プロローグ
こんにちわ、そして初めまして、異世界SF物が初投稿となりました。
まだまだ不慣れな部分がありますが、感想など頂けると幸いです。
恋愛要素はありますが、ハーレム、逆ハーレム展開は在りません。パッピーエンドは期待しないでください。これはそういう物語です。
空は何処までも広く、澄みきった青を彩る白もい。
水平線の彼方には赤い山脈。
赤茶けた大地に横たわる都市の残影。
そんな情景が広がる世界の中で、ぽつんとひとつ異物があった。
それはセーラー服姿の女子高生―――。
手荷物といえば、某有名ドーナツ店の小さなロゴ入り紙袋がひとつきり、乾いた風が土埃を舞いあげ、飾り気のないローファーの靴をうっすらと白く汚していく。
陽炎立ち昇る、枯れ果てた大地に立ち、彼女はひとり途方に暮れていた。
「あはははははは・・・・空が青いっすねー暑いっすね・・・ここ何処っすか・・」
立ち尽くす女子高生、大鳥つかさは泣きそうだった。
近くに誰もいない。それは真っ先に確認した。
そもそも吹き抜ける風の音ぐらいしか聞こえてこない。
「変なカードもスイッチも触れてない?…はず? 魔法陣?異世界から召還とか・・ダメダメ、しっかりするっすっ!
現実と妄想がごちゃごちゃになってるっすよ、しっかりするっす・・しっかり、夢、そう夢っすよきっと」
何度思い返しても、ツカサはここにいる理由がわからない。
学校の帰りにいつもの店で、好物のドーナツを買い店を出たら此処にいた。
振り返っても、当然ながら店はない。
ツカサからすれば、誰でもいいから説明しろーっと叫びたい所だろう。
あまりの暑さにボーっとなる頭を振り、ハーフアップの髪をまとめたパレッタを外したい。
そんな誘惑も、毎朝セットに手こずる癖毛をまとめ直す労苦を考えると、外すのをためらってしまう。
指先に当たるバレッタが熱い。
日本のじめっとした暑さではなく、カラっとした熱さ鉄板の上で目玉焼きが作れそうな輻射熱が肌を焼く。
ツカサは胸元を緩め、岩場の作る日陰に逃げ込んだ。
そこは日向に比べるとほどよく涼しかった。
ようやく一息つけたツカサは、胸に抱いた紙袋から買い付けたばかりのドーナツにかぶりつく。
「・・・・うん、甘い」
口いっぱいに広がる甘い味。
いつも食べている定番の溶けかけたチョコレートの甘味に思わず涙が溢れる。
「・・・・・泣くなっ、ツカサしっかりするっす。悲劇のヒロインぶっても誰も助けてくれないっすよ。いつだって自分を助けるのは自分だけっす」
自分に言い聞かせ、ツカサは右を見る―――。
荒野は地平線の先まで広がり、遠くの空に鳥が飛んでいる。
ツカサは左を見る―――。
何処までも続く赤茶けた地平線、陽炎に歪むビルらしき構造物。当然カメラらしきものは見つからない。
「やっぱり夢じゃないっすね」
指に残ったチョコをぺろりと舐めとり、ぎゅっと頬を抓ってみる。
「むむむむっ痛くない。でも・・リアルっす、まちがいない、ここはリアルな現実っす」
人の行き交う街中の雑踏から荒涼とした別天地へ、訳も分からず放り込まれたツカサのとった異世界での最初の一歩は―――。
「リアル異世界キタああぁぁぁぁ――――!!!」
――声の続く限り叫ぶことだった。
胸に溢れる弱気を吹き飛ばし、立ち向かう意志を奮い立たせる、無意味でとても大切な儀式。
負けるもんかって、ツカサは全力で吠えた。
ツカサの叫びに答えるように、遠くで爆音が響く。
「効果音ありがとー・・・て、そんなわけな――」
ひとりボケツッコミの途中で聞こえた―――
―――シュル、シュルルル、シュル―――
低くそして耳障りな音。
地面に映る岩影が、異常に伸び上がり揺れていた。
そっと背後を見たツカサの目前に、真っ赤な口――
「ひゃあっ」
――バクンッと閉じる。
「トトトトトカゲ、でかいトカゲ――キングリザード? あ、コモドオオトカゲは人も襲うってきいたことあるっすから・・・・」
溢れだす無駄知識。
緊張と混乱に強ばる身体。
定番といえば定番のイベントである。しかし、こういうテンプレはいらない。ツカサは心からそう思った。
ツカサはゆっくりと後ろに下がる。
灰色六目トカゲは、5メートル近い巨体と強靭な四肢。固そうな外皮。どう考えてもコモドオオトカゲより強く大きく獰猛そうだった。
「こいつ、喰うっすね。いまリアル喰おうとしたっすね」
結論の重さにゴクリと喉がなる。
ツカサは溢れてくるムダ知識を振り払い、灰色のデカトカゲを刺激しないように、さらにゆっくりと離れる。
一度は襲ってきたものの、大トカゲはドーナツに興味があるのか、彼女の落とした紙袋に、チロチロと舌を当てている。
トカゲの思考など分かりたくもないが、ツカサはその隙に、どんどん離れる。
同時に観察する事も忘れない。
全体像こそトカゲに見えるが、その頭部、爬虫類より昆虫に近い複眼が異様だった。
灰色大トカゲが大きく口を開けた瞬間、ツカサは反転して猛ダッシュ。
紙袋ごとドーナツを呑みこみ咀嚼し終えると、逃げるツカサを追ってトカゲも走る。
「アトラクションでもこれはイヤヤヤャャ――――」
トカゲは早く、ツカサは無惨なほど遅かった。
躓いて転んだツカサを逃した爪が、スカートを軽々と引き裂いていく。
その鋭さに怯え、ツカサは立ち上がることができない。
「あうあうあうう―――」
ずり下がる背中に当たる岩肌。
――シュルリ シュルリ シュルリ―――。
灰色トカゲの口元。
出し入れする細長い舌の擦過音、あるいは威嚇音。
感情の読めない不気味な複眼で、狩り慣れた捕食者は獲物を追い詰める。
ツカサは動けない。
走馬燈のように頭によぎる自室に隠したやばい物の数々。それが衆目に晒される恐怖に身体が動いた。
ドガッ!!
転がるツカサの横を突き抜け、突進した大蜥蜴は地面から突きだした岩に激突し、カラカラと砕けた岩の破片が転がり落ちる。
――刹那の静寂――
僅かな望みを抱くツカサの目前で、灰色トカゲは何事もなかったように、岩肌に前肢をひっかけグルリと頭だけツカサに向けた。
――シュル シュルルル――
独特の擦過音が響く。
逃げ切れない、そう悟ったツカサの手が岩片に触れた。それは、ツカサでも片手で持ち上がるぐらいの心許ない重さだったが、いい具合に先端がとがっていて、刺さりそうだった。
ゴクリと喉が鳴る。
どうにかなりそうな緊張と危機感。
早鐘のように鳴る心音。
他に武器になりそうなものは見つからない。
なら、もうやるしかない。
「負けないッスよ」
ツカサの手は石塊を握り締める。