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終章『終端、夢の実現は遙か遠く』

 目を覚ますと、今日も今日とてライカが胸にしがみついていた。

 ねっとりと涎を垂らしている姿はダメダメな感じだ。

 けれど、無防備な寝顔を見ていると、色々と刺激されてしまうから困ったもんである。

 選考会から一ヶ月半……学園は休校状態だった。

 レドリック・クロフォードを筆頭に十名以上の教師が退職したせいだ。

 彼は教師の立場を利用して様々な不正に手を染めていたらしい。

 今更と言う感じがしないでもないのだけど、その余波は学園の上層部を含めた粛正劇へと発展し、一ヶ月半の休校を余儀なくされたと言う訳である。

 そのお陰でライカが入学式に参加できるのだから悪いことばかりじゃない。

「シャワーを浴びる時間は……ないよな、流石に」

 溜息を吐き、ヴェルナは涎で濡れたシャツを脱ぎ捨てた。

 濡れたブラジャーを替え、制服に着替える。

「むぅ、むぅぅぅぅ……はっ」

 がばっ! とライカが跳ね起きる。

「おはよう。待ちに待った入学式なんだから早く着替えてきな」

「うむ、今日は入学式だったな」

 本当に分かっているのか、ライカは酔っぱらいのような千鳥足で部屋を出て行った。

 ヴェルナは溜息を吐き、リビングへ。

「おはようございます、ヴェルナ様」

「おはよう」

 ヴェルナはイエルから恭しく差し出されたグラスを受け取る。

 グラスに満たされたイエル特製の野菜ジュースをヴェルナは一気に飲み干す。

 ヴェルナが玄関でブーツの紐を結んでいると、バタバタ廊下から音が響いた。

「どうだ、ヴェルナ?」

 頼んでもいないのにライカはその場で一回転。

 フリル付きのショーツを惜しげもなく晒してくれた。

「もう少し子どもっぽい下着の方が良いんじゃね?」

「だ、誰が下着の感想を聞かせろと!」

「そろそろ行くか」

 ドアを開くと温かな空気が流れ込んで来た。



「そう言えば、ヴェルナはアッシュと付き合っているのだったな?」

「いきなり何だよ」

 そんな質問をライカがしたのは川沿いの道を歩いている時だった。

「二人の関係は何処まで進んでいるのだ?」

「朝から何を言ってんの、お前?」

「あれから一ヶ月半、かなり進展しても不思議ではないと思うのだ」

 かなり進展しなきゃならないのか、とヴェルナは動揺した。

 べろチュー止まりだが、進んでいないと答えるのは何となく悔しい。

「激しく進展したぜ」

「そ、そんなに激しく進展しているとは」

 色々なものを裏切っているような感じがして居たたまれない。

「ぐ、具体的に何処まで進んだのだ?」

「大人への階段を駆け上がった、って感じだな」

「……私は全く進展がないとばかり思っていたのだが」

 ヴェルナはライカから目を逸らした。

 今更、嘘とは言えない。

 多分、イエルに聞けば具体的な知識を教えてくれるだろう。

「あら、ヴェルナさん。き「無視するぞ」」

 声を掛けてきたセシルを華麗にスルー、ライカの手を引いて先を急ぐ。

 セシルは猛スピードでヴェルナとライカを追い抜いた。

「ヴェルナさん、奇遇ですわね?」

「奇遇って、お前の家って南地区じゃん」

 こいつは何を言ってんだ、とヴェルナはセシルを眺める。

「き、奇遇ですわね?」

「もう奇遇で良いよ、奇遇で。で、何か用事か?」

「用事がなければ話しかけてはいけませんの!」

「わざわざ北地区に来てんだから用事があるって考えた方が自然だろ!」

 どうして、こいつは逆ギレしてるんだろ? とヴェルナは天を仰いだ。

「ヴェルナ、行くぞ!」

