4―4.続・空色の携帯電話
夢を諦めるな。
頑張って叶えてみろ。
諦めんのは、それからでも遅くねぇ。
―――――
高校―昼休み
姉きは来なかった。二時間目から今の時間まで待ち続けたってのに。
なんか用事があったんだろうな。
にしても、こんな早くケータイの持ち主が見付かるなんてびっくりだ。
いや、普通なら持ち主から電話が来て見付かったーみてぇな展開だろ。
それが、たまたま姉きの知り合いでたまたまケータイの話題が出たんだよな。
どんだけ奇跡だ。
「シュウヤ、来たよ」
「おお、姉き」
と、ここで数時間前のデジャヴよろしく姉きが教室に入って来た。
「さ、早く行こ」
「行くって……どこに」
「決まってるでしょ。持ち主の所に」
「は、今から?」
それなら、前の休み時間の内に行っちまえば良かったじゃんかYO! なんてツッコミはゴミ箱をクリックして捨てた。
とにもかくにも、ようやくオレのポケットから金持ち気分が抜けるわけだ。
取り合えず、昼休みなら三分のカップラーメンが十個出来る程にある。
まあ、最近は五分とかいうインスタントの定義をぶっ壊したカップが……って、そんな事はどうでも良いっつの。
「何でオレもなんだ?」
「だって、落とし物を拾った人は持ち主に届けるのが礼儀でしょ」
「いや、交番じゃねぇんだから」
雲行きが怪しい。オレはてっきりケータイ預かり係だと思ってた。
「そもそも、ケータイを預かっててあげようって言い始めたのは姉きだろ?」
「でも、間違いじゃ無いよ」
「何が」
「ほら、窓の外」
姉きが指差した景色は、降雨と言う名の自然現象によって濡らされていた。
「置いてたらどうなってた?」
「……壊れてました」
なんつータイミング良しの雨。
それもあるけど、あの晴れ模様から雨が降るって予想した姉貴は一体何者だよ。
ノで始まる予言者かぃ。
「さ。早く行こ」
「……何か悔しい」
小さく呟きつつ、また時間が無くなんのは勘弁だとばかりに椅子から立つ。
「あ、それから一つ」
「何だ?」
「くれぐれも驚かないでね」
笑顔を浮かべ、姉きは言った。
それは、さながら無邪気な子供が小動物を見つけた様な笑顔だった。
「……怖いんですが」
「ま、良いから」
むしろ最悪の展開だ。
結局、ここまで来て姉きの軽いイタズラでしたーなんて事は絶対にねぇ。
だから、余計に恐ろしい。
ここまで手の込んだ、前置きの長いイタズラは姉きの性格上ナッシング。
姉きは、本当に退屈で気が向いた時にしかイタズラを仕掛けて来ねぇ。
「……どこ行くんだ?」
「良いから、付いて来て」
もはや捕われたタヌキ状態。
有無を言えず、オレは姉きに連れられるがまま自分の教室を後にした。
―――――
昼休み―体育館
着いたのは体育館。って……何で携帯渡すだけなのにこんなトコ来んだよ。
さすがと言うか、授業が終わった後の体育館だけあって人がいねぇ。
しんと静まり返った空間。
普段見てる場所は、人がいねぇだけでこんなにも違う雰囲気になんのか。
「……姉き」
「どうしたの?」
「……渡すだけだよな」
「……うん」
今の沈黙は何だ。
何か、こういうシチュエーションをどっかのドラマで見た事があんぞ。
え―確か、体育館の倉庫に呼ばれて不良三人から殴られる話だったな。
……待て。
今の流れと同じじゃねぇかよ!
「シュウヤ?」
「……はっ! な、何だよ」
「何か顔色悪いけど……大丈夫?」
体育館の真ん中を横切りつつ、心配そうな表情を浮かべてオレの顔を見る姉き。
……そうだ。
良く考えてみりゃ、姉きと二人でケータイを返す為にココ来たんだよな。
姉きの知り合いなんだから、呼び出してボコにする様な連中じゃねえはずだ。
危うく発狂しかけたぜ。
「さ、中に入って」
「姉きは?」
「ここで待ってるから」
冷静になり、口調も落ち着いたなぁと自分で思い始めた所に不思議発言。
示す先は体育館倉庫。
何のつもりか、姉きはオレを一人でこの中に立ち入らせよーとしてる。
「危険は?」
「大丈夫だってば」
「生存率は?」
「もちろん百パーセント」
むう……姉きの表情から読み取ると全て本当の事を言ってる様に見える。
「……入るわ」
「頑張って来てね」
抵抗しても無駄っぽい。
水が流れる川の音。
羽音の調べはホタル達。
邪気で濁った我が心。
淡い緋色に染め上げる。
…綺麗ですねー。
by安倍ナツハ
編集・一ノ瀬クミ