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4―2.中・空色の携帯電話

 自然は生きている。

 あんま実感はねぇけど、確か中学生ん時にどっかの先コーから教わった。

 ちゃんと息してて、人間が吐く二酸化炭素を酸素に変えてくれてるらしい。

 思ったんだけどさ。

 オレらは、普段から世話になってるアイツらになんもしてやれねーんだよな。

 食い物は水。

 残りはずーっと、来る日も来る日も無機質に毎日を生きなきゃなんねぇ。

 自殺も不可能。

 せめて、ありがとうって気持ちだけでも声に出して言ってみねーか?

 きっと気分良いぜ。


―――――

高校―朝のSHR後

 教室がやかましい。休み時間は常識をわきまえねぇヤツらが騒ぎ出す。

 雑談をする。

 ケータイをいじる。

 それらは別に普通だけど、オレがどうしても許せねぇ行動が一つだけある。

「あいつ、暗いよな」

「友達いんのか?」

 オレの隣の席にいる二人組、背の高いヤツと低いヤツの典型的な引っ付き型。

 そいつらが、クラスの中でも大人しい生徒に陰湿な陰口を浴びせてた。

「俺は友達じゃ無い」

「言えてる」

「多分、いないんだろ」

「ははっ、そうだな」

 冷たい目線を送りながら、二人が協力して一人の陰口を叩く凄惨な風景。

 言われてる側は、何とか気にならない様に感情を必死で抑え込んでた。

「アイツら……」

 そんな光景を見る度、殺意にも似た憎悪が体内に渦巻いて行くのが分かる。

 まるで、オレがアイツらに陰口を叩かれている様な感情に捕われた。

 放って置け。

 普段なら、この言葉で片付ける。

 だけど、今日だけは何を言われてもアイツらを許す訳には行かねぇんだ。

 正義感?

 論理的な思考はいらねぇ。

「おい」

 静かに椅子から立ち上がり、ソイツらの席に近付いて無造作に話し掛ける。

「……何だよ」

 目線をオレに移しつつ、ビビった様な表情を浮かべてんのは背の小せぇ方。

 背のでかい方に関しちゃ、目線をずらしたままオレを無視してる。

「お前ら、何してた?」

「……別に」

 そう言ったのはでかい方。

 短い沈黙を破り、陰口を否定する訳でも無く曖昧な一言を発した。

「お前には関係無いだろ?」

「……何つった」

「だから、俺らがアイツの悪口を言おうとお前に説教させる筋合いは無いんだよ」

 言葉を濁さず、罪の意識の欠片も無い言葉を背の小せぇ方は言い放った。

 自分の拳が震えるのが分かった。

「……そうだな、赤の他人に説教される筋合いなんか無いもんな」

「ああ、行こうぜ」

 二人が席から立ち上がる。

「……ふざけんな」

 反射的に、オレは真横を通った背のでかい方の首筋を掴んでいた。

 ソイツの喉から嗚咽が洩れる。

「お、おい!」

 オレに掴みかかる小せぇ方の顔面を、左腕の裏拳が容赦無く捉えた。

 大きくよろめき、空席になっていた机に激しくぶつかって床に倒れる。

「痛ってぇ……」

「うう……」

 二人のうめき声に、今まで騒がしかった教室内が嘘の様に静まり返った。

「聞け、バカ共」

 生徒の目線が注がれる。オレの放った声が教室内に小さく反響していた。

「お前の陰口が、どれだけアイツに傷を負わせたか分かってんのか?」

「う、助け……」

 首筋を掴む手に力を込める。苦痛に歪む表情がはっきりと見えた。

「それから、お前。心に負った傷がどれだけ治りにくいか分かるか?」

「うう……」

 頬を抑えながら、小せぇ方はオレの言葉にも僅かな反応しか示さなかった。

「良く聞け! 言葉ってのは他人を傷付ける為にあるんじゃねぇんだ!」

 大声で怒鳴る。完全な沈黙。

「誰かが苦しんでる時、そっと助けてやる為に言葉っつうのはあんだよ」

「ぐ……」

「それが分かんねぇなら……二度とオレの前で陰口を叩くんじゃねぇ!」

「わ、分かった……」

 でかい方の首筋から手を話す。その場へ崩れる様に膝を付いた。

「今度言ってみろ……殺すからな」

 それが最後だった。

 二人は、怪我をした患部を抑えながら逃げる様に教室を出ていった。

 それからすぐに、静まり返っていた教室に賑やかさが取り戻された。

「……はぁ、はぁ」

 必死に呼吸を整える。気が付けば休み時間は残り五分になっていた。

「シュウヤ」

「あ……姉き」

 珍しく、教室に姉きが入って来た。

 二年生の教室に、三年生がいるなんつーコト自体が全体的に珍しい。

「どうしたんだ?」

「うん。あの携帯あったでしょ」

「ああ、コレか」

 そう言われ、ポケットから取り出す。

 あの時のケータイは、姉きの指示通りにバッチシオレが預かっといた。

 あのケータイ、待ち受け画面にオレらの高校名が書かれてあった。

 つまり、同じ学校の誰かだ。

 それプラス、可愛いくまのストラップから女子の誰かだと予想出来る。

 もし電話が来れば、すぐにでも集合してケータイを直接渡せっからな。

「ちょっと貸して」

「はいよ」

 オレから受け取って、何故か電池部分をパカッと開いてフタを確認し始める。

「何してんだ?」

「名前書いてあるんだって」

「そこにかよ!」

 取り合えず突っ込む。

 どーやら、持ち主が見付かったらしい。

「良かったじゃんか」

「うん、あの子喜んでた」

 安堵感も束の間、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。

「やばっ! 後で来るから!」

「え? あ……」

 そう言い残し、誰かにぶつかりそうになりながらダッシュで教室から出ていった。

「はえぇな……ん?」

 ふと携帯の裏を見ると、電池パックのフタが無かった。何か物足りねぇ。

 一瞬探しかけたけど、姉きが慌てて持って行っちまったコトを思い出した。

「ま……良いか」

 取り合えず忘れよう。

 休み時間までさ。


人の痛みを知ってるか。

傷と凶器が対を成す。

お前は誰も救えない。

愛する者の苦しみも。


…この格好付け。


by安倍シュウヤ

編集・安倍ナツハ

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