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Episode21 肉

「おっ、お揃いだな。」

「お待たせ致しました♪」


どこへ行こうと言うのか、スーツケースを抱えたタクトが息を切らす。


「ほらしっかり!先は長いよー!」

「フフッ、学校が始まるまでに事が済むとは思えんがの。」

「こんなに荷物詰め込んでどうするんだよ。巻島さんを見てみろよ。」

「着替えだけあれば何とかなるって言ったじゃんか。」


エントランスホールに溶々と流れる滝に虹がかかる。

草木が生い茂る三月の眩しい太陽が彼らを照らしていた。


「しばらく人間やってないと、こうも疲れるものなんですね。」

「そうかあ?俺は何も変わっちゃいないけどな。」

「普段からフラフラ飛んでるからじゃないのー?」

「それよりも巻島さん、目的地の検討は付きましたの?」

「そうじゃな。行く宛もないと本当にただの小旅行になってしまうぞ。」

「北だろ?まず空港行って、北海道へ行こうぜ。」


━━━━━


空港に着くなりピンクのネコミミフードを被ったストナがそわそわし始めた。

様々な飲食店が両脇に並んでいる。


「ユメカよ!カフェ!ダイニング!カフェ!ダイニング!」

「どうしたのストナちゃん。」

「いい香りですわね♪」

「まだ時間もあるし、腹ごしらえといくかあ。」

「あ、それならあっちのお店がいいかも。」


タコスミートライス、ホットコーヒー、サラダ、皆揃って看板メニューを頼む。

一人を除いて。


「黒毛和牛100%じゃ!焼き魚定食!カフェラテ!」

「おいおいストナ、何だよその組み合わせ。ちゃんと完食できるのか?」

「フフッ、もちろんじゃよ。」

「このお嬢ちゃんの職業はあれか?異世界フードファイターか何かか?」

「我の胃袋は宇宙じゃ。」

「ま、ここは俺が出しとくから、好きなだけ食べな。」

「やりおるな巻島よ!では遠慮なく。」


人間として生きる事の喜びを感じるなんて、普段の日常生活ではそうそう訪れない。

タクトも巻島もこの一食がとても貴重に感じていた。


機内は春休みの時期という事もあり、家族連れの姿も多かった。


「A~Eの7番っと。7番?ユメカもしかして。」

「エグゼクティブクラスだよ。ビジネスクラスって言うのかな。ゆったり出来た方がいいでしょ?」

「初めて乗りますわねお姉さま♪」

「うむ。ジュースも飲み放題のようじゃ。」

「かーっ、ひっさびさに乗ったぜ。こりゃいい。」

「ビジネスクラスなんて初めてだよ……。」

「搭乗前のラウンジとか、さっきのランチのお店もエグゼクティブクラスだから入れたんだよー。」


ストックルームから飲み物を取り出す。


「おっ、酒飲むか?タクト。マコン・ヴィラージュ、白ワインか。」

「いえ、僕は結構です。未成年なので。一人ワイン好きがいますけど。」

「ん?嬢ちゃんたちが飲むのか?てか飲めるのか?」

「私とユメカさんは紅茶にしておきますわ♪お姉さまは?」

「どれどれ、では一杯だけ付き合うとしようかの。」

「そんじゃ、二時間ばかりの旅だが乾杯しますか。」


━━━━━


「誰が一杯だけだよ。ストナ!ストナ!着いたぞ!」

「はっはー!やりすぎちまったかなあ。」

「はsd,あlpsd,あ@pさjだjさじょえwjぺー!」

「お姉さま!ペー!じゃありませんわよ!」

「こうなるとは思ってたけどね。タクト、担いで。」

「ああ、こうなるとは思ってた。」


北国の浅春せんしゅんは春といい難いものがある。

肌にピリッと刺さるような寒さを感じた瞬間、ストナは目覚めた。


「おや、もう着いたんじゃな、早かったのう。」

「起きたか小さい嬢ちゃん。」

「お姉さま、お水ですわよ♪」

「ところで巻島さん、あれから何か行き先が分かる様な事はあったんですか?」

「そうだよねー、ここまで来たはいいけど次はどうしようか。」

「声という感じじゃあないんだけどな、映像っていうのかな。」

「映像、ですか?例えばどんな?」

「白と緑の壁の……、城か?入り口を入ってすぐに左右に伸びる階段があって、レッドカーペットが敷いてある。大理石のモザイクタイル、シャンデリア。紋章の間、見たことある人物の絵だ。アレクサンドル1世。」

「それって……。」

「ユメカさん何か心当たりが?」


ユメカの唖然とする姿から周囲に緊張が広まる。


「エルミタージュ……美術館?」

「な、なんだって!?サンクトペテルブルクの?」

「そうじゃない?白と緑の壁の城、レッドカーペットに大理石のタイル、アレクサンドル1世はナポレオンとの戦勝記念に飾られた肖像画のはずだよ。ま、お城じゃないんだけど、18世紀にピョートル大帝の」


何かを悟った巻島たちはユメカの博識学を遮った


「ロシアか。」

「ロシアじゃの。」

「ロシアですわね♪」

「ボルシチ」

「ピロシキ♪」

「肉!」


「ちょっと、そこの三人!食べ物しか出てきてないじゃないか!」

「とりあえず行ってみる?あ、でも、パスポートあるの?私はあるけど。」

「俺もあるぜ。」

「僕はないです。」「我もなしじゃ。」「私もありませんわ♪」

「どうしよっか。」


どうにもこうにもならない状況下だが、巻島とストナ、ネムリの三人はロシアの事で頭がいっぱいになっていた。


「ストナなら何とかできるんじゃないのか?」

「型破りな嬢ちゃんだからな。」

「どうなんです?お姉さま♪」

「フフッ、仕組みが良くわからぬが、パスポートがあれば良いのじゃな。」

「おい、何をしようっていうんだ?偽造は犯罪だからな!」


その緑色の瞳には肉しか映し出されていなかった。

食料への強い欲望がストナを奮い立たせていた。


Episode22へ続く

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