Episode19 心の声
明晰夢というのをご存知だろうか。
夢の中で、これは夢であると自覚している状態の事だ。
現代医学において、明晰夢を見る方法は解明されつつある。
レム睡眠(浅い眠り)とノンレム睡眠(深い眠り)、これらを意図的に操作することによって脳が明晰夢を見る可能性を上げるのだ。
最も夢を見るとされる睡眠導入から五時間後のレム睡眠、そこで一度強制的に目を覚まさせる。
そしてすぐに入眠を試みる。
この時に見たい夢を意識しながら眠りに就くと明晰夢を見る確率が飛躍的に上がるというのだ。
明晰夢を見る事ができる人というのは、時に夢の内容をコントロール出来るという。
或いは、誰かに夢をコントロールされているのかもしれない。
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目を覚ますと一本の大木に凭れ掛かるように座っていた。
神々しい光に包まれた聖女の様な雰囲気の女が目の前にいる。
その横には小柄な少女、妹と思われるその少女と何やら会話をしているようだ。
「ほう。そうであったか。」
「この戦……、私の力でどうにかなるものでしょうか。」
「お姉ちゃん、ここどこの国?」
平地から見える緩やかな丘陵、顎髭を蓄えた指揮官。
「特に作戦はない。先の情報によると相手の数はたったの三千。こちらは二万。そう構えなくてもよかろう。」
「はっ。」
「この先の城に大量の兵糧を送っておいた。そこまで進軍できれば勝利は目前。」
窪地に差し掛かったところで、その土地の農民たちが酒や食料を差し入れてきた。
「ようこそ、このような辺鄙な地へお越しくださいました。どうぞ遠慮なくお納めください。」
「そうであるか。ここらで昼食とでもしようかの、皆の者!支度をせい!」
「はっ!」
窪地に陣を置き、二万の軍勢はここで休息をとる事にした。
酒を酌み交わし、腹ごしらえも休息も終え進軍開始の合図を出そうや否や、曇天からの豪雨が降りしきった。
この窪地で豪雨とあっては視界も遮られ、進軍もままならない。
幾許かの時間が流れ、晴れ間が差した。
その時である。
相手の指揮官率いる三千の軍勢が猛突進してきたのである。
「おおおおおお!なんじゃ!皆の者出合えい!」
敵の急襲により、作戦も陣形もありはしないこの状況下でも、忠誠心の高い兵士たちは指揮官を囲む様に円陣を作り守った。
しかしこれが仇となったのだ。
二万もの軍勢の中、一際目立つ円陣。
そこに指揮官がいることは明白。
あらゆる情報と地形を熟知した三千の軍勢の勝利はそう時間のかかる事ではなかった。
「お姉ちゃん、私たちの出番なかったねー。」
「大した切れ者です。」
「ほう、情報網を張り巡らせ地の利を活かせる者が統率しておったのじゃな。」
「窪地に到着した大軍勢に物資を差し入れをしたのも、あの少数の軍勢のスパイだったという事ですね。」
「すごいねえ。あの髭のおじさん。」
「兵糧を蓄えた城へ向かうためには、この狭間を通過しないとならない。そこで足止めさせて狙い撃ったと。」
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「ゲホッゲホッ!夢、だよな。今の夢はアレかあ?アレだよな。桶狭間の戦いじゃん。」
そう言って体を起こし居間へ向かうと、こんがり焼きあがったベーコンとタマゴが乗ったトーストが置いてあった。
「冷めちゃってるな。でもうまい。よく出来た嫁だよなあ。どれひと仕事してくるかあ。」
マキシマが向かった先は、とある研究室。
生前は科学者として勤務していた場所である。
最も、過去の事故により廃墟に近い状況に成り果てているが。
【寝坊したけど来たよー】
ホワイトボードに書かれた文字に気づかない研究員たち。
ボードをコンコンとノックするように音を立てる。
「今頃出勤ですかマキシマさん。もうじき完成しますよ。」
【マジで?ちょっと見せて】
「幽霊になってまで事故は起こさないでくださいよ。」
【全く 俺が幽霊になっても驚かないんだもんなあ お前らはさ】
「マキシマさんの状況はまだ科学で解明されていませんけどね。私たちがそのうち解明します。」
【そういう問題じゃなくてさあ もっとこう 幽霊でたー!とかないわけ?】
微笑が溢れる研究室内。
その時マキシマの脳内に声が響き渡った。
『まだ会った事もない私たちの仲間……。私の呼びかけを感じますか?』
「なんだって?何?誰?俺の仲間?」
『……私の名は……。私の呼びかけを感じますか?助けに来てく……。ここがどこなのかわかり……。……遠くから水の流れる音が聞こえる……。』
「うまく聞き取れねえ。もう1回頼む!」
『まだ会った事のない仲間に……ます。まだ会った事のない私たちの仲間に呼びかけます!あなたたちの助けが欲しい……。あなたの仲間と一緒に……へ。北に向かって出発してください!すぐにあなたの仲間と一緒に……まだ会った事のない……かけがえのない……仲間!』
「俺の仲間?仲間って誰だよ!……!ああ!そういう事な!わかったぜ。待ってな!」
【わりぃ ちょっと何日か空けるわ】
「やれやれ。またですか?」
「もう慣れましたけどね。」
「行ってらっしゃい。」
【お土産持ってくるぜー】
Episode20へ続く




