Episode10 新月の光
「ユメカよ。例のものはどうなっておるかの。」
「あー、あれのこと?20時には届くと思うけど。」
「あれは何という食べ物なんですの?」
「キウイか?果実と魚介しか食べないのにキウイを知らないなんてな。」
テレビのCMでZisproというブランドのキウイを見てから、ストナとネムリは興味津々であった。
選ばれし者だけが貼られるこのZisproシール。これがないキウイはただのキウイ。
外国産のキウイは春から初夏にかけて出荷されるが、国産のキウイは冬に出荷される。
ストナとネムリはネット通販で信じられない数のキウイを注文したのだった。
インターホンが鳴ると同時にドアの前へ駆け寄る二人。
まるで飼い犬の様だ。
念願のブランドキウイが到着するなり開封の儀が始まった。
「おおっ!これが!選ばれしキウイ……!黄金に輝いておるわ。フフッ。」
「お姉さま、見てくださいこのシール!選ばれし者の証ですわ♪」
「でも食べるなら剥がさないとな。」
「待て待て!剥がしてはならん!シールを剥がすと選ばれし者じゃなくなるとCMで言っておったじゃろう。」
「でも剥がさないと食べられないよ?」
徐に口を開き皮も剥かずキウイをまるごと口へ放り込むストナ。
ネムリの悲鳴が部屋中に響き渡る。
合点がいった。
言うならばストナの表情は、先週見たアニメの巨人が人を食らうシーンそのものに見えたのだろう。
「ネムリちゃんがそんな悲鳴を上げるなんてな。だいぶ人間らしくなってきたじゃないか。」
「でもキウイは果物だからねー。」
ネムリの悲鳴を他所にサクサクとナイフで皮を剥き、高級感のある陶磁器の皿に盛り付けていくユメカ。
結局四人でダンボール六箱もあったキウイをあっという間に平らげてしまった。
「何か……、居た堪れない気持ちになったので外の空気を吸ってきます。」
「何だよ、ネムリちゃんもムシャムシャ食べてたのに。」
「よいよい、放っておくのじゃ。」
「それよりタクト、最近写真撮ってないね。」
久しぶりのユメカとのツーショットに緊張しながらもスマホの画面を覗き込む。
「むむ、これは。」
「あれ!これって……。」
「光ってるな。」
ユメカたちの学校が始まり、既に季節も冬を迎えようとしていた。
タクトは皆が学校にいる間、出来る限りの人助けを行い廉直な行動を心がけていた。
「その、これって、タクト天国に行っちゃうの?」
「ふむ。そうとも限らんがの。この色は……。たしかに間もなくジャッジメントが終了するサインやもしれぬのう。」
「そんな……。僕はもうユメカたちと会えなくなるって事か?」
「うむ。一概には言えぬのじゃが、順当に考えるとそうなるかの。」
ついにその時が来てしまうのか。
不意に口の中の苦味と同時にネムリの悲鳴が聞こえた気がした。
「ちょっと、僕も外の風浴びてくる。」
どこか寂しげなユメカと物憂げな表情を浮かべるストナ。
互いに無言でテーブルの片付けが始まった。
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初冬の寒空の中、特に行く宛もなく月のない夜の川沿いを歩くネムリ。
躊躇う事もなく人の命を奪っていた死神のネムリ。
今ではキウイにすら情を感じてしまう人間のネムリ。
「おっ、姉ちゃん。こんな時間に一人?俺たちと遊びに行こうぜぇ!」
「超かわいいじゃん。どうしたの?彼氏にフラれちゃったの?」
突然見知らぬ男たちに声をかけられ戸惑う。
「な、何ですのあなたたち。それ以上近づいたら容赦しませんことよ!」
「いいじゃーん。とりあえずカラオケ行こカラオケー。」
「俺たちも丁度暇だったんだ。朝まで楽しんじゃおうぜぇー!」
ただの人間となった今、この男たちを打ち負かす術はなかった。
二人の男に腕を掴まれ強引に連れ去られる。
恐怖のあまり声すらあげることが出来ない。
しかし、ヒーローは遅れてやってくるものだ。
「お、いたいた。ネムリちゃん、ちょっと待っててね。」
「タクトさん!」
「あ?何か言ったか?」
タクトが指を鳴らすと男たちが吹っ飛んだ。
「うおっ!なんだ!痛えな!」「ってー、何しやがるこのアマァ!」
「ネムリちゃん、手伸ばして。」
空に向かって手を伸ばす。
タクトが触れた者は透過される。
男たちにはネムリが瞬時に消え去った様に見えた。
「おい!さっきの女、消えたぞ!?」
「どこ行きやがった!出て来い!」
「アハハハッ!お前たちの様な輩、私が手を下すまでもありませんわね♪」
強がるネムリの手はとても冷たく、震えていた。
余程の恐怖だったのであろう。
タクトは彼女の言葉に便乗するように手を翳した。
川の水が大きな水玉となり男たちを包み込む。
「ガボボッ!ガガガ!」「うっぷ!ああああ!」
男たちが命からがら水から抜け出した頃にはタクトもネムリも遥か上空へ飛び去っていた。
「大丈夫だった?ネムリちゃん。」
「助けてくださりありがとうございます。」
「夜道は一人で歩いたらダメだぜ。」
「そうですね。人間の非力さを改めて感じました。」
ユメカの家に着くと不安な面持ちの二人が待ち構えていた。
「タクト……。ネムリちゃん。どこ行ってたの?」
「ああ、ちょっとな。不良少女を連れ戻しに行ってたよ。」
「フフッ、また廉直な手段を取った……のかの。」
「タクトさん。もうすぐジャッジメントを終えるのですか?」
不穏な空気が流れる。
「と、思うじゃん?」
指を鳴らすとユメカのスカートが捲れた。
ストナの衣服もはだけた。
ネムリの服の胸元も開いた。
「まだまだいくぜ!」
どこからともなく程よい水しぶきが飛んで来て少女たちを濡らす。
「雨も滴るなんとかってやつだな!」
「ふむ。考えたなタクトよ。サル並みの閃きじゃがの。」
「抑制と均衡ってやつですわね♪」
「やっぱり……、あんたバカぁ?心配した私もバカだったみたい。一週間ご飯抜き!この水ちゃんと片付けなさいよ!」
「おい待ってくれよ!まだジャッジメントの真相も分かっていないのに天国だの地獄だの行きたくないからな。許してくれ。」
「フフッ、何か掴めたのかの。」
「ああ、何か隠してる事あるよな?ストナ。」
「何か感づいたようじゃの。じゃが妙じゃの、どうやって。」
「どういう事?」
「ジャッジメントの真相?初耳ですお姉さま。」
夜空の新月と一転して、タクトには不確かではあるが希望の光が見えていた。
Episode11へ続く




