表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
定時制の夜に  作者: 猫缶
1/6

教授の過去

彼のあだ名は教授きょうじゅだった。


教授は学校をサボっては昼の街を彷徨さまよって


警察の職務質問から逃げる毎日を送っていた。

 

そんな教授はスポーツ推薦で有名私立に入学した。

 

頭も僕たちの間では飛び切り良かったから教授というあだ名だ。

 

といっても僕たちの偏差値なんて無いに等しかった。

 

それこそ医者に脳死判定されてもおかしくないぐらいに脳みそは機能が停止していた。


羞恥心しゅうちしん」を「さはしん」と読んでいたぐらいだ。

 

これはそんな馬鹿でどうしようもない僕の友達の話。通称「教授」の話。



教授は陸上の選手で100メートルを凄い速さで駆け抜ける選手だった。

 

でも、一年生の夏の大会でアキレス腱を切ってから走れなくなった。


リハビリをすれば走れるようになったが昔のように走るのは無理だった。


それからは教授は毎日に退屈していた。先生達の目。周囲の目。


アキレス腱を切って走れなくなった教授は学校では用済みだった。


スポーツ推薦で入った私立。勉強は勿論ついて行けなかった。


邪魔者扱いされた。教師にゴミでも見るような目をされた。同級生の情けが白々しかった。


親は何も言わなかった。何も言ってくれなかった。


罵倒ばとうしてくれたら殴る相手が出来たのに」


教授はちょっとだけ悔しそうにそう言った。


 

それから夏が終わって学校をサボるようになり家出をした。


公園で野宿のじゅくをし、コインランドリーで一夜を明かす事もあった。


学校という管理統制かんりとうせいから外れた教授はコントロールを失った。


――俺は何ができるんだろう? 


――走る以外に何ができるんだろう? 


――何がしたいんだろう?


――今は何ができるんだ?


自問自答を繰り返した教授は冬の夜に一つの答えを出した。


これだけは思い出しても分からない。考えても分からない。


どうしてそんな答えに行き着いたのか。僕には分からなかった。


けれど、僕はその答えを責めたりなんかしなかった。


笑って聞いた。教授も笑っていた。


教授の答えは外されたのではなく外れる。


陳腐ちんぷ日常にちじょうと学校から外れる事を決めた。


準備するモノは学生証と学校から盗んだ消化器。


コレだけで外れる事が出来た。


消火器と学生証を持って教授は夜の交番を襲撃した。

 

消火器を警官にぶちまけて夜を疾走しっそうした。


深夜でも明かりの消えないコンビニで店員があくびをしている。


家の前で喧嘩けんかをしていたカップルの呆けた顔


信号は青なのに何も走っていない道路。


後ろからパトカーのサイレン。


自分の呼吸こきゅう


教授は走って、走って、走れない足で走った。


サイレンはまだ後ろの方。


まだ走れる。逃げ出すんだ。逃げるんだ。


走れなくなったら、歩いて、歩いて、歩き続けた。

 

それでも途中で立っていられなくなった。


口からは気付かないうちによだれともつばとも分からない体の悲鳴ひめい


教授は地面に倒れても手足をもがいて逃げた。


子供が歩くよりも遅いペース。映画に出てくるのろまなゾンビのように。


結局、教授はそれから30分後に海までたどり着いて捕まってしまった。


「アキレス腱切った時の大会でおれ転んだんだ。一番前を走ってたのに。


その時、『立って! 走って!』って声が聞こえたんだよ。でも足が痛かったんだ。


だけど、声の方を振り返ったら好きだった先輩だったんだ。


立ち上がって走ったよ。けど、だせぇーよな。結局ビリだった。


『次頑張ろう』って言われたけど、次なんかなかった。


次一番になったら告白しようって思ってたのに。


だからかな。あの時、パトカーと勝負して一番を狙ったんだ」


教授はまた笑いながらそう言った。


「海がゴールだったの?」


尋ねる僕に教授は頷いて笑う。


「だから告白しようって思った」



警察に捕まった教授は事情聴取の時に「勉強の毎日で魔がさした」と嘘を付いた。


その時に学生証を出して身分を明かした。


何もかもうまくいった夜だった。走って、歩いて、もがいて、ぶち壊した。


管理統制から逃げ出す事が出来た瞬間だった。


次の日に教授は有名私立を退学させられた。


それは教授の計画通りだった。教授は大笑いをした。


今まで笑う事を忘れていた分、大声で笑った。それは朝刊に事件が掲載れていたからだ。

 

学校に教師に同級生に泥を塗ってやった。



「反抗期だったんだよ。ただ殴る相手が欲しかったんだ。格好悪いよな。


だからフラれた」


ホットコーヒーがぬるかったのを何となく覚えてる。


教授の顔はどんな風になっていたのかは忘れた。


学校を辞めた教授はそれから新年度の四月。


僕たちより一つ年上だけど新入生として僕たちと一緒に入学式をした。


入学式の日、窓の外を見ると夜桜が散っていた。


時刻は午後六時。


定時制(夜間学校)の始業ベルが鳴っていた。


入学式から一ヶ月後。まだ夜は寒い春の日にコーヒーを奢ったお礼に聞いた話。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