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時は至れり
臥龍いよいよ目覚むる時は来た。
赤ら顔の大男が云った。
「かっはっはっは。お館様、
いよいよ我が源氏党の時代で御座りまする。」
すると頼朝は鋭い言葉で諌めた。
「早まるな。」
男は真っ赤な顔を青ざめさせ押し黙った。
「時は移った。だが慌てるでない。」
かと云って未だ自分の存念を
みだりに目下に明かす事でもない。
にも関わらず
粗末な仮の配所には、
知らせを受けた源氏党が一人二人と集まり始めた。
突然、裏手から馬のいななきが聞こえた。
「ほっほっほ。坂東侍の気が早い事よ。」
「殿、殿、殿はお出でか。」
当主の頼朝は苦笑いするしか無かった。
長い平家の圧政に
堪え兼ねたか
源氏党の若者も
老いたる者も
此の時とばかりに
若い宗主を尋ねてきた。
一人静かに虚空を見つめた頼朝の目には
何かが見えたので有ろうか。
東の空に黒い雲が気になったか、
「雨じゃ。」
某か小者達に
指令を伝えた。