「お待ちなさい!」

 セシルは超スピードで回り込み、チラチラとヴェルナに意味ありげな視線を向けた。

「もしかして、一緒に登校したいのか?」

「こ、侯爵令嬢である私がそんな子どもみたいなマネ。け、けれど、ヴェルナさんが一緒に登校したいと言うのなら一緒に登校して上げても宜しくてよ」

 ツンと顔を背けるセシルに、ヴェルナは悲しい気持ちで一杯だった。

 主席になるくらい頭が良かったのに残念な結果になってしまった。

「待て、そいつと登校することはまかりならん」

「時代がかった言い方だな」

 ヴェルナはライカの両肩に手を置き、

「セシルはな、あの一件でアレになっちまったんだよ。せめて、事情を知ってるあたし達くらい優しくしてやらねえと可哀想だろ?」

「誰がアレになったんですの?」

 ヴェルナはセシルを見つめ、

「自覚がねえのか、深刻だな」

「随分と好き勝手に仰いますわね! 私は、ヴェルナさんと一緒に登校したかっただけですわ!」

「最初からそう言えよ」

「待て、ヴェルナ! 私は一緒に登校するのを認めないぞ!」

「一緒に登校しても良いじゃん。お前だって、半殺しにされて目を覚ました時に涙ながらにセシルを救えなかったとか言ってたしさ」

「それはそれ、これはこれだ! 半殺しにされて笑って許せるほど私の心は広くない!」

「謝罪と賠償の件は二人で話し合えよ。走らないと遅刻しちまうぞ」

 ヴェルナはライカを担ぎ上げ、思いっきり地面を蹴る。

 流石に人間を担いで走るのはしんどいので、魔力圏を形成して身体能力を引き上げる。

「いきなり走り出すなんて酷いですわ!」

「走らないと遅刻するって言っただろ?」

 セシルと並走し、スピードを上げる。

 セシルも一ヶ月近く入院していたのだが、ブランクを感じさせない走りぶりだ。

 商店街を通り過ぎ、興奮した面持ちの新入生を追い抜く。

「セシル、今年から実力ごとのクラス分けになったらしいぜ」

「ええ、知っていますわ。上からAからFに分けて……そう言えば、アッシュ先生がFクラスの担当と小耳に挟みましたけど」

「クラス担任なんて大出世じゃん」

「Fクラスは個性的な学生が集まっているようですし、厄介事を押しつけられただけではなくて?」

「ほぅ、ヴェルナは自分の男が出世して嬉しいか?」

「やはり、節度なんて口だけ……」

 ライカが悲しそうに、

「ヴェルナは大人への階段を登ってしまったのだ」

「たった一ヶ月半で? 不潔ですわ!」

「不潔じゃなくて、純愛だよ!」

 けど、アッシュ先生は割と不純で不潔かも知れない。

「ふふふ、今日から私の栄光の日々が始まるのだな」

「期待しない方が良いんじゃね」

「何を言うか! た、多分、私はAクラスだ。筆記試験も、魔術もトップクラスだぞ!」

 体力関係はぶっちぎりで最下位そうじゃん、とヴェルナは心の中で突っ込む。

 微妙に自信がなさそうな所がライカらしいと言えばライカらしい。

「クラスの方は後で確かめるとして……これからもよろしく頼むぜ、相棒」

「うむ、任せておけ!」

「良い返事だ!」

 笑みを浮かべ、ヴェルナは全速力で駆け抜けた。

初めまして、サイトウと申します。

『精霊騎士ヴェルナ』を読んで頂き、誠にありがとうございます。

この小説は某社の新人賞に投稿し、二次審査で落選した小説が元になっています。

自分の力不足は分かっていますが、それでも、多くの人に読んで欲しい!

その一心で、こちらに掲載しました。

最後に、繰り返しになってしまいますが、

この小説を最後まで読んで頂き、ありがとうございます!


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