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スペシャルアンソロジー「明日、世界が滅亡します」  作者: 世界崩壊アンソロジー企画
7/22

それでも俺は届けに行く 作:玉藻稲荷&土鍋ご飯

 アナウンサーという仕事は、生放送だ。本番一分前に突然に原稿が変わるという事もよくある。

 だが、この前代未聞の内容を読めというのか。顔を上げれば、ブースにいるはずのディレクターがカメラの横で真剣な顔をしてこちらを見詰めている。タイムキーパーが無情にも秒数をカウントし、私を促す。五、四、三、二、一……


『――こ、ここで、臨時ニュースをお伝えします』

『約二四時間後の明日朝八時ごろ、……地球はコアの崩壊と共に滅亡します』

『もう一度……繰り返します。明日朝八時ごろ、地球はコアの崩壊と共に滅亡します』



 アナウンサー生活二十年。こんなに慌てた事は無かった。俺は自分で読み上げておきながら、未だに内容を飲み込めずにいる。


「お疲れさん」


 ディレクターが声をかけてくるが、その憔悴しょうすいした顔は一時間前にガハガハ笑っていたのが嘘の様だ。


「さっきの原稿……」

「あぁ……ガチだわあれは。間違えねぇ」


 そう言って彼は、いつもの習慣で胸ポケットから煙草たばこを出そうとした。しかし、禁煙中で煙草を持っていないのを思い出したのか、その手を頼りなく空中で遊ばせながら呟いた。


「どうしたもんかな。今日の事も考えられねぇわ」




 その後の番組でも、局は当たり障りの無い出来事を集めたNEWSを流し、後はアニメやらヒーリング系の番組に差し替えた。俺はいつも通りに午前中で終わった仕事の後、さっさと家路についた。


 電車の中も、妙に静かだった。誰もが飲み込めていないのだろう。毎日が当たり前に続き、ぼやきながらも明日はいい事があるだろうかと、寝て起きて、出ていく日々が繰り返されると思っていただろうから。と、メールが。


[ねえ、本当に明日で無くなっちゃうの?]


 別れた妻からの久しぶりのメールに、肯定の返事を送ろうとして、俺は内容を変えた。




「久しぶり」

「ああ」


 こんな日でも、いやこんな日だからか、有名テーマパーク近くのショッピング街は賑わっていた。そこの近くにあるホテルのカフェで、元妻と合流する。


「正直……来るとは思って無かった」


 俺の言葉に、元妻は寂しげに笑いながらボソリと返す。


「最後だからね……」


 半信半疑……いや、もう信じている顔だ。明日で世界が終わるというのを。運ばれて来た珈琲こーひーも湯気が消えてきた。カフェ内を忙しく動きまわるウェイター。こんな日でも通常通りに働いているスタッフは、凄いなと正直に思う。


「ねぇ……あなたは今……誰か連れ合いはいるの?」

「こんな寂しい男に付き合うやつはいないさ」


 俺が肩をすくめるのを見てはにかむ様に笑う元妻。その笑い方が好きで、俺は傍にいて欲しかったんだよな。仕事が余りにも忙しくて、結婚した後にもすれ違いばかりで……。とそこへ突然の地震が。今日は小規模の地震が何度か発生していたが、今回のこれは一段と大きい。割れるカップ、飛び散る液体。叫び声が上がる中、俺は必死に元妻の方へ身体を投げ出すと、しっかりと抱き締める。


 揺れは一分近く続き、床に固定されている以外の椅子や机は酷い有様だ。店員が必死に声かけをしながら、お客を見て回っている。俺は自分の手の中で震えている元妻に声をかける。


「すまなかった。もっとお前を見ていられていたら、ずっと一緒だったかもしれない」


 その言葉に、またはにかむ様に笑った妻は、しっかりと俺の手を取る。


「じゃあ今からやり直しましょう。もう今日しか無いんだから」




   ***********




 眠る彼女にキスをして、俺はホテルを出た。まだ暗い世界の中、俺は俺に出来る事をしにいく。


『おはようございます。七時のNEWSです』


 いつもの様に、出来るだけいつもの様に、事実を伝える為に俺は声を出していく。そして、まもなく八時。スタジオ内も重苦しい気配に包まれる中、俺は大きく息を吐き出すとカメラに目線をしっかりと合わせ、これを聞いている人達に届く様に、思いを込めて声を紡ぐ。


『皆様、昨日の放送から約二十四時間が経過しました。世界が終わろうと、最期の瞬間まで、私達がここに生きていたという事を忘れないで下さい。私は、少なくとも私は幸せでありました』

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