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スペシャルアンソロジー「明日、世界が滅亡します」  作者: 世界崩壊アンソロジー企画
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ヒロイン、地球 作:空伏空人

「きみってさ、ニュースを見るほうだっけ?」

「見ないほう」

「なるほど、だからきみはそんなに馬鹿なんだね」

「のっけからヒドくないかお前!?」

 昨日のことだ。

 空が夕焼けに染まっていて、まだ、地面も震えていない頃。

 確か一緒に遊んだ帰り道だったと思う。

 今思い返してみても、結構急な話題だったと思う。

 結構急で、結構ヒドい言い草だったと思う。

 幼馴染はふむふむ、とあごに手を添えて何度かうなづいた。

 長い長い黒髪の女子だ。

 腰のあたりまで伸びている。

 創作の世界ではよく見かけるけど、まさか現実でみるとは思っていなかった。

 背丈は同じぐらいなのだけど、幼馴染の顔つきは中々どうして大人びていて、傍からみれば幼馴染の方が年上に見えるだろう。

 実際のところは……どうなんだろう。そういえば、歳を聞いたことがなかった気がする。

 ずっと一緒にいるから同い年だと思ってはいたんだけど、どうなんだろう。

 学校で見かけたことないんだよな。こいつ。

 制服は着ているのだから、引きこもりというわけではないと思うんだけど。


「ん、この制服は偽物だよ。やっぱりこれぐらいの歳の女の子が制服を着ていないのはおかしいと思ってね」

「…………」

 驚愕の事実だった。

 幼馴染は学生のふりをしている不登校児だった。

 そこまでするなら、学校に行けよもう。


「いやあ、一度は考えたんだけどね。学校に行くこと」

「いや、行けよ。行くか行かないか考えてないで行けよ」

「でも、学校で習うことってさ、全部見てきたんだよね。どれが間違っててどれが正しいのかも全部」

「話聞けよ」

「社会も科学も生物も数学も国語も英語も全部。誕生した瞬間から、今の今まで。あ、でもあれは面白かったな。副教科のあれ、縫うやつ」

「……被服?」

「そう、それ!」

 僕が眉をひそめながら尋ねると、幼馴染はポンと両手を叩いてから僕の顔を指さした。

 こいつは一体なにを言っているんだろう。

 全部見てきたって。

 そんなの人間の寿命の短さじゃあ、まず無理だろうに。

 まあ、いつもの適当な話だ。

 聞き流そう。


「やー、あれは知識として知っているだけの無意味さを思い知らされたね。やっぱり実地体験は大事だね。百聞は一見にしかずとはよく言ったものだよ」

 まあ、きみみたいに知識も足りないのは問題外だけどね、と幼馴染はくすくすと笑う。

 僕は。

「うるせ」

 とだけ言い返した。

 実際、こいつには勉強も知識も知恵も敵わない。

 学校行っていないくせに。

 塾とかには通っているのか?

