Episode29 Past Age
「では我は今日も出かけるぞ。またの。」
「ストナはあのパーカーお気に入りだな。制服か何かか?」
「ネコミミフードがステキですからね♪似合ってますし♪」
「そう言えば最近ストナちゃん、お肉食べなくなったね。」
「キウイばっかりだなそう言えば。まさかダイエットとかしてるんじゃないだろうな。」
「修行中ですし、色々精進しているのかもしれませんわね♪」
━━━━━
三日前にタイムリープ体験をしたが、イマイチ実感がわかない。
元の世界に戻る際の、あの強烈な船酔い体験だけはもう勘弁してほしい。
タクトはそう思いながら巻島の家に向かった。
「やっと来たか。遅かったな。」
「みんな夏休みかも知れませんけど、僕は学校がありますからね。サークルだってあるんです。」
「ハハッ!一年間休んだ分頑張ってんだな。すまねえすまねえ。」
「はい。今年で不足分の単位さえ取れれば進級には響きませんからね。」
ユメカとネムリは巻島の研究所内のソファに腰掛け、研究員と談笑をしている。
巻島と共にタイムマシンの研究に携わった四名は、全員が絵に描いたようなボサボサ頭に白衣で、無精髭を生やしホットココアを飲んでいる。
「ココアはね、脳を活性化させて記憶力が向上するんだよ。学生にはうってつけの飲み物だと思うよ。」
「私はココア好きですよー。あまり飲む機会がないんですけどね。」
「ユメカさんはブラックコーヒーのイメージですわね♪」
「そうだなあ。コーヒーに含まれるカフェインも同様、健康にもいいって話だね。摂り過ぎは禁物だけど。」
「あ、タクト来たみたいだよ。行こっかネムリちゃん。」
━━━━
ストナ以外の全員が研究所の入り口付近に揃ったと同時に、巻島は遥か向こうの原っぱを指差した。
「あの辺りな。」
「えっ?」
「あそこに三日前の俺らがいるはずだ。」
ふむふむと、解ったような解らないような、腑に落ちない反応を示す三人。
「じゃ、小屋に行こうぜ。」
梅雨も明け真夏日が続いている。
突然雷が轟き、ゲリラ豪雨が降る。
その生ぬるい感じの雨は、もはやスコールと言ってもいいくらいだ。
温暖化現象の影響なのだろうか、ここ数年の夏はこんな天気が続いている。
研究所から数メートル隣の小屋へ移動するだけでもずぶ濡れになってしまう程の。
「濡れてしまいました~♪」
「ネムリちゃん髪の毛クルクルしてかわいいねー。」
「大きい嬢ちゃんは天然パーマなのか。その髪型も似合ってるじゃねえか。ハハッ。」
「ウフフッ!そうですか?」
「巻島さん、この浴槽に入るということは、服はどうするんですか?」
「脱いで入りたいか?そのままの姿でワープすることになるけどなっ。」
湯気の出る浴槽内に手を入れると、熱くもなく微温くもない湯加減が心地よい。
特に穴が空いている訳でもなく、どこからどうワープするというのか。
まさか排水口?人間が入り込める隙間は到底見当たらないが。
「どうだ?風呂の温度は42℃!そんなこともわからんのか!って名言があるからな。ひとっ風呂浴びるか?」
「いいですわね♪脱衣所はどちらに?」
「こ、混浴……。」
「あんた達、ここに何しに来たの。」
「小さい嬢ちゃんが来てくれたら盛り上がる話が出来たんだがなあ。これは特殊な液体で出来てるんだ。」
雰囲気を醸し出すためだろうか、入浴するわけでもないのに風呂桶が用意されている。
巻島はつと桶に湯を汲み、それを頭から被った。
「ちょ、ちょっと。何してるの。」
「どうだ?濡れちゃいないだろ?」
「これって、テレビで見たことある。濡れない水とかいうやつですか?」
「ちと違うんだなこれが。濡れない湯、名付けてゼスト・ネロ・エーテルだ!」
「ゼスト?」「ネロ?」「えーてる????」
『笹森タクトさんと巻島シュンジさんの能力、ひいては水を操る能力、名付けてマニュピレイトウォーターを用いた技術です。』
『揮発性と撥水性に優れた液体を精製してさらに温めたんだよー。無限に湧き出るよー。無限ってのは言いすぎたかなー。』
「簡単に説明するとそういうことだ。だから服のままでも構わんぜ。」
「ちょっとネムリちゃん!話聞いてた?脱がなくていいんだってば!男子あっち向いて!」
なぜかユメカに蹴り飛ばされたタクトは、不服そうな表情を浮かべ再び湯を掬う。
「ヘイカモンカモン!行くぜレッツゴー!」
ハイテンションな巻島は湯に飛び込んだ。
それに続くように三人も片足からそろりそろりと湯に入る。
「あーあったかーい。」
「いい湯加減ですわね~♪」
「うう、混浴と言えば混浴か?何か不思議な気分だ。」
本来ならば追い焚きを設定するはずのパネルの場所に、未来行きの車と同じ様なタッチパネルが設置されている。
「じゃ、行き先は1,990・09・03っと。時間帯は18時、いや、17時半にしとくか。座標は……。」
「それって、その脳細胞がトップギアの石を持ってきた人が現れる時間帯ですの?」
「ああ、そうだ。人かエイリアンか知らねえけどな。ハハッ!」
「その、ぶ、武装とかしなくていいんですか?もしエイリアンだったら。」
「そんなのいるわけないじゃない。」
「死神がいるんだぞ。いてもおかしくないだろ。」
そう言い視線をふと横に向けると、湯船で火照るユメカと目が合う。
「やばかったら即引き返す。それに当時の記憶でもそんな自体にならなかったから大丈夫だろう。じゃ、行くぜ!」
「ちょ、まっ……。」「やっぱり恐いむ……」「ウフフー♪」
排水口どころではなく、浴槽の湯がまるごと地中に吸い込まれる形で三人は消えて行った。
その勢いは凄まじく、吸引力の変わらないただ一つの掃除機の様である。
━━━━━
「って、っててて。」「りむり痛ーーーーい!」「わ~♪」
再び尻もちを付くような形で、田畑の隅に着地した。
Episode30へ続く




