Episode17 天使に近い存在
「ふむ。その様相、何があったのか説明してもらおうかの。」
自分とタクトたちの温度差にようやく気づいたストナは、テレビを消して立ち上がった。
それに合わせてタクトは早口で続けた。
「初詣の帰り際に餅撒きが始まって人がドミノ倒しで山ほど倒れて怪我人も沢山だ。その餅を撒いていたのは半人半霊でストナが近くに居てハーフと言っていた。」
「落ち着くのじゃ。のべつ幕なしに説明されてものう。」
「タクト落ち着いてよ。私から説明するね。」
…。
……。
………。
「なるほどのう。半人半霊を半人半霊と言っていたのじゃな。考えられる事と言えば……、それは……。」
「それは?」「それは何?」「何ですの?」
息を呑み沈黙の時が数秒訪れる。
「我の姉じゃ。と言っても双子の姉じゃがの。だから我と同じ姿に見えたのじゃろう。」
「あ、姉!姉がいるのか!」
「お姉さま!初耳です!」
「フフッ、そうじゃのう、あやつとは意見が合わなくての、もう何千年も顔を合わせておらぬ。ネムリは会った事すらなかろう。」
「何で僕の名前を知っていたんだ?」
「あやつは死神の中では最上位じゃ。全死神の記憶を共有する能力を保有しておる。ま、我の記憶は共有されぬからの、ネムリの記憶を辿ったのじゃろう。」
興奮状態が収まらないタクトは頭を抱え右往左往している。
ユメカもネムリも驚きを隠せない。
「だとしてもあんな大事故を助長するなんて。」
「ユメカよ。気持ちはわからなくもないがの、そもそも死神と言うのはそういう類の生き物なのじゃ。そしてあやつも助長したわけではない。半人半霊のカブキがジャッジメントを受けただけじゃ。死神がアドバイスを施す事などありはせぬよ。」
「それはそうですけど、もしお姉さまがあの現場に居たら止める事は出来たのですか?」
「まあ、確約はできぬが。止めることは出来たかもしれん。が、あやつと衝突する事は避けられぬであろうな。被害はもっと拡大していたやも。」
「そんな……。」
再びの静寂。
「そもそも我も死神じゃが、前々に説明した様に、天使に近い死神じゃ。ネムリよ。お主は今は人間となっておるが、元々は生粋の死神じゃったろう?フフッ。」
「そ、それは……。そうですけど……。」
「タクトとユメカは我らに会い、当たり前が当たり前ではなくなっておる。我らに会っていなければ今日の出来事もただの凄惨な事故として記憶に残る事になっていたじゃろう。そういうことじゃ。」
意に添わないが、ストナの説明に納得せざるを得ない部分もある。
「なあストナ。一つ質問があるんだけど。」
「あんじゃ?」
「不謹慎じゃないか!餅食べてるし!」
「ほんな事言われてものう。餅に罪はないであろう。質問は餅の事かの?」
「違う違う。天使に近い死神の話だよ。」
「私もそれ気になってた。」
天使と悪魔なら分かるが、天使と死神。
似て非なるものだが概念が違う様な気がした。
「そんな事か。もちろん今も死神で有り人間じゃよ。大昔に色々あって今は天使に近い存在の死神と呼ばれておる。フフッ」
「色々が知りたかったんだけどな。」
「話すと長くなるのじゃ。おいおい説明するでのう。」
「意味深ですわね♪」
「なあに。大した事ではないのじゃがな。とりあえずはタクトが転機を迎えた時に、我ではなく姉の方に遭遇していたら今の状況には100%成り得なかったと思っておけば良いのではないかの。」
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翌日、ユメカたちが見ていたテレビから、悲劇的なニュースが流れた。
何でも神社の初詣が例年にも増して混雑し、人だかりが将棋倒しになったとか。
「ここの神社ってうちの近所だよな?」
「死傷者数百名だって。昭和30年代にも同じ事故があったらしいね。」
「痛ましいですわね。」
「良かったのう。我らが行った神社ではなくて。」
「ほんとにな。ストナが一駅先の神社の方が出店が多いって駄々こねてなかったら巻き込まれてたかもしれないな。」
「年末特大号のJAPANランナーに掲載されていたからの。この超ホットイモモチは絶品じゃった。」
「良かったですね♪」
「……。」
実の姉が下したジャッジメント。
その事実を変える事は出来ずとも、人類の記憶を改ざんする事は出来る。
人間として暮らしている以上、事故や事件はできるだけ回避したいと思うストナであった。
こうして記憶を改ざんする事によって、周囲の人間は事なきを得る。
しかし自分の数千年の膨大な記憶は改ざんされる事はない。
ストナは感づいていた。
これ以上、実の姉とタクトたちを接触させてはいけないと。
今日も明日も業を背負って生きていく。
人間である時はせめて人間らしく。
そんな天使のような死神がこの世界には存在するのだ。
「半人半霊と戯れるなど。何を考えているんじゃ。どれ、我が一つ為事をしてあげよう。フフッ。」
Episode18へ続く。