 でも、全部見てきたんだよな……。

 いや、そんなのただの戯言(ざれごと)なんだろうけど。


「それで、なんの話だったっけ。ああ、そうそうニュースを見るか見ないかの話だったね。ねえ、どうしてきみはニュースを見ないの? バカなの?」

「一言余計だな」

 じろり、と幼馴染をにらむ。

 幼馴染は首を傾げたまま、僕の顔を覗きこむようにしていた。

 顔をしかめて、僕はそっぽを向く。

 やっぱり、こっち主導で話せないものだ。

「見たところでなあ。なにか見ないといけないような重要な話が流れるわけじゃあねえし。クラスメイトとの会話のネタにもならないし」

「なるほどねー。ニュースを雑談のネタ以下だと言いたいんだ」

「おかしいか?」

「いや、別に? 実際、県外で人が死んだ。とか、そんな話、きみには関係ないしね。きみには」

「お前には関係のある話なのか」

「あるよ、おおありだ。すべての事件は私と関係があると言っても過言ではないね」

「大げさすぎるだろ」

 意外にある胸を張りながら、ふふん。と鼻を鳴らす幼馴染を、僕は横目で睨んだ。

 相変わらずの大ぼら吹きである。

 真面目にとりあうのもアホらしい。


「でも、ニュースは見るべきだと思うよ。あれはあれで結構大事なものだし」

「見なくてもこうして生きていられるだろ」

「周りの人がニュースを見て生きてきて、そのおこぼれを貰ってるだけだよ。それは。例えばきみ、明日から消費税があがること知らないでしょ?」

「はあ!?」

「まあ、嘘だけど」

「嘘かよ」

「ほら、騙された。ニュース見てたら、引っかからないのに」

「うぐ」 

 そんなことを言われるとなにも言えなくなる。

 僕はぶっきらぼうに閉口する。

 幼馴染はカラカラと笑う。


「ね、ニュースは大事だろう。明日からニュースを見るべきだよ、きみは」

「……いや、分かったけどさ」

 けれど、このまま従うのもなんだかしゃくだったから言い返すことにした。

「どうしてそんなに僕にニュースを見せようと思ったんだよ」

「そりゃあ決まってるよ」

 幼馴染は答えた。

「明日、私がニュースにでるからだ」


***


 さて。

 次の日の――今日のニュースである。

 約束通り、朝起きてリモコンでテレビの電源をつける。

 テレビ画面にうつるニュースキャスターは慌てた様子で、しかしどこか諦めを含んだ口調で最初のニュースを読み上げた。


「本日は色々伝えるべきニュースがあったのですが、すべて無意味になったので、一つのニュースだけを伝えます。これを伝えて、本日のニュースは終わりです――今日の終わりに、地球が死ぬことが確定しました。今日が、地球の最後の日です」

 手から、リモコンが滑り落ちた。

 蓋が外れて、電池が落ちる。

 けれど、それを元に戻そうという気力は湧きあがらなかった。

 したところで、無意味だと分かってしまったからだ。


***


 ズン。

 ズズン。

 歩くのにちょっと面倒に思えるぐらいの揺れが不規則に多発する。

 まるで心臓の鼓動のようだ。

 だとすれば、あまりにも弱々しくて不規則すぎる。

 死にそうだ、というのも納得がいく。


 どうやら地球は今日で終わるらしい。

 地球が死んでしまうらしい。

 その事実が世界中に知れ渡ってから、数時間が過ぎた。

 正確に言えば四時間と三十分。

 意外と言えば意外かもしれないけど、街は静かだった。

 たまに頭がおかしくなってしまった人を見かけることはあるけれど、それぐらいだった。

 もっとこう、世紀末的な状況になるのではないかと想像していた分、なんだか肩透かしを喰らった気分だ。

 まあ、騒がしくないというのはありがたいことなんだけど。

 最期の日が暴動と暴走にまみれた状態だなんて、死んでもごめんだ。

 静かすぎるというのも、なんだかそれはそれで不気味だけど。

 死ぬまでにやり遂げておきたいことは、どんな人にだってあると思っていたのだけど。

 やり遂げたとしても、地球が終わってしまえば『やり遂げた事実』も消えてしまうから、無意味に思えてしまっているのだろうか。


 地球が終わる原因は『地球のコアの崩壊。それに伴う爆発』らしい。

 地球の終わりは爆発オチらしい。

 サイテー。

 まあ、空を見上げて見れば、地球が終わるなんてお構い無しだと言わんばかりに青々とした空が広がっていて、隕石が落ちるから地球は終わるとか、そういうことではないのだな。ということだけははっきりとした。

