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4―3.下・空色の携帯電話

 流れた『涙』の先。

 特別なコトがあった時、人間の目からは何故か涙がポロポロと流れて来ちまう。

 嬉しい涙。

 悲しい涙。

 悔しい涙。

 探せばたくさんある。

 でも、そうやって泣いた後はすっきりした気分になれんだよな。

 自分を強く見せたい。

 弱い所は見せたく無い。

 理由があって、人前で涙を流す事なんかしねぇヤツが世の中にたくさんいる。

 力抜いて良いんだぜ。

 弱くなって、本当に信頼出来る誰かの胸を借りちまっても構わねぇさ。

 疲れたなら、休んで良いんだよ。


―――――

一時間目―休み時間

 国語は終わんのが早かった。

 まあ、ただ黒板に書かれた日本語をルーズリーフに書くだけだからな。

 しかも、英語や数学みてぇに普段使わねー頭を使う事なんかナシ。

「いないか……」

 教室が騒ぐ中、オレが暴力を奮っちまったアイツら二人組の姿は無かった。

 少しやり過ぎたと思う。

 いくらムカついたからって、殴る事ぁ無かったんじゃねぇかと後悔してる。

 善人と悪人。

 拳を使った時点で、オレも陰口を叩いてたアイツらと何も変わらねぇ。

 傷付けちまった。

 後で謝んなきゃな。

「シュウヤ」

 そう考えてた時、当然っつうか予言通りに姉きが教室に入って来た。

「よ、姉き」

 うわ! もしかすっとセンチメンタルな表情になってるかもしれねぇ。

 擬音で表すと『どよーん……』状態にオレの表情が変わってる可能性がある。

「あれ? シュウヤ」

「な、何だよ」

 まさか気付かれた? 姉きの優しい性格だと心配して聞いて来るから危ねぇ。

 オレを気にすんな。

 自分の事は、自分で解決する。

「ちょっと良い?」

「何を」

 おもむろに言うと、いきなりオレの頭に手を乗せて上から覗き込まれた。

「うわ! やめろよ」

「……白髪が」

 そんな事っすか。

「抜くなっつの!」

「動かないで」

 オーケー、容易くスルーしちまうベタなオチをありがとう。

 一応、姉きはオレの顔を見てつまんなそうにしながら手を離してくれた。

「何か苦労してるの?」

「苦労?」

「良く言うでしょ。生きるのに苦労してる人は白髪が多くなるんだって」

 ちょっと得意気に話す姉き。オレはそんなに苦労人に見られてたのかと認識。

 ま、心配されねーだけでも良かった。

「それよか、見付かったんだろ?」

「うん。ばっちりね」

 ようやく路線が戻った。こんなコトしてる間にも休み時間は過ぎてるし。

 確か、姉きの目的は道で拾ったケータイを持ち主に返す事だったはずだけど。

 ……えー、九時三八分。

「残り二分だぞ」

「えっ?」

「アレ、休み時間」

 どう考えても時間がねぇ。

 姉きは、時計を眺めながら『あちゃー、やっちゃった……』って感じのリアクションを取ってる。

 自動的に答えが見えた。

「……どうすんだ?」

「……ごめんね」

 預かり延長です。

 姉きの行動が、一時間前の慌てて帰る様子と寸分狂わずデジャヴした。

「お前、帰れねぇな」

 青いケータイを右手に乗せ、思わず話し掛けちまった。こいつも可愛そうだな。

「持ち主のトコにさ」

 呟き、再びポケットに戻す。

 オレのケータイと、合計二台が制服の両ポケットに入ってるって寸法だ。

 教室はうるせぇが、こうやって外側から触ってみた感触が何ともイイ。

「……癖になるかもな」

 こうやってると、クラスに一人はいる金持ちの気分になれっから不思議だ。

 制服の重さ、普段なら気にしねぇ百グラム程度の加重でも充分に満足する。

「しかし……どんな人だろな」

 話は変わるけど、姉きはケータイの持ち主を見つけたって言ってた。

 でも、そいつが何年何組に所属してんのかまでは聞けてねぇわけだ。

 ついでに、名前も血液型も長所や短所やら特技まで教えられてねーっつの。

 ……なんも分からん。

 姉きのペースで進む以上、放課後までケータイを返してやれねーかもしれねぇ。

 わりぃ、持ち主。


気付けばそこは深い森。

たった一人で立っていた。

足を掴んだ鬼が言う。

ここから先は地獄です。


…おいおい。


by一ノ瀬クミ

編集・安倍シュウヤ

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