く感じるだけである。
庭園には種々の動物がおり、アポロンが呼び出したのは黄金の卵を産み落とすパズズという鶏だ。
「パズズ、一つ頼み事があるんだ。」
『なにさ。』
「賢者の石って、あるだろ?それの模造品でいいんだ。産んでくれないかな?」
『無理だよ。』
「どうして?300年くらい前にもボクが壊した懐中時計を産んでくれたじゃない。もう産めるだろ?」
『無理さ。』
「なんでだよー。」
『まだある。』
「どういう事?」
『産めない。』
『アポロン、パズズが産み出せるのは過去に存在した物だけだ。賢者の石はまだ存在しているという事だろう。』
「なんじゃと。アレは遥か昔に我が割ってしまったはずなんじゃが。」
頭を右へ左へと振り、考えるストナ。
「うーん、思い出してよ妹ちゃん。これじゃあボクはチカラになれないな。」
「はて、砕いたのはただの石ころだったのか。はてはて、どこへやってしまったかのう。」
『昔から物忘れが激しいヤツだな。』
「久しぶりに妹ちゃんに会えたことだし、とりあえず食事にしないかい?封印の地の収穫物、食べてみる?」
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ストナがタナトスと入れ替わり、封印の地に幽閉されてからの数ヶ月、能力もろくに使えず命の危機と隣り合わせの生活が続いた。
陸上には霊獣が犇めいており、今のストナにはそれを倒す術はない。
ここには規模の大きな塩湖や淡湖があり、巨大な水生生物ばかりだが、中には小さな生物もいた。
湖近くの洞窟に拠点を構え、水面にやってきた魚をかろうじて残った能力で陸上へ引き上げ、それを食べる生活を続けていた。
人間の生活で調味の知識を得たストナは、塩湖の水を蒸発させ塩を作った。
また、そこら中に自生している巨大な豆や、小麦の様なものを混ぜ合わせ加熱、塩水と合わせ醤油の様なものも作った。
更には、大木の樹液から甘味が強いものを採取し、火にかけることにより砂糖をも手に入れた。
「生きる事においては不自由はないのう。そろそろ話し相手が欲しいところじゃが。」
焼いた魚の匂いに釣られてやってきた一角獣がいた。
見た目は猫の額に角が生えた程度の生き物で、気性が荒く、ストナと魚を取り合う犬猿の仲であった。
「お主、また今日もやってきたのか。一匹だけ分けてやろうかの。フフッ。」
フーッと息を吐き、威嚇していた一角獣も、次第にストナに溶け込んでいった。
「お主も、一人なのか?」
『一人だよ。うん。』
「言葉が話せるのか。」
『意思の疎通って感じかな、元々アトランティス系レムリア人だからね。僕は。』
「アトランティス……、そうじゃったか。ここは彼の地、理想郷であったか。耳にした事はあったがのう。」
魚を食べながら一角獣は淡々と喋りだした。
『出たいの?ここから。』
「うむ。色々試してはみたのじゃがのう。ここに閉じ込められた時に能力も封じられてしまったみたいじゃ。」
『アトランティスの血が流れている者は能力が上手く使えないようになってるんだよ。ここは。』
「やはりか、どうしたものか。」
『食べるといいよ。あそこにある木の実。取りに行ければの話だけどね。』
一角獣の視線の先にはびこる霊獣たち。
その更に上に浮かぶ陸地には三本の巨大樹が立っており、七色とも呼べるカラフルな木の実が数珠のように生っていた。
『復活するよ。能力。あそこの霊獣たちも木の実を食べてチカラを取り戻してるんだ。』
「霊獣が能力を取り戻したところで、自力でここからは出られまい。はぁ、我に能力が戻っておればのう。」
『取ってこようか。僕が。』
「なんじゃと!お主、空も飛べるのか。」
『飛んでるよ。いつもね。』
ヒョイヒョイと機敏な跳躍を見せ、一角獣は空を駆けた。
飛ぶというよりは跳ぶ、といった所だろうか。
数珠の様に丸く身をつけた一房をもぎ取り、一角獣はストナの元へ降りて来た。
『出られるの?実、食べたら。』
「ここがどこに位置するのか把握せねばならぬが、ここから出るのは造作も無い事じゃ。」
『行ってみたいな。外に。』
「よかろう。では一緒に行くとしようかの。フフッ。」
『行けないの、今は。準備をしておくから、ここを出たらまたいつか迎えに来てよ。』
木の実は人間の食べ物で言う所のライチの味に似ており、甘みが強く芳醇であった。
「あいわかった。しかしこれは美味じゃ!何という食べ物じゃ!」
『ホーグの実。』
「おおおお、能力が漲ってきおった!」
『また会おうね。じゃあね。』
「うむ。程なくして迎えに来るからの、達者でな。」
それから、一角獣は魚を取りには来なかった。
たまに岩陰からぴょこっと顔を出し、ストナの存在を確認すると安心した様に去っていった。
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細長く刻まれた石を糸の様に細い蔦で吊るし、それをクルクルと回転させる。
洞窟の砂地には木の枝で描かれた壮大な地図が展開していた。
「さてさて、ここが封印の地だとすると、こちらがコレでそちらがソレで、あちらがアレか。ふむ、じゃあそろそろ行くとするかの。」
一角獣が岩陰から顔を出していた。
「世話になったな一角獣よ。我の名はストナじゃ。お主にも名を与えておこう。そうじゃな、我の好きなアニメに出てくる猫の名前から拝借して、ミーちゃんじゃ。お主は今日からミーちゃんじゃ。」
『ミーちゃん。気に入った、ありがとう。』
その時、轟音と共に二筋の突風が吹いた。
ミーちゃんは吹き飛ばされ、上空数百メートルの位置まで飛んでいった。
「おわっ。ミーーーちゃん大丈夫かのーーー。」
『すごい風だったね。全然平気だよ。』
「危うく吹き飛ばされてしまうところじゃっ」
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「それで気づいたらベヒーモスの腹の中じゃ。ミーちゃんがこの木の実を教えてくれてなければ、バリヤーも使えず今頃骨になっておったのう。フフッ。」
「じゃあボクは命の恩人ってワケだね。ス・ト・ナちゃん♪」
『肝心な矢を忘れていたがな。』
『実おいし。』
しばしの談笑の後、ふと我に返ったようにストナが切り出した。
「さて、どうするかのう賢者の石……。」
『鏡見たら。』
アポロンが左手を受け皿にし、右手の拳でポンと叩く。
何か閃いたように見えたのだが、その直後に目を閉じて首を振った。
「過去を映す鏡があるんだけどね、割れちゃってて今はもう何も映せないんだ。」
「ふむ、我が時を数千年遡る事ができればいいのじゃがの。一週間くらいしか戻れぬし、意味がないのう。」
「しばらく見ないうちにそんな事出来るようになったんだ。やるじゃん♪」
『なあ、過去を映す鏡をパズズに産んでもらったらどうなのだ?』
Episode35へ続く