 隕石が落ちてきたりUFOが襲来する様子は全くない。

 ただ、茶色い紙片がパラパラと落ちてきていた。

 その紙片には真ん中に黄色い円が描かれていて、その隣には誰かおっさんの肖像画がついている。

 あっさり言ってしまえば、かねだ。

 紙幣だ。

 少し首を動かしてみれば、近くの建物の屋上で銀色のアタッシュケースを笑いながら振り回している人が目に入った。

 どうやらあの人がまき散らしているらしい。

 それをとがめる人はいなかった。

 それを拾う人もいなかった。

 今更お金を手に入れたところで、得があるわけでもないし。

 地面に落ちている金を誰も拾うことなく、足跡が増えていく光景を見ると、ある種の終末を見ているような気分になった。

 きっと、彼らにはもう紙幣は必要ないのだろう。

 地球が終わる日。最後にやり遂げておきたいことは誰にでもあるはずだ。

 彼らにとって、それをやり遂げるのにこの紙幣は必要ないのだ。

 それか、やり遂げたから必要がなくなったのか。

 いらない。必要ない。意味がない。

 もう、やるべきことは見つけて済ませたから。

 地面に散らばる紙幣をよけながら、僕は街の中を散策する。

 目当ての彼女は、十分もしないうちに見つかった。


「まるで葬式だね。この静かさは」


 誰もいなくなった道のど真ん中に彼女は立っていた。

 横断歩道の真ん中。とも言える。

 車側の信号は青。

 歩行者側の信号は赤。

 いつもなら立った瞬間に車にかれておじゃんになってしまいそうな場所と状況だけれども、面白いぐらい車がはしっていないから、その心配は無用の長物なのだろう。


「酷い話だよ。私はまだ死んでいないっていうのに。なんだい、生前葬式かい。ただのイジメだろう、それ」

 ズン。

 ズズン。

 また、地面が震えた。

 今度はさっきよりも強く。


「……危ねえぞ、そんなところにいたら」

 僕はそう、幼馴染に声をかけた。

 そう言えば、こいつと初めて会ったのは、いつだったっけ。

 幼馴染は僕の方に首を向けると白い歯を見せつけるように笑った。


「大丈夫だよ。この道を車が通るのは、あと六分と二十六秒後だから」

「なんで分かるんだよ」

「私の上だからね。どこでも見えるし、なんでも分かるよ」

「…………」

「冗談冗談。こんな地震の中で車を走らせようっていうバカはいないよ」

 正直言えば後者の方が普通にありえそうな理由だった。

 こいつはいつも、そんな適当な理由で危険なこともふざけたこともしてのけた。

 危なげもなく、いつも上手くいっていた。

 むしろ、それを止めようとした僕が危ない目にあって先生や親に怒られたりしたものだ。

 怒る先生と親の後ろで、口に手を添えて音をださないように笑っている幼馴染を見るたびに、僕は内心『こいつ、いつか酷い目にあえばいいのに』とか思ったりしたものだった。

 その度。

「私が酷い目に会うのはね、そうだね、この世が終わるまでありえないかな」

 とか自信満々に返されたのだった。

 当たり前のように心を読まれていた。

 僕の心はそんなにも読みやすいのだろうか。


「ほらほら、きみもこっちにおいでよ。こんなところに立っても怒られないなんて、世界が終わるときぐらいしかないんだからさ」

「…………」

 手招きしてくる幼馴染に僕は無言で頷いて横断歩道を歩いた。

 その時には歩行者側の信号は青になっていた。

 人がいないというのに、律儀な働き物である。


「ニュースは見ただろ?」

 見たかい? とか、見てくれた? とかじゃなくて、見た。

 断定だった。

 まるでどこかからか見ていたかのような口ぶりだった。

 僕の家を覗き込んだりしていたのか?


「落としたリモコンの電池ぐらいは戻しておこうよ」

「お前、ホントにどこから見てたんだよ」

「どこからでも見れるよ。それで、ニュース見たんだろう?」

「見たよ。今日で地球が終わるんだって?」

「そうだよ。まあ、惑星にも寿命があるっていうことなのかもしれないね」

 だとすれば短い命だった。短すぎる気もするね、と幼馴染は呟く。

「なあ」

「なんだい?」

 幼馴染の首を傾げたその表情は、次に僕がなにを言おうとしているのか理解しているかのようだった。

 実際僕は、彼女が想像しただろう言葉を、想像通りに口にする。


「どうして、僕なんだ?」

「んー。どうしてかな」

 幼馴染は悩むようにあごに手を添えて、空をあおいだ。

 悩んでいるというより、悩んでいる素振りをしているだけ。のような。

 悩む仕草を楽しんでいる。という感じである。

 または、答えを待っている僕を楽しんでいる。

 ……。

 後者なんだろうなあ、こいつの場合。


「まあ、適当だよ」

 悩んだマネをした末、幼馴染は答えた。

「私にとっては皆が幼馴染みたいなものだからね。ほら、幼馴染って幼い頃から近くにいた人のことを言うんでしょう? だったら私は、皆が産まれた時から近くにいる。一緒にいる」

