8/28
多勢に無勢
養和元年正月
戦禍の責を問われ、
東大寺、興福寺の責任者は、
位階を剥奪されて多くの荒法師は捕らえられた。
また寺の所持する荘園も取り上げられ、
「無念なる哉」
「入道め覚えておれ。」
寺は糧食の道を閉ざされた。
畿内、伊賀、伊勢、丹波の地は
前権大納言平宗盛の管領となった。
二十ハ日源行家、蜂起する。
一千のの兵を集めて尾張に向かう。
東国の細い街道も人、人と連なって。
厳寒の野原を粛々と行く。
交通の未発達な時代
どのようにして情報が伝わったか計り知れないもの。
遥かに離れた上方にも
喫緊の知らせは伝わった。
その報を受けて坂東の田舎武者に遅れを取るな。
二月に入れば平家は平知盛、通盛、清経、忠度、
競いて行家を押し破る勢いであった。
「我こそは、何の某の家臣某成り。」
「問答無用。」
「弓を弾け。」
「引くな~。」
「返せ〜。」
「押せ押せ~。」
源平入り乱れるも、多勢に無勢。
強か者の行家も敵わなかった。