プロローグ
日常から脱したいと願う。
非日常に身を投じたいと望む。
非日常も結局は日常の一部だ、なんて戯言を言われても僕は納得しない。退屈を消費するだけの毎日には飽き飽きしているのだ。
漫画みたいな人生に皆が憧れるのは、皆漫画が大好きだからだ。空から女の子が降ってきて欲しいからだし、曲がり角で転校生の男の子とぶつかりたいからだ。
時々、僕は今自分が朝食のパンをかじってる瞬間に、世界中の他の人間は何をしてるんだろうと思ったりする。ぐっすり眠っている子供が居れば、それを撃ち殺さんとする大人だっているに違いない。七〇億人が七〇億通りの行動をしているのだろう。
僕が生きても生きなくても皆は生きる。自分がいてもいなくても地球は回る。それぞれの為すべきこと、為したいことをする。だから僕は生きようが死のうが関係ない。目の前のテレビの中で喋ってる男性アナウンサーは、僕が今リビングで死のうとも不特定多数に向かってニュースを届け続けるのだろう。
朝一番から何故こんなにも自分は後ろ向きなのだろう。精神科に一度診てもらった方がいいのかもしれない。
「そろそろ出ないと遅れるわよ!」
母さんが僕にぴしゃりと声を荒げるのを聞いて、僕はテレビ画面の時刻表示に目をやった。もう八時をとっくに回っていた。
物思いに更けるのも諦めて、そろそろ日常に――学校に向かわなくちゃいけない。
「ごちそうさまでした」
僕は机に皿を放置して席を立った。
しかし、ここで僕の足を止めたのは、アナウンサーの声だった。
『――こ、ここで、臨時ニュースをお伝えします』
明らかに様子が変だった。噛むだけならまだしも、さっきまで平然とニュースを読んでいたアナウンサーが声を震わせて青ざめているのだ。
『テレビの前の皆さま、落ち着いてお聞きください――』
お前が落ち着いてないじゃんよ。
びくびくとするアナウンサーに心中で呆れながらも、僕の視線はテレビに釘付けになる。
『約二四時間後の明日朝八時ごろ、……地球はコアの崩壊とともに滅亡します』
……今何言ったんだこいつ?
『もう一度……繰り返します。明日朝八時ごろ、地球はコアの崩壊とともに滅亡します』
繰り返されるアナウンサーの声が、頭にまるで馴染まない。
目を見開いた自分の全身が震えるのを感じる。
思いもしなかった非日常が全員に平等に訪れる。
それは世界の終わり。
残された――たった一日。
参加者も受け付けております!詳しくは私の活動報告へ!