「スケールのデカい幼馴染だな」

「でも定義的には間違ってないでしょう?」

「話したことのないやつは幼馴染とは言えない。昔住んでたマンションの隣の部屋には同世代の女子がいたらしいけど、話したことがないから幼馴染とは言えないだろう?」

「ふむ、確かにそうだ。じゃあ、私の幼馴染はきみだけかな?」

「僕はお前が産まれた時には産まれてねえよ」

「私が産まれた時はそもそも他に生命なんてなかったんだけど。なに、私天涯孤独?」

 寂しいなあ、と幼馴染は口を尖らせた。


「そう、寂しかったんだ」

 と、幼馴染は思いだしたように呟いた。

「退屈だった。と言ってもいい」

「お前が?」

「私が。考えてもみてよ。四十五億年だ。私が産まれてから。さすがに、話し相手が月だけじゃあ飽きちゃうよ。あ、そういえば私がいなくなった後、月ってどうなるんだろう。考えたことがなかったな」

「だから、僕の前に現れた。と?」

「うん、暇だなー。と思った時、ちょうどきみが産まれたんだ。だから、きみと話すことにした」

「世界では一秒に四人産まれるって聞いたことがあるけど、その中からどうして僕を選んだんだ?」

「統計でしょ、それ。きみは別に量産品じゃあないでしょ」

「まあ、確かに」

「オーダーメイドの量産品でしょ」

「ひでえな」

「間違ってはないでしょ?」

「……じゃあなんだ。お前が暇だと思ったとき、産まれたのは僕だけだったってことか?」

「うん、私が暇だと思ったその一瞬で産まれたのはきみだけだった」

 だから私《地球意思》は、きみの前に現れた。

 幼馴染は言った。

 つまり。


「暇だと思ったとき、丁度産まれたから僕の前に現れただけで、そこに意味はない」

「そうだね」

「僕が選ばれたのではなくて、偶然僕がそこにいただけだ」

「そうだね」

「そうか」

「まあ、あの時産まれたのがきみでよかったよ。この数年間、暇だから月の石の数とか数えていた時に比べたら、とてもとても楽しかったよ」

「そんな壮大な暇つぶしと比べられても喜んでいいのか分からねえよ」

 そう。

 結局のところ、これは幼馴染の壮大すぎる暇潰しなのだ。

 それに、たまたま、僕がつきあう羽目になった。

 決して、僕である必要はないし、僕である意味はない。

 ズズン。

 ズズズン。

 今まで一番大きな揺れだ。

 僕は思わずよろめいたけれど、幼馴染はよろめくこともなかった。

 自分の震えに、自分が影響をうけるはずもなく。

 幼馴染は空を仰ぎみる。


「うん、そろそろ終わりかな。最期にきみと話せてよかったよ。これは嘘じゃないよ? というか、私は今まで嘘をついたことがあったかな?」

「なかったよ。どんな嘘っぽいことも、全部ホントだった」

「当然だよ、私に分からないことなんて、一つもないんだから」

 えへん。

 幼馴染は胸をはった。

 本当だろうか。


「ホントに、分からないことは一つもないのか?」

「もちろんだよ。なんせ、ここは私の上なんだから。ああ、だから逆を言えば宇宙のことについては私も分からないことが多いよ。まあ、宇宙の神秘ってやつだね」

「じゃあ」

 じゃあ。と僕は言った。

 なんだか女々しいな、と思いながら。


「僕がお前のことを好きだってことも、知っているのか?」


「そりゃあ」

 きょとんとした表情で、幼馴染は小首を傾げる。

「もちろん、知ってるよ?」

 幼馴染は答えた。

 恥ずかしげもなく、迷いもなく。

 まるで、小説にでてくるキャラクターの設定を読み上げるように。

 『AくんはBちゃんが好きです』と言うような気軽さで。

 答えた。

 いや。

