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誰か頼朝を討たん
近江以東の諸氏はこの時とばかりに蜂起した。
東海、東山、北陸に勅が下った。
「いざ、誰か頼朝を討たん。」
十一日、新都落慶するに使御行わる。
されど平氏の政事治まらず。二十三日、
清盛心ならずも旧都に還す事を決める。
その頃、熊野、那智にて度々大地が揺れる。
民草の心は益々治世者から離れて行った。
朝廷は仁王會を太政官廳にて執り行われ、
大亂の鎮まる事を祈った。
多くの将士を糾合しては東国へ遣わされた。
平知盛、資盛、清綱、知盛、等々近江で闘い勝ちを修めた。
さてその頃延暦寺、園城寺の僧徒はみちのくで挙兵した頼朝の弟、
義経に呼応したと云う事で平清房に掃討を命じた。
二十八日の夜、古都の空は紅蓮に輝いた。
「火事だ〜。」
「恐ろしや。」
古都の辻々は黒山の人だかりがあふれて居た。「退け退けっ。」
赤鬼のような顔をした六波羅の役人共が、人垣を蹴破って行く。
「東大寺さまじゃ」
「ありゃ、興福寺さまじゃ。」
「もったいない、もったいない」
「罰当たりめ。」
どうにも仕様がなかろうが。
只只、人々は行く末を見守るしか無かった。