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Episode20 北へ

「っとまあ、そういう訳なんだが。」

「それって誰からのメッセージかは分からないんですか?」

「ふむ。得も知れぬ輩からの声とな。しかも脳内に直接。更に言うとなぜマキシマの所に……。」


ユメカの住むマンションの一階エントランスのソファにストナは座っていた。

はたから見ると女の子が一人佇んでいるだけである。


「ストナちゃん、こんな所で何してるの?」

「あらあらお姉さま。部活をサボって日向ぼっこですか?」


短い春休みではあるが部活動はある。

部活帰りのユメカとネムリに遭遇した。


「おかえり、ユメカとネムリちゃん。ちょっとややこしい話になっててね。」

「そうじゃのう。これはちと不可解じゃ。ユメカたちにもキチンと話をした方がよさそうじゃのう。……そうじゃ!」


突如周りに黒い霧が立ち込めた。

この感じは以前にも……。


「わ!何!びっくりした!誰?」「な、なんですの!?」


霧が晴れると同時に、エントランスの椅子に腰掛ける壮年の男の姿があった。

そして空中から落下するタクト。


「痛っ!あれ?飛べなくなったぞ?ストナ何をしたんだよ。」

「フフッ、お主らを人間にしてやったぞ。期間限定じゃがの。ジャッジメントは継続中じゃ。迂闊なことをすると死ぬから気をつけるのじゃ。」

「僕、生き返ったのか?実家に帰って親に生きてることだけでも伝えたいんだけど。」

「タクト、喜ぶのはいいけど、行方不明扱いなんでしょ?いきなり帰って騒ぎになっても困るし、電話だけにしておけば?」


納得したタクトは差し出されたスマホを持って番号をタッチする。


「ところでお姉さま、そちらの殿方はどなたですの?」

「ああ、こやつはマキシマと言っての。タクトと似た境遇で……、かくかくしかじか。」

「ええっ!あの時の被害者だったの?タクトの辞書で!?」

「あらまあ、それはとんだとばっちりを受けてしまいましたわね♪」

「ははっ、別に気にしちゃあいねえよ。こうして話しをするのは初めてだな二人とも。マキシマだ。よろしく。」


人差し指と中指を揃えて、昔のトレンディードラマのようなポーズを決めるマキシマ。


「おっと、俺のチキンもここでお別れか。」

「フフッ、そうじゃの。しばしの間は人間として過ごす事になるからのう、能力はナシじゃ。」

「電話してきたよ。ものすごい驚いてた。そのうち帰るから心配しないでとは言ったけど、どうかな。」

「安心はしたんじゃない?」

「それで、お姉さま達は何をお話されていたんですの?」


マキシマの自己紹介が始まった。


「生前は都内の大学の研究施設で研究者として勤務していた。ある物質を発見した事をきっかけに独立したんだ。ここから少し離れた山奥に研究所があったんだが……、研究開発も大詰めって所で爆発事故があってな。今はボロボロの廃墟みたいになっちまったが、残った研究員で今も開発を続けている。こう見えても俺、博士なんだよねー。」


陽気な感じに口笛を吹く真似をしているが、周囲に気を使っているのか音は鳴っていない。


「随分派手じゃがの。」

「ところで、何の研究をされていたんですか?」

「気になるところですわね♪」

「気になるー?美女に囲まれてるから教えちゃう。タイムマシンって知ってる?机の引き出しとかにあるやつ。」

「タ、タイムマシンですか。そんな非現実的な。アニメじゃあるまいし。」

「マシンと言ってもあそこまで大々的な機械じゃないぞ。タイムリープ装置とでも言おうかな。時間を巻き戻したり進めたりする事が目的の装置だ。」

「未来なんとか研究所ですか……。」

「お、よく知ってるな!まああんな感じだ。バナナも電子レンジも使わないけどな。」

「それはそうと、今度こそ。それで、お姉さまたちは何のお話をされていたんですの?」


さっきまでのおちゃらけた雰囲気を払拭するように、腕組みを解き語り出す。

先日起こった出来事を分かりやすく順序立てて話す様は、さすが博士と言った所か。


「うーん、女性の声で、ですか。」

「まだ会った事ないって言ってたんでしょー?誰だろう。」

「仲間を集めて北に向かう。随分と大雑把ですわね♪」

「皆目検討もつかんのう。」

「とりあえず北に向かってればまた声が聞こえると思うんだが。」


奇異な運命に慣れたのか、元々物怖じしない性格なのか、唯一の人間であるユメカは何の迷いもなく決断した。


「じゃあ、明日出発ね。旅行のつもりでとりあえず北へ向かいましょう。」

「ほう。北は食べ物が美味なのかのう。」

「幸いにも春休みですからね♪部活動はお休みをいただきましょう。」

「ストナはサボってるし、ユメカも泳げないから休める口実ができてよかったな。」


久々にユメカのパンチがめり込む。

人間になっているせいか、一際痛みが激しく感じる。


「話が早くて助かるぜ。じゃあ明朝、ここで。着替えだけ持って行きゃあ何とかなるかな。」


みんなが振り返った時には既にマキシマは自動ドアの方を向き手を振っていた。


━━━━━


久々にインターホンを鳴らす。

ドアを開ける。

生身の体で物に触れる感触、物を動かす感触。


「ただいま帰りましたよっと。」

「……シュンジ!シュンジ!」

「ははっ、生き返ってきた。期間限定だけどな。スイーツかよってな。」

「おかえりなさい……!」

「今日の晩御飯は何かな。」


ポンポンと妻の頭を撫で、それに対し照れくさそうに立ち尽くす夫婦の姿がそこにはあった。


Episode21へ続く

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