 彼女からしてみれば、実際そういうものなのだろう。

 そういう感覚なのだろう。

 壮大すぎて。

 次元が違いすぎて。

 ステージが違いすぎて。

 分からない。

 理解しえない。

 壮大すぎる彼女には、ちっぽけな僕らはどれもおんなじで、分からない。


 そんなの。

 なんていうか。

 すげー。

 ムカつく。

 腹が立つ。


「ふっざけんなよ」

「なにが?」

「なにがってなんだよ、なんでも分かるんだろ。じゃあ僕が怒っている理由も分かるだろ」

「うん、分かるよ?」

 それはもちろん。

 字面だけだろうけど。


「僕はなあ、すぐ人のことをバカにして、おふざけ半分で見下して、なんでも知ってる素振りをみせて、実際なんでも知ってて、けど、たまーに『どうしてこんなこともできないのだろう』みたいなことができなかったりするお前のことがかわいいなあ、とか思ってたりするんだよ」

「知ってる」

「いいや、知ってないね。分かってないね。理解してないね」

「む、きみにバカにされるとなんだか腹が立つね」

「おお、そうだよ。お前はバカだよ。僕が生まれてからずっと人と一緒にいて、僕と一緒にいて、それでも理解できないことの方が多いなんてよ、僕より学習能力が低いってことだろ」

「ん? それはどうなんだろう」

「僕にだって理解できるぞ、この気持ち」

「どんな気持ち?」

「お前のことを――森ノ宮(もりのみや)藤乃ふじのを独り占めにしたい気持ち」

「…………」

 森ノ宮は、驚いたように目を見開いた。

 パチパチと何度か瞬く。


「私を、独り占めしたい気持ち?」

「独占したい気持ち」

「私を?」

「やっぱり分かってなかったな。やっぱ、お前の方がバカだってことだよ」

「私を?」

 森ノ宮はまだ瞬いている。

 訳が分からないとでも言うように。


「私を独占したいって、つまりきみは世界征服をしたいっていうこと?」

「いや、ニュアンス違う気がする。僕は森ノ宮を独占したいのであって、世界を独占したいわけじゃあない」

「……ふうん、ふうん、ふうん、ふうん」

 森ノ宮は、少し悩むように口に手を添えていたけれど、ふとなにかにとり憑かれたように口元を歪めて、笑いはじめた。


「なるほど、なるほど。つまり、じゃあ、きみは『我らの愛すべき地球を守ろう!』っていう人に対して、『我らのじゃねえ! 僕のだ!』と言い張れると言いたいわけだ」

「言える。一緒に死んでだってやれる」

「私がいなかったら、きみたちは死んじゃうでしょう」

「そうだな、お前がいない世界は想像できない」

 僕は一歩森ノ宮に近づく。

 『くしゃっ』となにかを踏んだ音が足元から聞こえた。


「僕は、お前とずっと一緒にいたいし一緒にいなくなりたい」

「だから、当たり前だろう。それは」

 森ノ宮は白い歯を見せるように笑った。

 おかしそうに。

 たのしそうに。

 うれしそうに。


「やっぱりバカだね。きみは」

「……前から思ってたんだけどさ」

「なんだい?」

「きみっていう呼びかた、あんまり好きじゃあない。僕の名前は」

相内あいうちすがめだろ?」

「覚えてるのかよ」

「当然。私に知らないことはないんだから」

 笑う森ノ宮に、僕は嘆息たんそくする。

 世界が終わるまで――森ノ宮が死んで、僕も死ぬまであと半日ぐらい。

 その間、この笑顔が消えないように頑張るようにしよう。

 僕が最期にできることは、きっとそれぐらいだけだから。

 足元をちらりと見た。

 僕の靴は、どこからか飛んできた紙幣を踏んづけていた。

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