Episode16 祭りの後
「マジありえなくなーい?押すなっつうの!」
「後ろのオヤジおしり触ってくんだけど~!」
「進まないなあ。」
「さすが初詣だね。慌てなーい慌てなーい。一休み一休み。」
「これこれ、ユウト。手を離してはいかんぞ。迷子になってしまうからな。」
「はーいおじいちゃん!アイも俺の手離したらだめだぞ!迷子になっちゃうって!」
「わかってるよお兄ちゃん!迷子になっちゃうもんねっ!」
ユメカたちが到着する前から神社は無数の人で賑わっていた。
ギャル、仲良しカップル、離れ離れにならないようにと孫の手を引く祖父、それに続いて冬休みを満喫する夜更かし小学生の兄妹。
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それぞれの新年が始まったばかりだった。
しかし今ではこの惨状だ。
悲鳴と呻き声が交じる中、社殿の屋根から狂気の笑みを浮かべ、紅く染まった男は舞い降りてきた。
屋根の上のブロンドヘアの少女は微動だにしない。
「カッカッカ!絶景かな!絶景かな~!」
まるで空間に見えない階段があるかのように、トントントンとテンポよく舞い降りる男。
石段の中腹まで空を舞った男は更に口を開いた。
「どうじゃ。どうじゃ?参ったか?参ったなあ?」
「ユウト……、マイ……。ユ…。」
「和男~?どうじゃ?俺と同じ目にあった気分は。どうじゃ?どうじゃ~?カッカッカ!」
「これは……、あの時と同じ……。」
紅い男の声は老人の耳には入らない。
或いは聞こえていたのかもしれない。
しかしもう聞こえてはいないだろう。
血に塗れる孫、地に伏し微動だにしない孫。
「おい!お前…、どういうつもりだ!半人半霊なのか!?」
狂気に満ちた男にはタクトの声も届かない。
ここにいる人間、半人半霊、他の生物全てがそれぞれ一個の空間に閉じ込められたかの様に誰も他の声や音は聞こえていなかった。
社殿の屋根に佇むブロンドヘアの少女へ視線を送るも、目も合わなければ声も発しない。
「カッカッカ!絶景かな!絶景かな!」
「聞こえていないのか!このやろうっ!」
それでも尚、老人に向けて放言する紅い男。
屋根からブロンドヘアの少女が動いた。
「ストナ!ストナ!何やってるんだよ!」
「いやあ!絶景かな!絶景かな!この時を待ち詫び六十と余年、お前があの日あの時あの場所であんな事をしていなければ……、トミ子は…、トミ子は……!」
狂気に満ちた顔が歪む。
頬を伝う水が紅い男の血を洗い流して行く。
紅い雫が息絶えた和男という老人へポタリ、またポタリと落ちる。
男は紅く染まった老人を拭い、花を手向けた。
そして男の体からは黒い霧の様なものが立ち込めた。
「石川や浜の真砂は尽きるとも、世に盗人の種は尽きまじ。ってな。トミ子。会えるかわからんが、今」
「そこまでじゃ。」
ブロンドヘアの少女が大鎌を振り下ろすと紅い男は地に吸い込まれて逝った。
「ストナ?」
「ん?ああ、なんじゃ?お主か。全然気が付かなかったぞ。フフッ。」
「ふふっ、じゃないだろう!何だよ!これは何なんだよ!説明してくれよ!あんまりじゃないか!!」
「ふむ。」
六十数年前に起こったこの神社での事故で命を落とした者が数多くいた。
その中にいた一組の夫婦も命を落とし、夫がスペクターにより回帰されジャッジメントの対象となった。
夫は六十数年の間、社殿に居座った。
当時の石段事故の引き金となったであろう、和男という子供が成長し家庭を持ち、子が生まれその子もやがて家庭を持ち、子を授かるその時まで。
あまりにも残忍で悲しく辛い出来事にタクトは感情を抑える事が出来なかった。
「止めることだってできただろう!何でぼうっと突っ立ってるんだ!何百人が犠牲になったと思ってるんだ!」
「自惚れるなよ人間。我は死神ぞ。あくまでも為事を遂行したまでのこと。ああ、人間ではなかったな。半人半霊め。フフッ。」
「そうか、そうだったな。お前は死神だったな。絶望したよ。」
「何を喚いているのじゃ。半人半霊ごときが我に指図しようなんぞ片腹痛いわ。フフッ。」
ストナは地に吸い込まれるように消え去った。
「ストナ……。普通の死神に戻っちまったんだな……。」
石段の下には既に報道陣が敷かれ、レスキュー隊や救助ヘリ等のサイレンやランプの明かりに包まれていた。
「タクトさん!何事ですの?!」「ちょっと!何があったっていうの?」
一斉に駆け寄ってくるユメカとネムリにタクトはどう説明したらいいのか瞬時には言葉が出てこなかった。
ただただ、怒りと悲しみで拳を震わせる事しか出来なかった。
「とりあえず。二人は無事なんだね。帰ろう。」
「ストナちゃんも待ってるだろうし。そうだね。とりあえず帰ろうか。」
「ストナは……。」
帰り道、タクトは歯切れの悪い言葉遣いで事の顛末を二人に説明した。
「まさか!ストナちゃんが!」
「ありえません!死神の頃の私ならともかく、お姉さまがそんな!」
「事実だよ。俺も何もしてあげる事が出来なかった。見てる事しか出来なかったんだ。」
「何か事情があるのかもしれないよ。帰ってストナちゃんに話を聞こう?」
「そんな悠長な事を言っていられる場合かよ!何百人も犠牲になってるんだぞ!」
「落ち着いてくださいタクトさん。ユメカさんの言うとおりです。まずは話をしてみないと。」
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「ストナ!いるか?」「ストナちゃん!」「お姉さま!」
玄関を開けるなり居間へ駆ける三人。
リビングのソファにはワインを片手にブルーレイのアニメを見ているストナがいた。
「おや、遅かったな。お土産は何かの?聞いてくれるかお主らよ。このアニメすごく面白いのじゃ。死んだはずの敵が蘇ったりしての。ほれ見てみいこれ!これじゃ!波ーーーー!よいところで終わるのう。続編はまだかのう。日曜日が待ちどーしいのう。」
「ストナ!」「ストナちゃん事情を話して!」「お姉さま!どういう事ですの!?」
「な、なんじゃ。三人で藪から棒に。」
物凄い剣幕で迫り来るタクト達にたじろぐストナ。
「どういうことだ!?お前!自分が何をしたか分かってるのか?」
「どうもこうも、ああ、すまなかった。」
「ストナちゃん……。」
「お姉さま。やっぱり……。」
「お主らが帰って来るのが遅いから、借りた分ぜーんぶ見てしまったのは詫びようぞ。だからと言ってそこまで捲し立てなくてもよいのではないか?」
「ストナちゃん。神社で何があったか説明して。」
「お姉さま。どうしてしまったのですか?」
何かを思い出し、俯いていたタクトが口を開いた。
「ユメカ、ネムリちゃん。僕が遭遇したのはストナじゃない……。僕の名前も知っていたしストナだと思った。あの時は興奮して気づかなかったけれど、その死神は髪が、長かった……。」
Episode17へ続く。




