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Episode25 紋章の間

「ちょーっと待ってくれる?」

「何だよユメカ、そんな顔して。」

「スタローバヤしようではないか。」

「またお酒飲もうとか思ってるんじゃないでしょうね。」


目を細め、ストナと巻島の方を見据え躍起になる。


「飲まない飲まない!」「飲むわけなかろうに。」

「ユメカさん、お腹は空いていないんですか?」

「空いてなくはないけど……。」

「じゃあちらっと覗いてみないか?折角来たことだし。」


スタローバヤのシステムは日本にもよくあるものだ。

自分の食べたいものを注文したり、置いてある物をトレーに乗せ、レジで会計をする。

チェーン展開している店も少なくない。


「よ、読めない……。」

「嬢ちゃん。ロシア語はお手の物だろ?」

「うーん、筆記体のメニューばかりだね。私も自信ないかも。」

「これに乗せていけばいいのじゃな。ぽいぽいぽいぽいぽいっと。」

「お姉さま、乗せすぎではないですか♪」


トレーいっぱいに品物を乗せても、一人を除いては400ルーブル(800円程)なので、ボリューム感は満載だ。

梃子摺てこずりながらも一同は会計を済ませ、席に着く。

五人まとめて着席することが出来なかったので、ユメカ、タクト、巻島が窓側の席に、ストナとネムリはその後ろの小さなBOX席へと座った。


「お姉さま♪そのシュニッツェルというのを少し分けてください♪とってもおいしそう♪」

「よかろう。ではネムリのそのサラダを少しもらおうかの。」


そんなやり取りをするネムリ達の後ろでタクトが困った様に呟いた。


「あの店員さん、どんな勢いで盛り付けたんだ。こんなに食べられないよ僕。」

「だらしねえなあタクト。出てきたもんは全部食えよっ。」

「たしかにすごい量だねー。太っちゃうなこれはー。」

「嬢ちゃんたちは痩せすぎだぜ。うまいもんはうまい内にいただかないとな。科学の世界においてはだな、太るっていう事は……」


そこから巻島のうんちく話が始まり、科学について脳みそがパンクする程聞かされた。


「のうユメカよ。話があるのじゃが。ちとこちらへ。」

「なあに?どうしたの?」

「実はじゃな。……。……。」

「えー!だめでしょ!だめだよ絶対。」

「どうしたってんだ?嬢ちゃん達。」

「ストナちゃんがウォッカ飲んでみたいって。」

「ハッハー。ウォッカか。やめといたほうがいいんじゃねえかな。やるってんなら付き合うぜ?」

「こらー!巻島さんも結局飲みたいだけなんじゃない!」


そんなやり取りをしていると、長身でグレーの瞳の女性がこちらへやってきて、ショットグラスを数個差し出して来た。

「Давайте выпьем!」(さあ、飲みましょう!)

「おっ、いいのかい?いいだろ?嬢ちゃん!折角のロシアだ。本場の酒を味わおうぜ!」

「無理無理!アルコール自体匂いが無理!」

「ええっ、何で僕まで。」「フフッ、良いではないか良いではないか。」


「「За здоровье!!」」(健康に乾杯!!)


━━━━━


結局、ロシア人のウエイトレスや、周囲の一般客を巻き込んでの酒盛りへと発展してしまった。


「……人間の燃料はウォッカ、飲めない奴は……ロシア人じゃないって?僕たちは日本人だぞ。」

「水飲めよ水。だらしねえなあ。」

「sdじょあいlghんふぃあおsぢじゃぺー。」

「お姉さま。ぺーじゃありませんわよ。しっかりしてください。」

「初めて飲むお酒がウォッカだなんて。しかもこんな飲み方、ショック。」

「飲むったって嬢ちゃんは舐める程度だったじゃねえか。今日は無礼講ってやつさ。」


宿泊するホテルには温泉施設があったのだが、全員ウォッカの洗礼にやられ、ベッドに吸い込まれるように眠りについた。


━━━━


翌日、エルミタージュ美術館前


「異国の地の朝風呂は格別だねえ。」

「そうですね。まさか外国で温泉に入れるなんて思ってもいませんでした。」

「覗き見とかしてないでしょうね。」

「バカなこと言うなよ。今は能力が使えないし、廉直一筋だ。」

「フフッ、ではタクトと巻島のジャッジメント進捗確認も兼ねて記念撮影でもしようかの。」

「ああ、そんなのもあったな。忘れてたぜ。」


ストナが構えるスマホの画面に、白い息が写ってしまう程の寒さだったが、皆いい笑顔をしている。

「お姉さま、今度は私が撮って差し上げますわ♪」

「うむ。」


スマホを受け取ったネムリが首を傾げた。


「あら?タクトさんも巻島さんも、普通ですわね。」

「およ。おかしいのう。」

「人間の時は反映されないとかじゃなくて?」

「いや、そんなはずはないのじゃが。まあ良しとするか。」

「いいんかい。」

「ま、いいだろ。特別な行動は取ってないし。」


入り口でスーツケース等の大きな荷物や着ているコート類はクロークへ預ける。


「エルミタージュ美術館はね、宮殿として実際にエカチェリーナ二世やツァーリ皇帝が居住区にしていたの。それでね、ここの宮殿は五つに分かれていてね、冬宮殿、新旧エルミタージュ、小エルミタージュ、劇場エルミタージュがあるんだよ。」

「ツアーコンダクターみたいだなユメカ。」

「イキイキしてますわねユメカさん♪」

「ふむ。それで巻島よ。何か例のメッセージの様なものはあったのかの?」

「いや、全くなし。どうしたものかな。でもここで間違いないぜ。この装飾階段、見覚えがある。」

「うーん。全部見て回ったら半日はかかっちゃうから、この冬宮殿の紋章の間に行ってみましょう。その後にアレクサンドルの間に行けばいいんじゃない?」


バロック建築の極地、大使の階段を上り、パヴィリオンの間、聖ゲオルギーの間、ピョートル大帝の間を経て、たどり着いたのが紋章の間である。


「ここだここだ。このシャンデリアの空間、見覚えがあるぜ。」


半人半霊ハーフと……が共存とは。なるほ…、転機フェイト回帰リグレス。……どう思う?』


「ん?何か言ったか?」


『はい。主の仰る……ます。私たち……以てしても、この星の……絶える事はないでしょう。』


「おい、誰か俺に話しかけてるか?」


『いっそ……、あの人の企て通り……終わりに…かもしれないね。』


「どうしたんです?巻島さん。」


『ふむ。しかしその前に、……深層心理に眠る……を頂戴せね……。』


Episode26へ続く

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