Episode14 恵方詣り
横並びに四人程ずつ、石段に続く長蛇の列。
前に進むにつれて緊張感が増してくる。
「この飲み物おいしいですわね~。体が温まります♪」
「甘酒ねー。このいちごクレープもおいしいよー。ちょっと食べてみる?」
「初詣の行列でそんなに屋台で買い込んでるのユメカたちくらいじゃないのか。」
「ストナちゃんも来たら良かったのにね。」
「お姉さまは寒さに弱いですからね。致し方ありませんわ♪」
「何でこんなに並ぶんだろうな。みんな暇なんだろうな三が日は。」
「初詣っていうのはね、大晦日の夜に詣でる除夜詣、元日に詣でる元日詣、その両方が合うこの時を恵方詣り《えほうまいり》って言うの。浅学非才のタクトにはわからないだろうけどねー。縁起がいいんだよ。」
元日早々から酷い言われようである。
最前列の賽銭箱に到着するか否かのその時、背後から飛んでくる小銭の嵐。
上着のフードに入ってくる小銭はお捻り感覚で受け取ってもいいのだろうか。
参拝後にお決まりのセリフが口から飛び出してくる。
「二人は何をお願いしたんだ?」
「早く死神に戻れるように♪」
「うーん。去年一年健康だったことに感謝と、ちょっとしたお願い事かな。タクトは?」
「僕は特に何も……。この体になったから神様にでも会えるかと思って来ただけ。見当たらなかったけど。」
冷え切った甘酒を流し込み境内を後にした。
久々に来た。
ストナが不在の時に限って。
「ユメカ、ネムリちゃん……。この甘酒って苦かったか?」
「えっ、それって。」
「ああ、何か起こるんじゃないか。」
周囲を警戒しようにもこの人混みだ。
何千、何万と人が群れている。
「死神の気配ですか?」
「いや、特にそういう事もないんだけどね。良くも悪くも何か起きる時に苦味がくるから。」
「まさかテロとか起きるんじゃないでしょうね。」
「おいおい、物騒な事を言うなよ。」
社殿の向拝(社殿の賽銭箱がある部分)から千木(社殿の屋根の端の木)の周辺から大声が聞こえた。
「さあさあ皆の衆!金銀財宝を盗んでも、悪党外道は許さねぇ!これは縁起物だ!受け取れーい!」
突如空から降り注ぐ白と紅の物体。
餅だ。
向拝周辺に居合わせた人たちは、空から降ってきた紅白餅に手を伸ばす。
「お!餅撒きだぞ!かなり戻ってきちゃったから僕がみんなの分をキャッチしてくるぜ。」
「この時間に餅撒き、ですか?」
「聞こえなかったのか、今スピーカーから大音量で叫んでたじゃないか。地獄耳のユメカなら聞こえただろ?」
「何言ってるの?こんな人混みで聞こえる音なんて喧騒だけだよ。」
聴力に関する能力を得た覚えもないが、左手の能力傷にも変化はない。
特に不安を煽る様な自体でもないと判断したタクトは、石川五右衛門の様な口上に惹かれ紅白餅を取りに石段をフワフワと駆け上った。
石段を登りきった頃、屋根の上に派手な服装の人物をその目に捉えた。
仮装大会か、コスプレパーティーか。
寒くないのか。
屋根の上から歌舞伎宛ら《さながら》の真っ赤な風貌の男が餅をばら撒いていた。
男が天高くばら撒いた餅の一つを掴む。
一袋に二つの餅が入っている様で、当たりの袋にはお年玉とでも言おう、五円玉や百円玉、五百円玉が入っている物もある。
空に舞っている状態の袋をもう一袋。
最後にもう一つ、袋と同時に宙を舞う。
この行為はゲームで言うところのチートってやつに当てはまるだろう。
石段の下で待つユメカとネムリ、留守番をしているストナの分の紅白餅を抱えて石段を降ろうとした。
歓声が悲鳴に変わった。
初めは何が起きたのか皆目検討がつかなかった。
一瞬で起こったその膨大なアクシデントを、ただ見ている事しかできなかった。
石段上にいた数百もの人がまるでドミノ倒しの様に崩れ去って行く。
段を登り終えた人々が、縁起物を手に入れようと押し合いになり、押し返された人たちは階下へと崩れ去って行った。
「警備員は何をしていたんだ。警備員?警備員なんて居たか?ネムリちゃんの言う通り、餅撒きがこんな時間に行われるのも不自然だ。」
向拝へ戻ろうと振り返った。
屋根の上には石川五右衛門のコスプレをした男が相も変わらず餅をばら撒いていた。
その表情を見てゾッとした。
笑顔、いや狂気に満ちたその笑みはどこか闇を抱えているような、異様な雰囲気を感じた。
更に先程とは違う風景に違和感を覚えた。
その男の横には大鎌を携えたブロンドヘアの少女がぼうっと立っていた。
Episode15へ続く




