始まりの日
初投稿です。
至らぬ点が多々あるとは思いますがどうぞよろしくお願いします。
4/24 10:48 主人公の名前が読めないというご指摘を受けたので、名前にルビを振る修正をしました。
“人生”
それは数多の哲学者が古来より探求のテーマとし、この世に生きるすべての人間が生涯にわたって書き上げる一つの物語であり、そして俺みたいな人間にとってはこの上なく退屈でつまらないものである。
可愛く美人な女の子が迫ってきたり、学校にテロリストがやってきたり、めちゃくちゃ強いチート能力で世界を救ったりする、そんな彩りのある日常なんて通常起きることはない。いや、言うても学校にテロリストが訪問するシチュエーションは、俺が抵抗出来ずに殺される未来しか見えないから勘弁なんだけどね。
とまあ、このように俺にとって人生の中の日常とは普遍なものであり、変わり映えしない常に既視感のようなものを感じる退屈なものでしかないのだ。
そんな俺こと、退屈を嫌う今時の男子高校生である三國山 式は絶望に表情を染め、頭を抱えながらそんな事を考えていた。
どうしてこんな事になっているのか、疑問に思う人もいるだろう。
まあ、端的にいえば現実逃避だ。俺は自分の『人生』について考えることで現実から逃げようとしていた。もっとも途中から『人生』ではなくて、俺が思う『日常』についてのことに変わっていたし、とても人に聞かせてあげることのできない非常に内容の浅いお粗末なものだったけどね!
さて、もうそろそろ夢の国より現実に戻らなければならない。ハハッ。
寝坊。
非常に恐ろしい。窓から覗く太陽はほぼ真上の位置。おはようではなく、こんにちはの時間帯。
俺は今すぐにでも担任への弁解の言葉を考えなければならないのだ。
どれだけ担任が納得できる理由を考えることが出来たかで、この後の俺の命運は左右される。
先ずは素直に『寝坊して遅れました!』。これは却下だ。延々と説教を受けるはめになる。
『ナンパしてて遅れました!』。童貞ですがなにか?
『人生について考えてました!』。あながち間違いではないが却下。
駄目だ。僕の寝起きの頭脳では秀逸な遅刻の理由を考えることは不可能。いや、寝起きじゃなくても無理だな。
もうこうなったら開き直って二度寝するか。
面倒くさいことはこの際全部忘れて眠ってしまおう。
俺は気持ちのいい日光に包まれながらもう1度布団を被り直した。
俺は後になってこう考えることがある。もしこの日、寝坊をせずにきちんと時間を守って学校へ向かっていたら俺はどうなっていたのだろうと────
♔
「きゃあああああ!!!!」
「逃げろぉ!奴らだ!もうすぐそこに来てるぞ!!!」
「ひい!!こっちくんなぁ!!消えろよぉ!!頼むからぁ!」
なにやら外が騒がしい。なにか火事でもあったのだろうか?
窓の外から響いてくる叫び声に不機嫌になりつつ俺は目を覚ました。
俺の家は親父が一昨年建てた新築であり、外の“音”が家へ入ってくることは滅多にない。もしあればこの家の防音設備を疑うところだ。
故にここまで聞こえてくるということは相当大きく叫んでいるということに他ならない。逆説的に火事やら事故やらそういうことがあったと推測が出来る。
「ったく、何があったんだよ。俺への安眠妨害は美幼女以外万死に値するぞ……」
ぐちぐちと恨み言を呟きながら玄関へ向かう。何があったのかは知らないがとりあえず外にいるやつへ文句を言ってやろう、そう思いながらちょこんと可愛く立った寝癖を撫でて整えながら玄関のドアノブに手をかけた。
扉の先は阿鼻叫喚の地獄絵図。
逃げ惑う老人を長い髪を振り乱した女が喰らう。血塗れの若いサラリーマンの首を小学生ほどの子供がケタケタと嗤いながら振り回す。
肉が裂かれ、血飛沫が飛び、断末魔が上がる。
襲う側の人間はどれも肌がボロボロに崩れ、目は白濁し焦点があっておらず、腐った臭いを放つ、まるで映画やRPGゲームに出てくるゾンビのような様相をしていた。
「なんだよ……これは」
思わず漏らしてしまった呟きに一人のゾンビが振り向いた。
実際のところ本物のゾンビなのかは知る由もないが一応便宜上、彼ら襲う側の人間を『ゾンビ』と呼ぶことにする。
慌てて玄関の扉の陰に身を隠すも時すでに遅し。俺の姿を確認したゾンビはふらふらとした足取りで時たま大きくよろけながらもこちらへ着々と進んでくる。
逃げなければ……。でもどこへ逃げればいい?
さっきまであんなに聞こえていた逃げ惑う人々の叫び声が今は全く聞こえない。どこかへ逃げたのか、或いはゾンビたちの餌となったのか。
焦りながらも玄関の鍵を閉め、台所へ向かう。ドンドン!と玄関の扉が叩かれる音を背に、調理器具が仕舞われている棚から肉断ち包丁とキャンプ用に購入していたサバイバルナイフを引っ張り出した。
「あいつら殺したら殺人罪なんかで捕まるのかな……」
こんな事態でも相変わらず小心者な自分に自然と自嘲の笑みが浮かぶ。
こんな騒ぎだ。両親はおそらくここに帰ってくることは無いだろう。というか、ここで待っていたら一人で逃げろと叱責されるに違いない。
唯一の気掛かりはマイエンジェルでスーパーラブリーな妹だけだが、彼女も肝が太い。無事であることを祈るしか出来ないが、まあ大丈夫だろうな。
「武器は手に入れた。つっても接近されたら振るうまもなくやられちゃうかもだし……。交番行ったら銃とかあるかな?あるわけないか」
包丁もナイフも武器とするには心細い。特に包丁は直ぐに刃毀れし、使い物にならなくだろうことは容易に想像できる。一応肉断ち包丁だけどね。
だから、出来れば遠距離からゾンビどもを攻撃できる手段が欲しい。そうでなくとも槍のようなものがあれば……。
「ままならないもんだなぁ。確かに俺は人生に少しスパイスがあったらいいなぁなんて思ってたけど、これはスパイスどころじゃないから。最早ジョロキアだから。辛過ぎだから」
本日2度目の現実逃避。今日は本当に厄日だ。誰がこんなことになると思うだろう。こういうのは映画やゲームだから面白いのだ。なにが退屈しない日常だ! 命の危険があるなんて聞いてねーぞおい!
心の中で魂からの絶叫をするがゾンビが街のそこら中を跋扈する現実は変わらない。
台所に篭っていても、おそらく奴らはここを突き止めるだろう。集団で襲ってこられたら俺にはどうすることも出来ない。抵抗出来ずに死あるのみだ。
安全な場所を探さねば。
それには先ずこの街を脱出しなければならない。
ここに留まり、助けを待つのも手だが、もしゲームや映画のようにゾンビ化の原因が『ウイルス』によるものだった場合、最悪焼却処理なんてものがあるかもしれない。色々なことを想定してその上で行動を起こさねば一寸先は死の現状。
デッド・オア・アライブの選択肢、俺はこれを一つも間違えてはならない。
「生きて帰るぞ、俺はここから……!」
小声で叫ぶという器用なことを成し、リビングに置いてあった非常時用リュックセットを背負い、サバイバルナイフを片手に俺は再び玄関のドアノブに手を掛けた。




