Episode9 転入生
「みなさんごきげんよう。夏休みは有意義に過ごせましたか。本日はホームルームの前に転入生二名をご紹介します。どうぞお入りください。」
秋晴れの澄んだ空気に包まれながら、二名の生徒が教室に入って来た。
シーンと張り詰めたムードも一転し、歓声と共に新学期ならではの雰囲気が漂う。
「ご挨拶をどうぞ。」
「この度、星乃光高等学校1年A組に転入させていただく事となりました。財満ネムリと申します。あちらの席の財満ユメカさんの親戚に当たります。皆様どうぞよろしくお願い致しますわ♪」
お辞儀と同時にハーフアップの鶯色の髪が揺れる。
女子校ならではの黄色い声が沸き、コソコソ話す声も聞こえる。
(キレイだね~!ユメカの親戚だって~!スタイルいい~!)
「お、同じく、転入して来た、来ました。財満ストナじゃ……。ストナです。い、一応ネムリの双子の姉じゃ……です。以後お見知りおきを。」
腰辺りまであった金髪を肩上程にバッサリ切ったストナ。
より一層幼く見えてしまう。
歓声は更にヒートアップする。
(ちょっと!お姉ちゃん可愛すぎない!?お人形さんみたい~!)
「くくくくっ、見ろよストナ。あいつ緊張してるぜ。」
「………。」
「ネムリちゃんはさすがだな。物怖じしないあの性格。ユメカと似てるよな。」
「………。」
ユメカがノートの端に文字を書く。
【話しかけないで。返答に困る。】
「そうだよな。ごめんごめん。独り言になっちゃうもんな。面白い物も見る事が出来たし、僕は街のパトロールでもしてくる。」
窓に揺れるカーテンの動きに合わせて、タクトは外へ歩いて行った。
「では、ネムリさんとストナさんはユメカさんの後ろの席に座ってもらおうかしら。」
「承知しましたわ♪」「うむ、よかろう。」
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ユメカのクラス1年A組は星乃光高等学校の同学年の中でトップの進学クラスだ。
とは言っても、休み時間の転入生への質問攻めはどこの学校も同じだ。
「ネムリよ。言っておくが、我はこの世界の勉学など不要なのじゃ。」
「人間らしく生活するために学園生活も大事だと仰ったのはお姉さまじゃありませんか。」
「そ、そうじゃが……。」
あれもこれもと質問を投げかけてくる生徒たちにうんざりしている様子のストナ。
「ネムリさん!どうやったらそんなにスタイル良くなるんですか?何食べてるんですか?美容に気をつけている事はありますか!?」
「ストナちゃんのお肌プルプル~!触ってもいい?」
「ネムリさん放課後うちの部活見に来ませんか!」
「ストナちゃんはうちらの部室で一緒に遊ぼう~!」
ネムリとの扱いの差に意気消沈する。
「のうユメカよ。なぜ我の扱いが子供をあやす様な振る舞いなのじゃ。ネムリより100年は先に生まれておるのじゃぞ。」
「見た目の問題じゃない?私はストナちゃんもネムリちゃんも、姉妹として違和感ないけどねー。」
「アハハハッ、お姉さまがお仕置きされているみたいですわね♪」
暇を持て余したタクトが戻ってきた。
女子校に無許可で立ち入る事の喜びを覚えたのかもしれない。
「おっ、モテ囃されてるな。ストナは何で髪切っちゃったんだ?小学生みたいになっちゃったじゃないか。」
「長すぎると体育の授業で不便じゃない。私の長さでも結構大変なんだから。」
「似合っていますわよ。お姉さま♪」
「フフッ、軽くなったのは間違いないが、こやつらどうにかならんかのう。」
休み時間になる度にクラスメイトの質問攻めは続いた。
慣れない対応に一苦労していたストナも次第にクラスに溶け込んでいった。
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放課後
「ストナちゃんとネムリちゃんは部活動はどうするの?」
「ユメカさんは何か活動なさってるのですか?」
その質問で早足になったかと思えば立ち止まり、こちらに振り向き片方の頬を膨らませ、視線を外に投げた。
「わ、私は……。水泳部だけど……。」
「そうなんですの。」「え!?」「なんじゃと!?」
タクトとストナは声を揃えて驚嘆した。
「泳げないから……、水泳部に入ったんだけど。何か文句あるの!」
「い、いや。ユメカがまさかその、水泳部とは。」
「泳ぎなら我が教えてやろうかの。」
「では私たちも水泳部に入部しましょう♪」
「何ぃい、みんな水泳部。水着……。」
「じゃあ、タクトはプール掃除手伝ってよね。女の子だけでやるの結構大変なんだから。」
「いいだろう。何でも手を貸そうじゃないか!」
星乃光高等学校の水泳部は強豪校ではなく、ユメカの様に泳ぎが苦手な生徒も在籍しており、非常にのんびりとした部活であった。
そのため、未経験のストナとネムリの入部も問題なく承認された。
「あらら、誰もいないか。とりあえず休み明けだしプールの掃除だね。タクト、バケツとデッキブラシ取って。あとこのホースも繋いで。」
「任せておけ!あれ、君たち君たち。水着に着替えないのか?」
「なんじゃ?水着なんて着ないといかんのか?」
「構いませんことよ♪」
「入部初日だからそんな用意はありませんー。一応顧問の先生には言っておいたけどね。」
「仕方ない。セーラー服の女子高生が水に濡れる姿を空の上で眺めてるとするか。一人小学生もいるけどな。」
普段パンツを覗かれたくらいでは何とも思っていなかったストナも、小学生と言われると癇に障る様で、手に持つデッキブラシから黒い霧が滲み出し、上空のタクトへ伸びていく。
「タクトよ、一度ならず二度までも……、能力傷を意図的に増やしてあげようかの。」
「わっ、ちょっと、嘘ですよストナさん!」
「半霊さんも味方が少なくなってきましたね。私が味方になって差し上げましょうか?」
「本当か?ネムリちゃんー。タクトって呼んでいいぜー。」
「一度は命を奪われてる相手によくもまあそんなに鼻の下伸ばせるね。さっさと水出してくれる?能力者さん。」
空っぽのバケツが飛ぶ。
「いってえ……。この距離までバケツを投げられるなんてやっぱり運動神経はいいよな。」
ワイワイと騒ぐ声がどこからともなく聞こえてきた。
「あっ!いたいたー!ストナちゃーん!プリクラ撮りに行こー!」
「ストナちゃんのファンクラブ作ろうかと思って探してたの!いい?」
「駅前に美味しいアイス屋さんがあるんだけど行かない?」
膨れ面のストナの表情がにこやかになる。
「なんじゃと!アイス!行くに決まっておろう!この為事が終わったらすぐ行くからそこで待っておるのじゃ。ユメカよ、アイスを買う分の銀貨を少し分けてくれぬか。」
「すっかり人気者ですわね♪」
「いいんじゃないー?少しでも私たちの世界の事わかってくれれば嬉しいし。」
虎口を逃れて竜穴に入るとは良く言ったものだが、タクトはこの時の楽しい時間を終わらせたくない一心で、口に広がる苦味を誰にも言い出せないでいた。
Episode10へ続く




