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Episode18 Master of Chemical

「テスト勉強してるんだ、僕が見てあげようか。」

「当然でしょ?家庭教師としてうちに来たの覚えてないの?」

「お姉さま、捗ってますか?」

「こんな事をして何になるというのじゃ。やぶさかじゃのう。」

「ストナ。これ全部間違ってるぞ。どうやって解いたんだ?等比数列の公式、この前教えたじゃないか。」


学年末テストは一年間のまとめということもあり、出題範囲が広い。

ユメカは星乃光高等学校の進学クラスで成績も優秀。

ネムリも転入して以来、勉学に励み、見た目に反しないエレガントな生活を送っている。

ストナはどうも勉強が苦手なようで、大体の授業中はアニメのワンシーンの様にペンを鼻と口の間に挟み、上の空な事が多い。


二人は学校生活には完全に馴染んでおり、その端麗たんれいなルックスからか交友関係も広くなっていた。


タクトはというと、某パン工場の煙突から飛び出すように外出し、日々街の平和のためにパトロールを欠かさないでいた。


数週間前にこんな事があった。

小学校低学年程の子供が公園で泣いていた。


「できない!できないできない!なんでできないんだ!えいっ!できない!もうやだ!」


どうやら鉄棒に苦戦している様子だった。


「ははーん、逆上がりか。コツさえ掴めば簡単なんだけどな。」


泣きながらもめげずに挑む姿を見て、どうにかしてあげたくなったタクトは指を鳴らした。


「にゃ!できた!」

「でも持ち手が逆手だと他の技に発展しづらいんだよな。まあ小学生だし順手じゃなくてもいいか。」

「ようし、もっかい!」

「そうそう。もっと体を引きつけるんだ。」

「体が誰かに押されてるみたい。」

「僕が触っちゃうとこの子も消えちゃうからな。他の人に見られたら大変だ。ほら頑張れ、もっとこう。」


タクトが指を鳴らす度に子供の体の位置が調整されていく。

そして十分が経過した。


「できるようになった!これで明日のテストも楽勝!やった!帰ってゲームしよ!」


うんうんと頷くタクトも達成感に溢れる子供も満足気な表情を浮かべる。

そんなつかの間の平和な日常も終わりを告げようとしていた。






















「そんな……。こんなはずではなかったのじゃが……。」


「なんじゃこれは……。ついに始まってしまったというのか……。」


「うーむ。このような事が許されるのか……。ふん、造作もないわ!」






















「財満ストナさん。静かに解いてくださいね。」


静かな空間に響き渡る試験監督の声。

周囲の生徒たちが問題用紙を見つめながら微笑む。


テストは二日間続いた。


「ストナさ、結構出来てたんじゃないか?」

「何じゃ?お主見ておったのか。なぜ答えを教えなかったのじゃ。」

「ストナちゃんそれカンニングって言うんだよ。バレたら停学だよー。」

「タクトの声は我らにしか聞こえんからの。カンニングであろうと何であろうとバレはしないじゃろう。」

「お姉さま、それはフェアじゃないですよ♪」


このテストの点数の如何いかんで、この後の休みが、七連休になるか補習になるかが決まる。

当然赤点科目があると補習対象になるのだが、この学校の赤点基準はややこしい。

各科目60点満点。クラス平均の半分以下の点数が赤点と見做みなされる。

つまり平均点が50点の場合、赤点は25点以下となる。

星乃光高等学校の中でもトップのA組は赤点の基準が必然的に高くなるのだ。


当然ユメカは上位に位置づいていた。

テストが返却される際も余裕綽々なものだ。

ネムリも努力の甲斐があり、赤点はおろか科目によってはユメカと並ぶものもあった。


「お姉さまどうでしたか?前回は私も赤点がいくつかありましたけど、今回はオールクリアーでした♪」

「ストナちゃん何だかんだ言って頑張ってたから大丈夫そうじゃない?」

「どれどれ。どうだった?二回目の定期テストは。」

「くっ。殺せ!数学は嫌いじゃあ!」

「に、21点……。ドンマイだな、ストナ。」

「でもほら、ストナちゃん。化学は今回も満点じゃない。私一問ミスっちゃったからなあ。」

「お姉さまは化学だけは得意中の得意ですもんね。」


生まれつきの体質なのか、才能なのか。

ストナは数学には滅法弱いのに、化学だけはずば抜けていた。

何でもローマ帝国時代の毒の調合に始まり、古代エジプトの伝説、不可能を可能にする賢者の石や不老不死の薬エリクサーの精製。

西暦1,662年と1,787年のボイルの法則、シャルルの法則にもリアルタイムで加担していたとか。


「各教科と総合点の順位は中央廊下に掲示しておきます。平均点も各クラスごとに掲示しておきますので、補習該当者はこの後職員室まで来てください。」


「だってよ、ストナ。僕たちは先に帰ってるからな。」

「ストナちゃん、気を落とさないでね。手伝える事があれば手伝うよ。」

「お姉さま……。泣かないでください。」

「な、泣いてはおらぬわ!目から水が出てきただけじゃ!お主らは先に帰っておれ!」


活況を呈する掲示板前をユメカとネムリは素通りして行く。

連休中に総合点数と偏差値が記載された通知表が自宅に送られてくるので、わざわざ見に行く必要もないのだ。


「あ、そう言えば。さっき例のデパートに新しいクレープ屋がオープンしたってのぼりが出てたぞ。」

「もうオープンしたんだあそこ。行こう行こうー。」

「お姉さまの分も買って行きましょう♪」


夏に福引で南の島を引き当てたデパ地下へ到着した三人。

生地の焼ける匂いとバターやフルーツの香りが午後の程よい空腹感を刺激する。


「すごい行列ですね。」

「どれくらい並ぶかなあ。」

「あれ?あれって。」


一際目立つブロンドショートヘアの小柄な少女が、手に持つスマホを振り回しこちらへ向かって歩いてくる。


「おーい、お主ら。折角並んでおったのにまーた最後尾からか。フフッ。まあ致し方あるまい。」


ストナが指差すスマホの画面には意外な画像があった。

【1年A組 数学IA 平均点40】


Episode19へ続く

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